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シの旋律

7 - 第5話:エモーション・キル

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2025年07月05日

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第5話:エモーション・キル

「感情は、ただのノイズだ」

そう言って音を鳴らす女がいた。

名はイチカワ・メノ。

契約EDM作曲者。年齢不詳。黒髪は耳の下で直線的にカットされ、唇の色は悪い。

防音素材で作られた灰色の和服のような衣装に身を包み、首元には古いアナログのメトロノームを下げている。


彼女は、ある精神医療機関向けに「感情切除用EDM音源」を提供している。

今日納品するのは、《Emotion_Kill.ver.3.2》。

効果は、「悲しみ・後悔・怒りを30分間だけ消す」こと。





その頃、病院の隔離室にいた少年、ミナセ・トオル(15)は、

Tシャツにジャージ、左手に常時取り付けられたモニター付きの耳機をつけていた。

トオルは、感情起伏による強迫行動障害に苦しみ、

定時にドラックミュージックを処方されていた。


再生中の曲は、《soft_reset_d》──

副作用は「過笑い」と「感情反転」。


「もういやだ……笑ってるのに、全然楽しくない……!」


トオルは叫ぶが、顔は笑っている。

泣きたいのに、ドラックの効能で“笑顔だけが貼り付いている”。





担当医は言う。


「この子、ドラックがもう効かなくなってきてるんです。

でも、感情そのものを切るのは倫理的に……」


「それ、ドラックで壊してきた側が言う?」


メノは静かに返した。


「私は“切るだけ”。

あなたたちは“演じさせてきた”。

違う?」





納品準備。

メノはEDM音源の最終調整を行う。

音は“無音に近い連続微振動”。

人間の“感情生成域”を振動で撹乱し、一時的に無感状態をつくる構造。


彼女は言う。


「EDM作曲者はね、“感情が壊れてる”から作れるんだよ。

泣いたあとに笑えなくなる人間が、音で他人の感情を止めるんだ。皮肉でしょ?」





再生。


トオルの耳に、《Emotion_Kill》が入る。


はじめは反応がなかった。

が、1分後、彼は笑うのをやめた。


「……あ、何も、感じない」


笑っていない。

けれど、泣いてもいない。

ただ、目を開けて、壁を見ている。


メノはファイルを閉じて言う。


「それが“エモーション・キル”の効き目。

笑顔で死ぬよりは、ましでしょ?」





その夜、トオルは紙にこう書いた。


「笑顔がないと、 自分が“いない”気がした。」







そしてメノは、帰り道の電車で、

ドラックミュージックが流れる車内広告を見上げた。


「今日の笑顔、保ててますか?」


彼女は答えず、

メトロノームをひとつ鳴らした。


カチッ……カチッ……

感情のない音が、静かに揺れる。





🌀To Be Continued…




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