第18話「揺れる波域票(期末の波域再判定日)」
登場人物:カシワ=トノハ(草属性/2年)・波域判定官ナキジ=エン(澄属性)
カシワ=トノハは、目立たない草食の生徒。
葉のように広がる髪は緑がかった茶色で、制服の袖がやや長め。
内向的で、日々静かに波域手帳を埋めていた。
今日は**「波域再判定日」**。
教室に配られた波域票には、あらかじめ入力された共鳴データが並んでいる。
変質記録、授業内共鳴率、海食祭での行動傾向、そして――
感情のゆらぎ。
「自分の波域が、“変わった”ってことですか……?」
「変わったというより、“今の波に合ってるほうに動いた”と考えてください」
判定官のナキジ=エンは、澄属性特有の透明な髪を肩で束ねていた。
目は水面のように静かで、だれにも怒鳴らない。
「でも、僕はずっと草属性だったんです」
「草属性なのは事実です。ただ、“草属性のまま波域が変わる”こともあります」
「……意味がわかりません」
「それでも、あなたの波は――揺れていますよね?」
波域票の一番下に書かれていたのは、こうだった。
> ※あなたの「感情のゆらぎ」は現在、波属的傾向に偏りが見られます。
本人希望と齟齬がある場合、次週までに調整相談可。
その夜、カシワは迷いながらも手帳を開いた。
今週、自分が記録した「自分の感情」はこうだった。
・正しく怒れなかった
・誰かに声をぶつけたかった
・自分の声の余韻が気持ちよかった
ページをめくるたびに、
草のようにただ根付いていた自分が、
波のように「誰かに届きたい」と揺れていたことを知る。
「波域が変わるってことは、今の自分が変わってるってこと」
そう呟いたとき、心のどこかで、小さな共鳴が生まれていた。