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第17話「『あの人と話すと、自分の声が変になる』」
登場人物:ウラメ=ギルス(波属性・教員)/シオ=コショー(潮属性・非常勤)
ウラメ=ギルスは、波属性のバトル演習教官。
背は高く、くせ毛が波打つように肩まで垂れている。
ふだんは無表情だが、話すときの声は強くよく通る。
生徒には人気がある。“怒られることが安心”と言われるほど。
けれど。
職員通路の曲がり角で、シオ=コショーとすれ違うときだけ。
「……ああ」と言いかけた言葉が、必ず水に濁った。
かつて、シオは常勤の教師だった。
掃除をしているのも、好きでやっているのではなく、
**「出勤できなくなったからだ」**ということを、ウラメは知っている。
原因は、自分だとも。
その日、午前の講義が終わったあと、
ふと、生徒にこう聞かれた。
「先生は、共鳴がうまくいかなかったこと、ある?」
ウラメは答えかけて、やめた。
そして放課後、使われていない水草水槽の前に立った。
シオ=コショーは、ホースで水面をゆっくり撫でていた。
「……ここに、来るんですね」
「……来てる。けど、別にあなたに会いに来たわけじゃ、ないから」
そのとき、ウラメの声が――いつもと違う、
**「薄くて、高くて、にごった」**音になった。
「……その声、昔の波じゃない」
「昔の……?」
「“先生”になる前の波のまま喋ってる。あなたは、わかってないかもしれないけど」
ウラメは答えなかった。
でも、彼女の声が揺れていたことは、きっと水面が一番よく知っていた。
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