テラーノベル
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それから数日、俺は朝はバルト将軍のしごき、夕方からはフリーデ将軍の特訓を受けていた。
いつドリコが現れるかわからない為、俺は砦に部外者を入れるのはよくないと提案し、砦内だけは彼女が安全でいられる空間を作った。
また彼女が帰宅して目の届かない場所にいかれるのも困るので、ゾルデム防衛を理由に将軍クラスは砦から帰れないようにした。
そして本日も砦の中庭で、フリーデ将軍と夕暮れまで戦い、結局一本もとれずに負け越していた。
「し、死ぬ……」
レベル差がエグチ。もう何やっても返されるしかわされる。
夕日のさす中庭に大の字になって倒れる俺と、軽く汗流した程度にしか疲れていないフリーデ将軍。
「王子、今日はこのくらいにしておきましょう。これ以上は無意味です」
「無意味とか言うなよ~」
「効率が落ちているという意味です。王子はよくやっていますよ」
「そう?」
「それにお腹も空いてきたでしょう。夕食にしたほうが良いです」
そう言って彼女は革の鞄から、お弁当を取り出す。
フタを開けると、厚切りハムとベーコン入りの卵サンドに、照り焼きのチキン、彩りの良いサラダとイチジクが入っている。
決して豪華な食材ではないが、ボリュームがあり実に美味そうだ。
「むむ? それは飯か?」
「ええ、そうですが……」
「ちょっとくれ。余はこの砦の飯に飽き飽きしておったのだ」
「よ、よろしいのですか? このようなもの」
「これがよい」
俺は彼女の弁当を貪り食う。大きなサンドイッチも、三口で食べてしまう。
「うます、うます」
「は、早い」
「味は申し分ないが、カロリーが足りておらんな。カロリー計算大丈夫か?」
「このお弁当1.5食分くらいはありますよ」
「少なすぎる、この倍はないと余の一食分のエネルギーは賄えぬ」
「王子、あまり食べすぎては健康によくありませんよ」
「余の身体能力、エリアルジャンプとかは全てカロリー依存の力。カロリーがなければ、余は弱々の弱なのだ」
「魔力依存はよく聞きますけど、カロリー依存はただの食いしん坊ですよ」
俺は勢い余って、弁当を全て食い尽くしてしまう。
「あっ、ごめん全部食べちゃった」
「いえ、気にしないで下さい。こちらも見ていて気持ちの良い食べっぷりでした」
「料理うまいけど、家で家事とかするの?」
「将軍職に上る前は、自炊は当たり前でした。父からも、自分の食事くらい作れと言われていましたから」
「バルト将軍らしいや。今はやってない?」
「そうですね……このところあまりしていませんね。王子が外出禁止を出したので、久しぶりに自分で作りました」
「こんだけ美味いならトニーさんも喜ぶだろ」
「…………」
あっ、わかりやすく沈んだな。もはやトニーの名前は禁句レベルで落ち込んでしまう。
「喧嘩したの?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、家に帰らず砦に常駐するようになってから、いろいろ思うところもあって」
「なんか戦闘中、死ぬ気なんじゃないかなって思うくらい、危なっかしい動きしてるから気になって」
「……申し訳ございません。王子に気を使わせてしまい」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。バルト将軍も心配してるし」
「……お優しいのですね、王子は。ですが……私のことは、お気になさらずとも大丈夫です。……少し、胸に引っかかることがあるだけです。騎士としてのことではありません。くだらない、自業自得としか言いようのない個人的なことです」
彼女の声は、自嘲するような響きがあった。
夕焼けに、彼女の薬指が光る。それは婚約指輪だった。
ありんす
1,555
宮毘羅
20
#シクフォニ
らの☆📢🍍×🌸推し
269
「いい指輪だな」
「ええ、彼が私に贈ってくれた最初で最後のプレゼントです」
「えっ、指輪だけ?」
「必要なものは、大体自分で揃えられますので」
揃えられるって言っても、新婚ならもっと何かにつけて記念日作ったりしてプレゼントしたり、食事に行ったりするもんだと思うが。
「この指輪だけが、私の支えとなっています……」
痛みにこらえるような目で指輪を見つめるフリーデ。
支えになっているというより、その指輪に囚われているような気がしてならない。
「ってことは、服とかも買ってないのか?」
「え、えぇまぁ特に必要もありませんでしたし」
「そなた剣技ではめちゃくちゃプライド高いのに、女としてはめちゃくちゃ自己肯定感低くないか?」
「そうでしょうか……」
「よし、余が良いショッピングに連れていってやる。ママ上達も連れて行くから、そこで女性同士話すと良い」
「そ、それは是非お願いします。王子のハーレムに入られている女性が、どのような生活をしているのか、とても気になります」
◇
翌日、バルト将軍に外出許可をとってエスタの街へと出かける、俺とフリーデ将軍。
外出禁止命令を出したが、今回は俺の護衛ということで公務である。
ルールを作るのも俺で、例外を作るのも俺である。
今回の目的地は市場ではなく、エスタでも屈指の巨大な交易商店。
世界各地から宝石、服、食料など、あらゆる物が集められたデパートのような場所だ。
ただし、どれも高価な品ばかりで、実質的な客層は上流貴族のみ。
赤レンガ造りの堂々たる建物の前で、俺たちはママ上とヨハンナとの待ち合わせをしていた。
ほどなくして、ふたりの姿が見える。
「ママ上、ヨハンナ」
「ラウルちゃん」
「おーっす」
ママ上は人目もはばからず、両手を広げて抱きついてくる。
その様子を見て、フリーデは目を白黒させる。
「ね、熱烈な挨拶ですね」
「こちらがフリーデ将軍かしら?」
「そう、フリーデ将軍。こっちがママ上のステラ、隣が騎士のヨハンナ」
「フリーデです」
「保護者兼嫁のステラです」
「騎士のヨハンナだ」
「フリーデ将軍はめちゃくちゃできる女性なんだけど、ここ最近新婚生活がうまくいってなくて落ち込んでる」
「えーかわいそうだな。マリッジブルーの倦怠期って奴か?」
ヨハンナは多分マリッジブルーの意味よくわかってないと思う。
「じゃあ今日は楽しくショッピングをしてストレスを解消しましょう」
「ママ上、とりあえず帝国騎士服だと威圧感が凄いから、まず服屋に行こう」
「そうね、フリーデさんスタイルいいからどんな服でも似合いそう」
「いや、わたしはこの格好で十分……」
「ギャハハ、安心せいここは余の奢りだ!」
「王子、わたしはそういうことを気にしているのではなくてですね!」
フリーデはママ上に引きずられて、ブティックへと向かう。
さすが世界の交易店、服だけを見ても品揃えが凄まじく優雅な貴族ドレスから、カジュアルな洋服まで様々揃っている。
「王子、私は本当にこれで十分で……」
「フリーデさん、これどうかしら?」
「ママさんそれ地味だぜ、もっとミニの方が今のトレンドだぜ」
「ほら、早く二人が選んだ奴に着替えてきて」
「こ、困ります」
フリーデ将軍が、二人の着せ替え人形にされてはや1時間。
俺は黙ってその様子を眺めているだけなのだが、なかなか決まらなくて若干の迷走を見せ始めている。
「海賊服はなんか違うな……」
「次はシスターにしてみる?」
もうほぼコスプレ着せ替えみたいになっている。
俺も何か選んでみるかと思い、高級そうなエプロンドレスを見つける。
シックな白と黒のカラーで、スカート丈はミニ丈。首元のリボンと腰のでかリボンが可愛らしい。
「次これ着てよ」
俺が更衣室に服を差し入れると、フリーデは赤面して大きく首を振る。
「お、王子、これは若い子が着るもので20も後半に入った女が着るものではありません!」
「別によくない? ねぇ?」
ママ上たちに同意を求めると、二人共全然有りと頷く。
「こういう自分のイメージと違うものを着てみるのもいいんじゃないかと思って。メイドの格好はプライドが許さない?」
「い、いえ、決してそういうわけではなく。うわ、きっつとなることを恐れていまして」
「ならないって。ってかつべこべ言うな。気に入らなくても余の命令と思って着るのだ」
「は、はい」
押しに弱い彼女は渋々了解して、更衣室で着替えを行う。
数分の沈黙のあと、ゆっくりと更衣室のカーテンが開かれる。
そこに立っていたのは、普段の重厚な鎧姿からは想像もつかない、柔らかな雰囲気を纏ったフリーデ将軍だった。
金の横髪は軽く内巻きに整えられ、黒と白を基調としたエプロンドレスが彼女の凛とした顔立ちを引き立てる。
首元には小さなリボンタイ。純白のブラウスを、彼女の豊かな胸が突き上げる。
丈の短いスカートはほんのりと揺れ、白のガーターベルトと薄手のニーソが彼女の長い脚を包む。
付属のカチューシャを頭につけた彼女は、正しくロイヤルメイド。
「う……うわぁ……これは……」
彼女は頬を赤らめ、視線を落としながらスカートの裾を押さえる。
「やはりこれは、うわ、きっつであり、お見せできる格好では……」
カーテンをしめたそうにするフリーデ。
その様子に、ママ上は「と~っても可愛いわ」と手を打ち、ヨハンナは真顔で「スタイル良すぎだろ」と小さく呟いた。
「いいじゃん可愛いよ」
思わず漏れた俺の本音に、フリーデは耳まで赤くする。
「お、王子、あまり歳上をからかうのは、よく、ありません、よ」
「いやいや、家庭に立つ姿が想像できて良き」
「か、家庭……?」
その一言に、彼女は動きを止める。
恥ずかしさと、ほんの少しのもしもを想像する。騎士にならずに、一般的な家庭に嫁いだ時、自分はエプロン姿で家事をしていたのではないかと。
一般家庭の幸せを夢想したこともあり、その度に自分には似合わないと諦めていた。
更衣室の鏡に映る自分の姿を見て、今まで押し込めていた彼女の少女の部分が解放される。
「まぁあんまり嫌がる格好させるのも悪いから、嫌なら脱いで構わないけど」
「お、王子は卑怯です。いつも通りご命令して下さい……その方が私も諦めがつきます」
「よし、じゃあ今日はそれを着て、余のメイドとしてすごすのだ」
「……か、かしこまりました。フリーデ・アイゼンヴェルグ。今日だけは王子のメイドとして務めさせて頂きます」
羞恥の入り混じった表情を浮かべながら、彼女は更衣室を出る。
店員には、このまま着ていくと料金を支払った。
コメント
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ひゃあ〜〜〜っ!!!第77話、読み終わったよ!!😭💕✨ フリーデ将軍のメイド服姿マジでヤバすぎる!!!「か、家庭……?」って固まるところ、ギャップ萌えが過ぎて昇天するかと思った…🥺💘 普段あんなに強くて凛々しいのに、ラウル王子に押しに弱くて着せ替え人形にされちゃうの可愛すぎません??しかも自分を「女として肯定できてない」って自己分析させられるシーン、胸にグサッときた…。トニーさんの話で沈むのも、指輪に囚われてる感じも切なくて、でも最後の「今日だけは王子のメイドとして」って決意が尊すぎる…!! 次の展開気になる!!ふたりの距離、このデートでどう変わっていくんだろう…💕