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変態は倒れた。
膝と頭を同時に地に落とし、女性もののビキニを履いた尻を空に突き上げながらうめき声をあげている。
「うわー……」
「なんだか可哀想な気分になるね」
浜辺にいる女性達が、ボソボソと同情を口にする。対して男性陣は、誰一人口を開く気分になれないようだ。
そんな静まり返った海岸で、アリエッタはうーうー唸っていた。
「ど、どうしたのアリエッタ、何か嫌なことでも……確かに嫌なモノはあるけど」
「うー……」
ミューゼがなんとか宥めようと優しく語りかけるも、相変わらず敵意の籠った眼差しを変態の下半身に向けている。
(過去に何かあったのかしら。まさかこんな幼いのに汚されたりとか……)
その心境を推測していると、再びアリエッタが動き出した。
感情を無くしたような、冷たい瞳で変態を見据え、その尻の傍に立つ。そして、無駄のない動きで掬い上げるように、足の間の布のある部分を叩き上げた!
べしっ
「ほがっ!?」
『うっ!?』
変態と一緒に、周りの男達も一緒に呻き声をあげ、顔色を変えて目をそらす。天使にしか見えない美少女による酷い仕打ちは……まだ始まったばかりだった。
べちっ
「はうっ!?」
ぼふっ
「あ゛っ!」
何度も何度もその場所を叩くアリエッタ。その表情は、叩くほどに晴れやかになって……はいかずに、暗く光を無くしていく。
「うぅ……」
「どうしたの? 様子が変よアリエッタ……」(ちゃんと話さえ出来れば、悩みくらいいくらでも聞いてあげるのに!)
既に浜辺の男達は、あまりの恐怖に震え上がっている。逃げ出す者もいる。
しかし相手は本物の変態。止めることも助けることも躊躇してしまい、直視しないように成り行きを見守る事しか出来ないのだった。
ネフテリアやピアーニャですら、どうしたら良いのか分からず、ミューゼに任せる以外の考えが浮かんでいない。
何回か叩いていたら、突然アリエッタの手が止まった。
「………………」
「アリエッタ、落ち着いた? 大丈夫?」
恐る恐るアリエッタに近づこうとしながら声をかけるも、変態の股間が近い為、近づくのに躊躇する。しかし、攻撃的な目で変態を眺めるアリエッタが心配で、そんな事はすぐに気にならなくなった。
ミューゼに気付いたアリエッタは、泣きながら変態を指さした。
「うぅ…みゅーぜぇ……ぐすっ」
(もっと小さい頃に何か変態に対して嫌な事でもあったのかな。あり得る話よね、この可愛さだし、エルさんも超美人だったし)
攻撃的な態度から、アリエッタの過去を想像する。確かに美しい親子が変質者の被害に遭うというのは、そうそうある事では無いが、普通に聞く話ではある。むしろそれが一番しっくりくる。
(人里で酷い目にあった親子が、森に逃げて一緒に暮らす。そしてまだ幼い時にエルさんが……酷い話よね)
辻褄は合うが、もちろん転生したてのアリエッタに限って、そんな悲劇など過去に起こる訳が無い。
しかしそれを否定する材料も無く、ミューゼの中では可哀想な想像だけが膨らんでいった。
その間も、泣きながら怒りを膨らませていたアリエッタ。どうやら我慢の限界の様子。
「むーっ!」
わしっ
「んほおっ!?」
なんと変態の足の間に手を突っ込み、何かを鷲掴みにした。
「ひぃぃぃ!?」
「まだ何かやるつもりか!?」
「もうやめてくれぇ……辛い……」
浜辺の所々から男達の悲鳴が上がる。もちろんその意味が分からないアリエッタが止まる事は、絶対に無い。
アリエッタもこれで最後にするつもりで、感情に任せて動いていた。
「んにーーーーーーっ!!」(これ本当は僕にもあったんだぞ! 羨ましいぞこの野郎! これさえあればみゅーぜと結婚出来たかもしれないんだ! ママのバカアァァァァ!! かえせえええええ!)
『ギャーーーーーーー!!』
「いやーっ! そんなの握っちゃダメえぇぇぇ!」
浜辺に悲鳴の大合唱。あろうことか、アリエッタはソレを力いっぱい引っ張った。
理由はなんと、失ったモノへの執着と嫉妬、そして八つ当たりであった。その気持ちを言葉抜きで理解出来る者はまずいない。原因となったエルツァーレマイアも女である為、首を傾げながら謝る以上の反応は出来ないだろう。
あまりの惨劇に、ミューゼはたまらずアリエッタを強引に抱き上げ、変態から引き剝がした。
「アリエッタ! めっ!」
ミューゼからの叱責で、体をビクッと震わせるアリエッタ。そのまま抱き着いて大声で泣き始めた。
「よしよし、本当は怖かったのね。すぐに手とか綺麗に洗ってあげるから、もう大丈夫だから……」
魔法で水を出し、直接握ってしまった手を中心に、洗い流していく。変態が倒れた事で動けるようになったパフィとクリムも加わり、泣きじゃくるアリエッタを慰めながら、ネフテリアの元へと戻っていった。
その間に、変態を取り囲むピアーニャとシーカー達。直接的な被害は少なかった事で、逆に変態の処遇に困っている。
「とりあえず、コイツをとおくに、はこんでしまいたいのだが……」
「お前やれよ……」
「嫌だよ触るのも怖ぇよ」
「途中で目を覚ましたらどうすんだ」
「私も嫌だからね」
誰も好んで節操のない変態に触ろうとはしない。その様子を見たピアーニャは、ため息をついてから『雲塊』を使って手足と胴を固定し、ぶら下げるように持ち上げた。
「さわらなくていいから、いっしょにこい。ケイビかなにかにつきだしてくるぞ」
「了解~」
「私達は後処理…というか、混乱した人達にあの子達が巻き込まれないように対処しておきますね」
「たのんだぞ」
変態を持って、ピアーニャと数人のシーカーが浜辺を離れていった。それと同時に残ったシーカー達も警戒を解いて遊び始め、周囲へ『もう大丈夫』という雰囲気をアピールし始めた。
「なぁ、シーカーのお姉さん……」
そんな中、若い男が意を決してシーカーの1人に近づいた。
「なに? あの子達の事は答えられないわよ。ナンパなら歓迎だけど」
「歓迎なのかよ!? いやまぁ気になる事は多いけどよ……あの白い女の子、あんな風に怒るって事は、昔そういう事で酷い目に合ったって事だよな?」
「……分からないけど、あれだけ可愛いからね。親がいない事も関係するのかもしれないわね」
「そっかー、だよなぁ……」
先程の光景を見てしまった大人達。遠くからでも少女の怒りを感じ、なぜソコに対して異常なまでに怒っているのかを考えた結果、ほぼ全員ミューゼと同じ答えにたどり着いていた。
こうしてアリエッタの存在する筈の無い『悲しい過去』が、知らないうちにたくさんの人へと広まっていく。
後に、白い少女のような被害者を出さない為、そして今日のような無実の変態の惨劇を繰り返さない為に、各リージョンの性犯罪者に対する取り締まりと罪の重さが格段に強化される事となる。想像による勘違いとは恐ろしいものである。
「せっかくだから、このままお話でもしない? って彼女いたりする?」
「いや……男友達と3人だけど……えっ」
「じゃあ私も仲間呼ぶわね。おーい!」
先程の事を忘れて楽しもうとする人々が少しずつ増えていき、恐怖に染まっていた浜辺は、徐々に賑やかさを取り戻していくのだった。
しばらくしてロンデルが戻ってきた。
パフィは事情を説明し、今日の所は宿に行くことにした。変態に絡まれ、アリエッタが怒って、そんな濃い事件が一度に起こった後なので、そのまま遊ぶ気分にはなれなかったのだ。
「分かりました。まぁこのヨークスフィルンの楽しみは昼だけじゃありませんし、今日はもう宿の方を楽しみましょう」
その言葉の意味は分からなかったが、まだ数日楽しむ予定である。急いで遊ばなければいけない理由は無い。
すっかり大人しくなったアリエッタと手を繋いで、パフィ達は水着姿のまま宿へと向かっていった。浜辺に面した大きな宿をリージョンシーカーが団体でとってある為、宿で着替えて直接海へと行き来出来るのである。
アリエッタ達が宿に向かってしばらくしてから、変態を捨てに行ったピアーニャ達が戻ってきた。
「おぉ? ロンデルもどっていたのか」
「総長、お疲れ様です。すみません、私が離れた隙に女性に対処しにくい事が起こったようで。事情は聞きましたが、変態はどうなされました?」
「……なんか、にたようなヘンタイがたくさんやってきて、ゼンリョクであやまられたぞ」
「はい?」
「で、ミチのまんなかでシリをだしてきて、すきなだけバトウしてくれっていわれて、キモチワルイからアイツをなげつけてきた」
「はぁ……」
ロンデルはとりあえず聞くのをやめた。ピアーニャと一緒に行動していたシーカー達も、目を虚ろにしながら元気無く戻ってきたので、これ以上触れたくないと思ったのだ。
そして誰もが、『副総長なんでいなくなった!』と思っていた。体術ではロンデルと互角に戦える者はそうそういない。そんな戦力がいれば、変態がやってきた時点で止める事が出来たであろう。対応能力も副総長というだけあってかなり高く、的確な指示も出せたに違いない。そうなれば、アリエッタが泣きながら攻撃する事もなかっただろう。
しかしそれでロンデルに当たるのは違うと、シーカー達も分かっている。自分達さえ強ければ収める事ができたのだ。その気持ちをため息に乗せて捨て、もう終わった事だと気持ちを切り替える為に、海水浴を楽しむ事にした。
「で、そっちはどうだったのだ? チがどうとかいってたが」
「ああはい。血溜まりは確かにありました。そして近くに血痕と足跡も発見し、追跡しました。方向的に宿のいずれかだとは思いますが、現状聞き込みしか調べる方法は無いでしょうね」
「ん? チのぬしはいなかったのか」
「ええ、引きずった跡などもない事から、自力で走り去ったと思われます。今の所は用心するしかないかと」
「……なんかジケンというよりは、ツマランかんじのヨカンしかしないな」
「同感です」
2人は話を終わらせ、リリとフェルトーレンがその辺のシーカーを捕まえては砂に埋めていくのを眺めていた。埋められたシーカーの男達も、至近距離でリリの水着姿を長時間堪能出来て、幸福の絶頂という顔だけを出していた。そこにはもう、暗い顔をしている者はいなくなっていた。
目立つ集団がそんな遊びをして、周囲に影響が無いわけがない。その日、浜辺ではたくさんの人が体を砂に埋められ、後から来た人がその光景をみてビックリするという事が相次ぐのだった。