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*****


『何かあったか?』

ちょうど会社に戻った時、雄大さんからメッセージが入った。

ポップアップで確認して、既読をつけなかった。

ホテルを出て帰りの車を断り、歩き出した時、雄大さんから着信があったが、出なかった。

繕える気がしなかったから。

わかっていたこととはいえ、面と向かって反対されてしまうのは、想像よりダメージが大きかった。

「馨?」

肩に手を置かれ、我に返った。

「部長、今日帰って来るんじゃないの?」

真由が心配そうに覗き込む。

ハッとして正面のパネルに掛けられたデジタル時計を見る。パソコンのディスプレイを見つめたまま、一時間も経っていた。

終業時刻を十五分過ぎ、数人が帰り支度をしていた。

「大丈夫?」

真由には、雄大さんのお母さんとの会話をざっと話した。

部長に全て話すべきだ、と真由は言った。

隠しておけることではないのは、わかっている。けれど、気が重かった。

「ご飯食べながら、さくっと話せばいいのよ。『出張、どうだった? 私はあなたのお母さんに会ったわよ』って」

思わず笑ってしまった。

「うん」

今日の夕飯は、今朝のうちに軽く煮込んでおいたビーフシチュー。帰ってもうひと煮するだけ。

私が帰ると、部屋は明るかった。

「お帰り」と、雄大さんが玄関まで出迎えてくれた。

「ただいま。早かったね」

「早く帰って来いって言っただろ?」

雄大さんが私の腰を抱き寄せて、キスをくれた。

ビーフシチューの香りが、玄関まで漂う。

「温めてくれたの?」

「ああ」

「ありがと」と言って、今度は私からキスをする。

「何かあったか?」

「え?」

「お前からキスしてくれるの、珍しいから……」

ドキッとした。

「そういうこと言うなら、もうしない」

「俺がいなくて、少しは寂しかった?」

今度は、深いキス。舌を絡ませながら、私たちはしっかりと抱き合った。

雄大さんの手が腰から背中に上昇し、方向を変えて胸までたどり着くと、私に容赦なく叩き落とされた。

「お腹空いた!」

「はいはい」

ビーフシチューは任せ、私は着替えに部屋に行く。


私がお母さんに会ったと知ったら、雄大さんはどうするのだろう……?

お母さんを責める?

勝手に会いに行った私を責める?

雄大さんが望むなら別れると言った私を、責める——?


たった四日前の、人生最上のプロポーズが夢のよう。


ちゃんと、話さなきゃ。


私は意を決して、キッチンに向かった。

ダイニングテーブルには、ビーフシチューとサラダ、ご飯が並んでいた。

「酒、飲むか?」と、雄大さんが冷蔵庫を開けながら聞く。

「お水でいい」

雄大さんはビールの缶とミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。

私はそれを受け取って、グラスに注ぐ。

「出張、どうだった?」

「ん? ああ。今回は副社長のお供だからな。作り笑いで疲れたよ」

「お疲れ様」

「お前は? 何かあったか?」

「うん……」

私はグラスを持って、自分の席に座る。

「雄大さんのお母さんに会ったよ」

何でもないことのように、言ったつもり。

「は……?」

「きれいな人だね。澪さんはお母さん似だね」

手を合わせ、いただきます、と言ってスプーンを持つ。

「何で、母さんが?」

スプーンを入れると、牛肉がすんなり割けた。いい、柔らかさ。

「私たちの結婚は認めないって」

今朝、味見した時よりコクがあって、美味しい。

「勝手なことを——!」

雄大さんは眉間に皺を寄せ、ガタンッと勢いよく立ち上がると、リビングのテーブルの上のスマホを手にした。

「雄大さん!」

お母さんに電話しようとしているとわかり、雄大さんの手からスマホを奪う。

「俺の知らないところでこんな嫌がらせして——」

「そんなんじゃない」

「どんなんだよ!」

雄大さんが私の手からスマホを奪い返そうとし、私は両手でしっかりと抱えた。

「落ち着いて!」

「落ち着けるかよ!」

「雄大さんから連絡しなくても、お母さんから連絡来るから!」

「なんで——」

言いかけて、やめて、私の顔をじっと見る。

「何を言われた?」

「結婚は認めないって……」

「それは、俺と別れろってことだろ。お前は何て言った?」

私が別れを受け入れたと思ったのだろう。

雄大さんが私の肩を掴む。痛いくらいに力を込めて。

「何て言ったんだよ!?」

「……雄大さんが……望む通りにするって……」

反応が怖くて堪らないのに、目を逸らせない。

「お母さんは……あの写真を……持ってたよ……」

『あの写真』がどの写真のことかは、すぐにわかったようで、雄大さんは私の肩から手を離した。

「ごめ——」

スマホを抱き締めたままの私を、雄大さんが抱き締める。

「ごめんな?」

私はぶんぶんと首を振る。

「うちの親には、俺からちゃんと話すから」

今度は、小さく頷く。

「俺が望むのは、馨との結婚だから——」

私は、大きく、頷いた。

共犯者〜報酬はお前〜

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