テラーノベル
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monologue
あの日のことは今も焼き付いている。
高い場所から足を踏み外すように身を投げた瞬間。
風を切る音と、景色が反転する感覚。
耳の奥をつんざくような風の轟音、冷たい空気が頬を叩く。
街灯の光が一瞬目に刺さり、暗い夜空と地面がぐるぐる入れ替わっていく。
地面に近づいていくまでの数秒はなんだかやけに長くて、
それでも俺は何も考えられなかった。
衝撃は一瞬で訪れて、体中に鈍い痛みが走った。
視界の端で人の影が揺れていた気がする。
誰かが駆け寄るような足音、暗い色の上着が揺れる。
叫び声も
サイレンの音も。
どこか遠くで響いていた。
意識が沈んでいくなかで。
「ああ これで終わるんだ」
そんな諦めに似た感覚だけがあった。
けれど目を覚ましたとき、俺はまだ生きていた。
白い天井と消毒液の匂い。
足にはギプス
腕には包帯。
静まり返った病室の蛍光灯がやけにまぶしい。
望んでいなかったはずの明日がそこにあった。
pnside
季節も巡り空気が澄んで星が綺麗に見えるようになってきていた。
窓の外には遠くの街の灯りが小さく瞬き、山の稜線が夜空に沈んでいく。
病室から見える景色は唯一無二のものでこの時間が好きでも嫌いでもなかった。
こん x3 ヾ
がら ッ ヾ
rd「こんばんは」
扉が小さく音を立てて開いた。
蛍光灯の白い光が廊下から細く差し込み、静けさを少しだけ破った。
らっだぁ先生。
俺の主治医の先生。最近医師になったばかりだから俺以外の世話はしていないんだとか。
俺も人見知りだし人と話すのも好きではないから1ヶ月ほど経ってもまだ二言くらいしか話していない。
それでも他の先生とは違って返事を聞き出そうとはしてこないし、精神科医にしては少し冷たさがあるっていうか … どこか適当で俺からすれば無視しても罪悪感の生まれない先生だった。
rd「体調は … 悪くはなさそうだね」
白衣の袖を軽くまくりながら、窓を開けて外の景色を眺めている。
夜風がふわりと入ってきて、消毒液の匂いに混ざる。
その後ろ姿を俺は横目で見てまたすぐに天井を眺めた。
rd「この部屋はいい景色だね」
俺のそばにある椅子に腰掛けてぐい~っと伸びながら先生はそう言った。
暑そうだね、エアコン下げるよ と言って先生はリモコンを手に取る。
送風の角度が変わり、冷たい空気が足元を撫でていく。
rd「でも流星群の方がもっと綺麗なんだよ?」
rd「俺もあんまり見た事ないけどね~」
pn「…」
俺はいつも通り返事はしないしきっと先生も返事が欲しくて言っているわけではないと思う。
まぁめんどくさいとは思ってそうだけど。
先生は適当に見えるけど、その適当さが俺にはちょうどよかった。
他の医者は「前向きになろう」とか「家族も心配してる」とか言う。
そういう言葉が一番苦しい。
死に損なった自分に「生きろ」と言われても返せる言葉なんてない。
だからこの人みたいに、ただ景色のことを話して、勝手にエアコンの温度を下げて、俺が返事をしなくてもそれで終わる。
それが救いに思えてしまうのは皮肉だった。
病室は夜になると特に静かになる。
看護師がカートを押す小さな音や、廊下で響く足音がかすかに届く。
機械の電子音は一定のリズムで、俺の時間をただ繰り返す。
それでも窓の外を見れば、遠くの街の灯りと頭上の星が重なって、ここが生きてる場所だと否応なく思い知らされる。
rd「今度、車椅子に乗れるようになったらさ」
先生の声に横目を向けると、まだ窓際に立って夜空を眺めていた。
その背中は落ち着きがなくて、でもどこか余裕をまとっている。
俺には到底真似できない姿だった。
rd「屋上の方が風も気持ちいいし、星もよく見えるんだよ」
pn「……」
言葉は喉まで来ても出ない。
興味なんてない、どうでもいい。
そう思った。
でも頭のどこかでは、夜風や星の見える屋上を少しだけ想像してしまう。
アスファルトの匂い、柵越しに吹き抜ける風、足元に広がる街灯り。
それが悔しかった。
先生は俺の視線に気づいたのか、振り返ってふっと笑った。
その笑顔も、俺は嫌いじゃなかった。
rd「ま、無理にとは言わないけど。気が向いたらね」
そう言って、立ち上がる。
椅子を軽く戻す音がして、扉に手をかけた。
rd「じゃあ、また」
扉が静かに閉まる。
再び病室に一人きり。
さっきまでの会話なんて、ただの雑談だと分かっている。
けど「屋上」という言葉が頭から離れなくて、俺はしばらく窓の外の星を見つめ続けた。
夜風に当たりながら星を見上げる自分を、ほんの少しだけ思い浮かべてしまう。
冷たい空気が頬に触れて、髪を揺らし、呼吸が白く曇るような感覚。
今の俺には手を伸ばすことすら難しいのに、想像だけは簡単にできてしまう。
その想像が妙に鮮やかで、胸の奥に小さなざわめきが残った。
暗い病室の中、窓の外に光る一番星を目で追う。
それは屋上から見ればもっと近くて、もっと数も多いのかもしれない。
知らなくてもよかったはずの景色に、少しだけ興味が生まれてしまった。
そんな自分に気づいて、苛立ちのようなものが込み上げる。
けれど同時に、不思議と体の力が抜けていく。
無理に生きろと押しつけてこない声や態度が、少しずつ残響のように心に残っている。
静かな夜、機械の電子音と遠くの街灯りに囲まれながら、俺は目を閉じた。
屋上の景色を想像したまま、まるでそこに導かれるみたいに。
コメント
6件
生徒会の仕事疲れてたから新作出てて助かります! 日々の癒しとして見させていただきます!
待ってました・・・・・😢💖 Twitterでプチ情報見た上で読んだので、余計に情景が浮かび上がってきて読むの楽しかったです🫂🫂
新しいシリーズ!! たのしみしてます!