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水瀬菜音
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#岩本照
絶対辰哉
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#BL
うさみみ
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遥か昔。まだ人と幻獣が今より近くに暮らし、世界の境界線が曖昧だった時代。
誇り高きフェンリルである父さんは、一人の人間の女性を愛した。
交わる筈のない、決して結ばれてはいけない禁忌の恋。それでも二人は互いの手を離さず、世界の目を盗むようにして静かに愛を育んだ。
人と幻獣の血を半分ずつ受け継いだ、一人の男の子。それが──俺だ。
人と同じように二本足で立ち、同じように笑い、同じように涙を流す。
けれど、ひと度感情が昂って怒りを見せれば、俺の瞳は鋭く黄金色に輝き、 父さんと同じ姿へと変わることだってできた。
自分が何者であるか、決して誰にも明かしてはならない。それが、小さな俺に課せられた、家族を守る為の絶対の秘密だった。
しかし、そんなささやかな平穏が長く続くほど、世界は優しくなかった。
ある日、父さんの元へ群れからの冷酷な呼び出しがかかる。掟を破った対価を支払う時が来たのだ。父さんは一切の抵抗も言い訳もせず、静かにそれを受け入れた。
「とうさん…?」
背後では、これから訪れる終わりを察した母さんが、声を上げて泣き崩れていた。 連行される間際、父さんは一度だけ振り返り、幼い俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
『…照、お前は誰かを守る為に生きろ。』
それが、父さんが遺した最後の言葉となり、二度と戻らない背中となった。
群れのリーダーが下した一握りの情けにより、処刑を免れた母さんは、幼い俺の手を引いて生まれ育った村を捨てた。
名前を変え、住む土地を変え、人の目を恐れるようにして、ただひっそりと二人きりで暮らし続けた。
やがて時は流れ、俺は成人を迎える。 逞しい体躯へと成長した俺だったが、そこから奇妙な停滞が始まった。
十年が経っても、二十年が経っても。 俺の容姿は、あの日に完成された若い男の姿のまま、殆ど歳を取ることがなかった。
その一方。母さんの髪には一本、また一本と白いものが混じり始める。日に日に小さくなっていく母さんの背中を見つめながら、俺は残酷な現実に気付いてしまう。
俺だけが、変わらない。
流れる時間が違うのだ。俺の中に流れる幻獣の血が、人間としての真っ当な老いを拒絶していた。
ある嵐の夜。ベッドに横たわり弱々しく息を吐く母さんが、俺の手を握って静かに告げた。
「照…もう、お行きなさい。ここを出て、あなただけの場所を…。」
「…母さんっ…嫌だ…置いていかないでくれ…!」
「照はこれからも、ずっと長い時間を生きていくの。でも私は、もう限界みたい…。」
唯一だった愛する家族が、俺を置いて先に擦り切れていく。その絶望に耐えかねて、俺の目から涙が零れ落ちた。
「母さん…最期まで、一緒に居させてくれ。父さんと、一緒に。」
せめて最期くらいは。
母さんが一番愛した男の姿で送り出したくて、俺はその身体の輪郭を解いた。
冷たい風を纏い、大きな銀色の狼へと姿を変え、静かに母さんの身体に寄り添う。
「あな た…今、行きます から…神よ、どうか私をお導きください…。」
目の前に現れた夫の幻影に、母さんは狂おしい程の愛おしさを滲ませ、その胸元にあった銀のロザリオを力なく包み込んだ。そして、穏やかな笑顔のまま一筋の涙を流し、静かに息を引き取った。
「っ…母さん………母さん…ッ!!」
人間の姿に戻った俺の嗚咽が、無情にも夜の静寂に吸い込まれていく。握り締めた母さんの手は徐々に、徐々に氷のように冷たくなっていった。
次の日。灰色の空の下、たった一人で彼女の埋葬を行った。遺体すら残されなかった父さんの代わりとして、俺は抜き取っていた自身の銀色の毛をそっと土の中へと入れた。
だが、墓標の前に立ち尽くす俺の心には、祈りの言葉など一言も湧いてこなかった。母さんが神の信仰者であったことも、あの最期の瞬間、ロザリオを手にするまで知らなかったのだ。
俺達を守るために素性を隠し、優しく微笑みながら、母さんは胸の奥でずっと、俺たちの家族を引き裂いた元凶であるはずの存在に祈りを捧げていた。それが、どうしても許せなかった。
「…何が掟だ。何が神だ…。母さんは最期まで、お前らに縋ってたのに…っ!!」
掟という名の理不尽な規則で父さんを奪い、残された母さんの心に、生涯消えない残酷な空白をもたらした。そして、真っ当に歳を取ることすら許されず、これからいつまで続くか分からない孤独の荒野をただ一人で彷徨うことになる俺を、この世界に置き去りにした。
「誰かを愛することがそんなに悪いことなのか…?種族違いの愛を罪にしたのは、勝手に決めたお前らじゃねぇか…!愛し合ったことの何が悪いんだよ…ッ!!なぁ!!!」
胸の奥底から湧き上がる怒りと悔しさが一気に限界を超え、俺は母さんの遺品であるロザリオへ叫ぶ。
こんな十字架、母さんの傍に置いておけるか。母さんを縛り付けた神のものなんて、ここには要らない。
墓に入れることすら拒むように、俺は遮るもののない丘の縁へと歩み進めると、遥か遠くの虚空へ向かって、その銀のロザリオを全力で投げ放った。
ロザリオは曇天の光を鈍く反射して、一瞬だけキラリと虚しく輝き、綺麗な放物線を描いて深い谷の底へと真っ逆さまに落ちて消えた。
規則に縛られた神の奇跡も、救いも、全部そっちで勝手にやってろ。俺は何にも縋らずに生きていく。
果てのない悔しさに涙を滲ませ、荒い息を吐きながら俺は投げ終えた右手を強く握り締めた。せめてもの手向けとして、土が盛られただけの墓標の前に、母さんが好きだった野の花をそっと置く。
「母さん、ごめん。俺は…神への祈りなんて、できない。」
神なんて、信じない。 俺はそう胸の奥深くに刻みつけ、振り返ることなく踵を返した。
孤独な旅路の果てに訪れた、深い森の最奥。木々がざわめき、誰も踏み入れなさそうな、けれど優しく陽の光が拓けたその場所を見つける。
この時の俺は、まだ知らなかった。
この場所が、やがて行き場を失った幻獣たちの帰る場所になり、
《誰かを守る為に生きろ。》
父さんの最後の言葉を、何百年越しに果たすことになるなんて。
【禁断の愛から生まれた子:照】
フェンリルと人間のハーフ。訳ありの幻獣たちの群れのリーダー。氷の力を持つ。
神は嫌いだが、それに仕える人間達は関係ないと考えており、魔獣から守る為に道中の森をパトロールしている。
幻獣たちとは逆に、基本的には魔力を使わない人の姿。感情が昂ると擬人化中でも目の色が金色へと変わる。
変化すると、シルバーの毛並み。目は黄金色。
※画像はAI生成です。