「~~~~っ、うぅう……っ!」
ボロッと涙が零れ、私は嗚咽し始める。
「――――っ、私は……っ、フラれて……っ、昭人を悪者にしたかっただけだった!」
「……落ち着け」
尊さんは私を抱き締め、背中をさする。
――気づかなければ良かった。
――気づきたくなかった。
私は可哀想な自分に酔い、長年寄り添った恋人の苦しみに気づけずにいた。
「お前がフラれて傷付いたのは事実だろ。必要以上に自分を悪者にしなくていいんだよ。それに俺から見れば、九年も付き合っていたのに、お前を気持ちよくできず、本当の意味で幸せにもできなかった向こうにも落ち度があると思うけど」
尊さんは私を見つめ、頬に流れた涙をチュッと吸う。
「でも……っ」
「『自分がすべて悪かった』事にして、田村クンとまた付き合えるのか? 彼が仮にOKしても、お前は罪悪感を抱えたまま付き合う事になるんだぞ」
「~~~~っ、付き合わな……っぃ、……っ」
もう、私と昭人の道は分かたれてしまった。
この一年私が悲しみに明け暮れている間、昭人は重たい荷物を切り離して、ようやく自分の人生を歩み始めた。
「俺はお前を泣かせない。依存だろうが何だろうが、全部受け止めるよ」
急に言われ、私はハッとして尊さんを見る。
彼の真剣な表情を見て、「縋ってしまいたい」と思った――、けど。
「……共依存になる」
「それの何が悪い? お互いが無理せず付き合えるなら関係ないだろ。俺にはお前が必要だし、お前は俺を心から笑わせてくれるんだろ? ……もう諦めたか?」
皮肉げに笑われ、私はまた涙を零す。
「――――性格悪っ」
「何を今さら」
尊さんは小さく笑い、私の頭をクシャクシャと撫でてくる。
「過去を振り向くなよ。終わった男の事を考えても、幸せになれる訳じゃない。お前を幸せにするのは、目の前にいる俺だ。それを忘れるなよ」
「…………それで口説いたつもりですか」
心を揺さぶられるのが悔しくて、私は憎まれ口を叩く。
「言ったろ? お前が俺を快く思っていないのは分かってるって。一回口説いて駄目なら、何回もトライするよ」
「…………くそったれ」
恥ずかしくて、私は照れ隠しに吐き捨てる。
けれど尊さんはニヤニヤ笑って私の顎をとらえると、チュッとキスをしてきた。
「悪い口だな」
「~~~~そういうの……っ」
抵抗しようと思ったのに、ソファの上に押し倒されてもう一度噛み付くようなキスをされた。
「もう忘れろよ。俺といる時間が勿体ない」
今度は真顔で言われ、ドキンッと胸が高鳴る。
「確かに、お前の話を聞くためにホテルに来たけど、一晩中元彼の未練を聞くためじゃない」
もっともな事を言われ、私は黙り込む。
「忘れるための愚痴なら聞いてやるよ。でもヨリを戻したい、申し訳ないって泣き言を聞くほど俺は人ができてない。そこまで優しくねぇよ」
「っ…………」
私は横を向いて涙が流れたのを誤魔化し、尊さんの胸板を押す。
「私……っ、尊さんの事だって利用するかもしれない」
「利用しろよ。傷の舐め合いでも、それが愛じゃないと誰が言った? 本当の愛ってなんだよ。世間様から認められて、褒め称えられる純粋な愛じゃないと、付き合ったら駄目なのか?」
「うぅ……っ」
――押し流される。
「付き合う事だって、結婚だって、好き嫌いも愛も、明確な〝正解〟がある訳ねぇだろ。惹かれ合ったなら付き合って、魅力的だと思ったらセックスして、好きになれそうだと思えば手探りで進んでいけばいい。死ぬまで連れ添った高齢の夫婦だって、自分の人生の何が正解で、何が間違えていたかなんて正確には分かりゃしねぇんだよ。その歳になるまで、人生の選択肢は無限にあったんだから」
「……っじゃ、じゃあ……っ、どうやったら幸せになれるの……っ? ――――もう、……失敗したくない……っ!」
考えるより本能から言葉が漏れ、――――納得した。
コメント
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尊さんの前では 思ったことを全て吐き出しても大丈夫だよ😢 そのままの朱里ちゃんを受け止めてくれるから....🥺💓 お互いにとことん話し合い、本音を言い合い楽になって.... そしてもっと絆を深めてね💝
思ってること全部尊さんに吐き出しちゃえ〜!!!そしたら楽になるし、尊さんは吐き出すものぜーんぶを受け止めて、確信を突いて一緒に新しい道へ踏み出してくれるよ〜😭