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第十三章 糸の導く先、地下の大工房
黒糸は、まるで生きているかのように震えながら朗たちを坑道の奥へと誘っていた。
その黒は、ククレアの糸よりもずっと濃く、ずっと冷たい。
“操るための道具”というより――
“何かを見せるための誘導” に近かった。
影が低くつぶやく。
「……この糸、まだ誰かの意思が残っている。」
朗は黙って頷いた。
桜姫は胸元を押さえながら歩く。
まるでその先に、弟の気配があると信じて進んでいるようだった。
坑道は深く、足元の石は次第に光を帯び始め――
やがて、大きな空洞へと開いた。
「……っ、これは……!」
雷花が息を呑む。
そこは広がり続ける巨大な地下都市。
天井には無数の光球が浮かび、まるで逆さの星空のように白く光を放っている。
複数の炭鉱から流れ込む鉄道、蒸気と火花を上げる工房、金属がぶつかる甲高い音。
地上どころか、どんな国とも違う――
**金属と光で作られた“機械の街”**だった。
桜姫がかすれた声で言う。
「ここが……“地下の大工房”……?」
そのときだった。
「お客様、止まりなさい」
澄んだ、しかし冷えた声が降ってくる。
朗たちが見上げると――
赤いドレスを翻し、白いロボットの女性が光球の間から静かに降りてきた。
サファイヤの瞳。
白金の肌。
ドレスの裾には無数の金属線が走り、光の粒が舞う。
守護者エリス。
腕を軽く振ると、そこからレーザーの軌跡が淡く光った。
「ここは“創造の都”。許可なき者は排除されます。
用件を――」
「おーいエリス!客にレーザー向けんなって言ってんだろ!」
どこからともなく爆音。
次の瞬間、赤い瞳をギラギラさせた男が駆け込んできた。
肩に巨大ツルハシ。
服には機械の部品がガチャガチャついている。
赤瞳の黒だ。
「よっしゃ、いらっしゃい新顔!ここ最高だぞ!感動する準備はいいか!?」
雷花が半歩下がる。
「う、うっさい……!」
エリスがため息をつく。
「黒、あなたは少し黙ってください」
黒は元気に親指を立てた。
「黙るのは無理だ!!」
影が桜姫を庇いながら前へ出る。
「我々は、ある“糸”を追ってここに来た」
エリスが首を傾げる。
「糸……?」
朗は懐から“黒糸”を取り出した。
その瞬間。
金属の何かが近づく音がした。
六本の機械アームが、蜘蛛のように壁を這う。
そして現れたのは、葵色の瞳を好奇心で光らせた男。
汚れた開発者の服。
背中に背負った六本のアームは、勝手に動き回っている。
科学者リオ。
「ほう……それ、少し見せてくれない?」
朗がそっと渡すと、
リオは糸を光にすかし――瞳が一瞬、怪しく揺れた。
「……これは、“操り糸”の源流だ。
ククレアのものでも、ただの道化のものでもない」
桜姫が息を呑む。
「では……弟は、この糸の先に……?」
リオは口の端を上げた。
その笑みは、どこか真実を含みながらも、何かを隠している。
「糸の主は――この街のさらに地下。
本来、普通の人が触れてはいけない“最深部”にいるよ」
黒が興奮して叫ぶ。
「やっぱ地下かぁ!!絶対ヤバいだろそこ!最高じゃねぇか!」
エリスは鋭い声で制した。
「黒。落ち着いてください。
……旅人たち。あなたたちが糸に導かれてきた理由――
恐らく、この街に眠る“闇の舞台”に関係があります」
影が眉をしかめる。
「闇の舞台……サギか」
リオは糸をそっと返しながら、静かに告げる。
「でも安心して。
ここは創造の都。
あなたたちが進むというのなら――」
六本のアームが一斉に朗へ向けて伸び、金属片が組みあがっていく。
完全に予測不能な動きだった。
そしてリオが笑う。
「君たちを、面白いところまで案内してあげるよ」
朗は背筋に冷たいものを感じながらも、その手を受け取った。
黒糸が震える。
深層が呼んでいる。
闇が舞台の幕を上げようとしている。
――弟の真相も、サギの意図も、その先にある。
朗たちは互いに視線を交わし、
地下大工房の心臓部へと足を踏み入れた。
・つづく