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白山小梅
白山小梅
12
◇
「ほとちゃーん、今日もおデート?」
あれから、一ヶ月とすこし経過した。季節は夏本番に向かっており、ちらほらと夏休みの旅行も小耳に挟む。
夏休みのまえに、学生を待つのは試験という試練だ。あたしもあたしとて、女子大生としての夏休みは満喫したいので(ほぼバイトだけど)試験勉強は綿密にしている。
教授の試験傾向を考察して、山を張って、というベーシックな解き方をしていれば、デスクの向かい側に座って、にやにやと嫌な笑みを向けてくるのは、もちろん芽依だ。しかし、芽依の言葉は無きにしも非ず、なので、慎重に言葉を紡ぐ。
「……なんで分かるの?」
でも、悲しいかな。あたしの口からは、結局単純な疑問しか出てこない。
「んふふ〜。柊くんがバイト先に来る日のほとりはいつもより可愛さ二割増だもんね」
「……そっか」
芽依には、可愛いと見えているらしい。
勝手に頬が緩みそうになるのできゅっとくちびるを結んで、むにっと頬を抓る。
「ほとり、かわいい!」
「わ!もう、芽依……ありがとう〜」
あの夜を皮切りに、柊はたまにあたしのバイト先に来るようになった。頻度は、週に二回程度。ただ、突然やってくるものだから、とても心臓にわるく、来る日は連絡してくれるようとお願いした。
エミちゃんの会話から、連絡は期待していなかったけれど、あたしの予想を裏腹に、柊は毎回返事をすぐにくれた。
柊がマメに連絡をくれるのも、おそらく、付加価値があるからだろう。
寄り道をする日でも、あたしの家に帰って、ベッドの上で抱き合う。連絡をしてバイト先で待っていれば毎回ヤれる。あたしは柊にとって、都合のいいセフレへと昇格したらしい。
それもなんだか、虚しい。
バイトも終わって居酒屋を出ると、今日も柊はビルの隙間に侘しそうに佇む喫煙所の中にいた。夏だから良いものの、冬とかどうするんだろ。寒くないのかな……
「柊、おつかれ」
いやいや、この関係が継続しているとは限らないや。
そんなことを思いながら駆け寄ると、柊が澄んだ瞳であたしを映し出す。気怠い目元に似合わない、美しい色に毎回目を奪われていると、柊はあたしの頭をぐるりと一撫でした。
この反応は、一体、なに……?
「おつかれ。腹減った」
「お腹すいたねー、今日忙しくて、賄い食べる暇なかったからお腹ペコペコ」
「飯食い行こ。俺、ラーメン食いたい」
「さんせ〜。あでも食べてすぐ寝たら太るから、替え玉はセーブしよ」
「すぐ寝ないからいいっしょ」
「先に言うけど、今日生理だから無理ですよー」
「んじゃあ柴崎が抱き枕な」
「えっ、待って。まさか今日も泊まる気なの?」
意外な反応に柊を見上げれば、柊はあたしの腰周りをゆっくりと撫でた。
「この辺あっためれば良いんだよな。寝るまでよしよししてやるよ」
「……なら、泊まってよし」
それはすごくありがたいので、素直に甘えることにる。
のろのろとラーメンを食べて、あたしの家に帰ると、シャワーを済ませる。そうすると、時間は真夜中の真ん中辺り。
AM2:00
宣言通り、柊はあたしをベッドに寝かせると、背後から抱き寄せて、あたしのお腹を摩ってくれた。後ろからハグされた状態で、眠くなるまでなんとなくスマホを眺める。
「いや、さっさと寝ろよ」
柊はスマホを奪い取ろうとしたけれど、柊もたまにスマホでゲームしているから、おあいこだ。
「何見てんの?」
ゲームが一段落したのか、柊があたしのスマホを覗き込んでくるから、ちょうど悩んでいたページを見せる。
「このネックレスが欲しいなーって」
「へー」
1ミリも気持ちの籠っていない相槌が届いた。聞いてきたくせに、興味はないらしい。
少し興味あるのかなって思ったのに、今日の柊がほんの少しだけ優しい分、ちょっぴりむくれてみる。
あ、そうだ。
「柊、こんどの日曜ヒマだったりする?」
「あー……来週だったら良いよ」
「じゃあ、来週買い物付き合ってよ」
「なんの買い物よ」
「夏休みの。どっか行きたいから、そのための服を買いたいのよ」
「行きたい場所が決まってないのに買いものに行く心理が全くわからん」
「服買ったら妄想も膨らむじゃん!赤点取らないってモチベになるじゃん!」
柊と一緒に買い物に行きたいっていう邪な気持ちなんだけど、言ったら馬鹿にされるか引かれるの二択なので、言わないでおく。
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