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鳴り止まない拍手。素晴らしいと、泣くように拍手を送る人々。私が彼らに送る拍手は、これ以上好き勝手にさせないというけじめの拍手。でも、心の何処かで、お似合いだと思ってしまっている自分がいて、酷く憎らしかった。どうしてだろうか。あの、金粉と銀粉の舞を見てしまってから、私が、彼の隣に立つことで、彼を幸せにできるのかと疑問に思ってしまうのは。でも、私は、あの人の隣にいたい。もっと、隣で……リースの、遥輝の笑顔を見ていたい。笑わせたかった。
(大丈夫。私ならできる)
彼らは、カーテンコールを聞くように、お辞儀をする。思えば、このパーティーは、前の世界ではなかった催しもの。だから、彼らのために開かれたようなパーティーだと改めて思った。彼らが仲慎ましい様子を見せびらかすための舞台。
ああ、どれだけ、エトワール・ヴィアラッテアは強欲なのだろうか。こんな、偽物の世界で、偽物の舞台で踊っていることに、優越感でも抱いているのだろうか。不思議だ。わからない。分かりたくもない。
彼らがお辞儀をし、囲まれ始めたときに、私達も挨拶に行くことにした。一歩、一歩と近付いていくにつれ、自分の心臓が煩いほど鳴っていることに気がついた。この鼓動が知られたとしても、どうせ、今のリースは私に見向きもしないだろう。その、無関心な態度をとられるという覚悟はできていた。
「聖女様」
偽物の聖女に挨拶を――
銀色の少女は振返る。少しつり上がった目を私に向けて、その夕焼けの瞳を細めた。まるで、値踏みでもされているようなそんな感覚だった。しかし、そんな目に怯むことも、怒りを覚えつつも、表に出すことなくにこりと微笑み、ドレスを抓んで挨拶をする。
あくまで、自然に、全てを覆うように、隠して、騙して。
「帝国の光に挨拶を――。初めまして。皇太子殿下、聖女様。私は、フィーバス辺境伯長女、ステラ・フィーバスと申します。以後お見知りおきを」
「レイ公爵家、アルベド・レイといいます。先ほども、挨拶しましたが、皇太子殿下は、お久しぶりです」
アルベドも、私と同じように、作った笑みを貼り付けて挨拶をする。リースの顔は、固まったままで、何の感情も感じられなかったけれど、エトワール・ヴィアラッテアの方を見ると、一瞬驚いたような表情を浮べていた。何故か。だって、アルベドの隣に私がいるから。
(私だってバレた?ううん、まだバレてないけれど、びっくりしているんだろうね。だって、アルベドも自分のものにしようとしていたんだから)
別にアルベドは、誰のものでもないけれど。彼女が、この世界を、乙女ゲームの世界として認識しているか否かは気になるところだ。だったら、ゲームのキャラクターじゃないけれど、自分を好きになってくれる、都合のいい相手が周りにいて、それは全部自分のものだって思っているかも知れないわけだし。そこに気づいていたら、物語がかなり破綻してしまうところだけれど。
(さあ、どうでる?)
私は、笑みを絶やさず、エトワール・ヴィアラッテアを見た。まさか、相手も、自分が奪い返した身体をさらに、奪い返しに来るなんて想ってもいないだろうから。彼女の内から出る魔力は、確かに強大なものだったが、前に感じたときよりも少ない。だから、多分、時を戻したことによって減ってしまったのではないかと思った。今ならどうにか……と思うけれど、まだできない。リースの洗脳をとくのが先だからだ。
「ステラ……フィーバス嬢?初めて聞くお名前ですが」
「はい。この間、フィーバス卿の養子になったばかりですから。まだ、私のことを知らなくても当然だと思います。それに、お父様は、自分の領地から出られませんので。噂が広がっていないのも無理ないです」
「そう……覚えておくわ。ステラ、ね」
「はい」
威圧感。ピリッとしたものを感じた。完全に私のことを敵として見なした目だった。私の中身まで気づいているかはどうかとして、邪魔者認定為れたのは間違いない。たかが、挨拶しただけで。いや、自分が一番輝いた後に、声をかけられ邪魔されたのが嫌だったのかも知れない。どこまでも、自分のことしか考えていない悪女だと。
彼女が、幸せになれるルートが存在するが、本当に、彼女が攻略キャラの一人でも心を動かせるのだろうか、とそこが気になってしまう。さすがに、そういうゲームのルートが存在している以上、それが、洗脳ではなく、エトワール・ヴィアラッテア自身がつかみ取った、幸せということになるけれど……明らかに、この悪女が誰かを思って行動するなんてできないように見えてしまう。悪役にふさわしい性格といってもあれだけど……それに、こんな性格になるまでには、これまで根付いた聖女の――
「ステラ」
「な、何?」
「皇太子殿下のこと、いいのか?」
「あ、ああ……うん」
アルベドにこそりといわれ、私は、スッと前を向いた。ルビーの瞳には私はうつっていない。彼もまた、私を邪魔者扱いしているようで、視界から消えて欲しいと言ってきているようだった。恋人の色に染められるとはまさにこのことをいうのではないかと思った。でも、それでも私は諦めるわけにはいかなかった。
「聖女様、俺は、あなたと話したりないので、少しお時間よろしいでしょうか」
「アルベド・レイ公爵子息様。それは、嬉しいのですが、リースと一緒にいようかなと思っていますし。お誘い嬉しいですけど」
と、エトワール・ヴィアラッテアは、その腕を、リースに絡ませた。そして、私の方を見る。明らかに、私を挑発しているようにしか思えなかった。私がどんな行動に出るのか試している。そんな顔に見えて仕方がない。ここで飛びつくことだってできただろう。でも、私はそれをしなかった。してしまったら、きっと正体がばれるし、品性を疑われる。今のリースには、少しでも好印象を残して、好感度を上げなければならないから。
彼の頭上には、0%と表示されているハートマーク……すなわち、好感度のマークが見えた。攻略キャラではある、ということだ。でも0%。
(会ったときは、70%とか、おかしい数値だったけど、これが本当なのよね)
でも、大丈夫。リースの性格というか、全てではないけれど、理解しているので、地雷を踏まなければいい。そして、踏み込むことだって私にできる。さすがに、性格まで洗脳で変わっているとは思えないから。
「そうですか」
「それに、アルベド・レイ公爵子息様は、私になんて興味ないように思えますが?だって、婚約者がいるなんて知らなかったもの」
「それはすみません。でも、これは、政略結婚みたいなものなので」
「政略……ね。それは、なんで?」
「聖女様も分かっていると思いますが、俺は闇魔法の家門……闇魔法同士が結婚するのが当たり前ですが、新たな試みですよ。賢い聖女様なら、俺の無謀な考えを理解してくれると思っていたんですがね」
「……そう、ね。確かに無謀だと思うわ。こんな、誰とも分からない女性と」
と、エトワール・ヴィアラッテアは、目を細める。私の時とは違う、すっかりと夕日が沈んだような、夕焼けの瞳は、私を見下し、怪しんでいた。
アルベドもそれっぽく取り繕ってはいるが、彼女の洗脳が聞いていないせいか、エトワール・ヴィアラッテアに不信感をもたれている。嘘をつくのが得意なアルベドすらも、疑う、疑心暗鬼の彼女を見ていると、何だか可愛そうだと思う。まあ、アホでも困るけど、でも、こんなんじゃ生きていくのは辛いと。
(……でも、アンタに同情はできないのよ。どんな理由があっても、やり方が間違っている)
全て否定する。じゃなきゃ、私が私でいられない気がしたから。
「あの、私、少しだけ、皇太子殿下とお話がしたいんです。私の一番は、婚約者の……アルベドなので、貴方の婚約者をとるわけがありません」
だから、私も嘘をつく。最低な、そして彼女と自分、愛しの彼を欺く嘘を。