テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
信愛は急いで部屋を飛び出すと、居間にいた銚子に半ば駆け寄るように声を上げた。
「お母さん!」
突然の大声に、銚子の体がビクッと震える。
「何よ!急に!」
信愛はスマホを握り締めたまま、真剣な表情で尋ねた。
「この動画に女の人映ってる?」
銚子はスマホを受け取り、静かに画面に映し出されている動画を見つめる。
しばらく再生を続けたあと、小さく首を振った。
「女の人って・・・ただの動画じゃない
女の人なんて映ってないわよ?」
信愛は唇を噛んだ。
「でもね?佳苗には視えるらしいの。」
「え?」
銚子が驚いたように目を見開くと、信愛の背後から佳苗が体をひょこっと出す。
「佳苗が言うには女子高生だって」
銚子は腕を組み、しばらく黙り込む。
部屋の空気が静まり返る中、信愛は不安そうに問いかけた。
「これってどういう事?」
やがて銚子はゆっくりと口を開いた。
「ここってどの場所?」
「古海商店街近くの交差点
ほらニュースでもやってるじゃん
最近頻繁に事故が起きてる交差点」
「ああ、あそこね・・・」
信愛は思い出すように続ける。
「あの事故を調べてる友達が居てさ」
「そこに行って動画を撮ったら
佳苗ちゃんには視えて、信愛には
視えない女の人が映ってたって事?」
「う、うん・・・」
「動画を撮ったって事は実際に行ったのよね?」
「行ったけど、何も視えなかった、けど・・」
信愛はそこで言葉を詰まらせた。
「けど?なに?何かあったの?」
信愛はあの時の感覚を思い返す。
「なんか不思議な感覚だった。」
「不思議って?」
「上手く言えないけど、霊は視えないのに
すぐ側に居るような、背筋が凍る感覚
今まで感じた事が無い気配みたいなのがあった」
その話を聞いた銚子の表情が一変した。
穏やかだった顔から笑みが消え、どこか緊張を帯びた眼差しになる。
「もしかしたら──」
短い沈黙のあと、銚子は静かに言った。
「とんでもない悪霊の可能性があるわね」
信愛は目を見開く。
「あ、悪霊?でも何も視えなかったよ?」
銚子はゆっくりとうなずいた。
「怨念が強すぎる霊は目視できないのよ」
「え?お、怨念?」
銚子は信愛にも分かるよう、落ち着いた口調で説明を始めた。
「本来、霊視ってね?自分の中にある霊気と
霊から放たれる霊気がぶつかった時の
霊圧の影響を使って霊を目視する行為なの」
「れ、霊圧・・・」
信愛は聞き慣れない言葉を小さく口にする。
「でも、自分の霊気以上の霊気を
放つ霊が居たら、潜在的に自衛の為に
霊気が霊圧を拒絶してしまうの」
信愛はその説明を頭の中で整理しながら、恐る恐る確認する。
「つまり、私に視えないのは
とんでもない悪霊だから、私の霊気が
無意識に霊圧を拒絶したからって事?」
銚子は静かにうなずいた。
その答えは、信愛が今まで霊能力について抱いていた常識を、根底から覆すものだった。
さらに銚子は静かに目を閉じ、考えを整理するように小さく息をついた。
「断言はできないけど」
ゆっくりと佳苗を見つめながら続ける。
「佳苗ちゃんに見えて、信愛に視えないんなら
その可能性は十分考えられるわ」
そして、さらに言葉を重ねた。
「それに、霊同士なら視えるのなら納得できる」
その一言に、信愛の胸がざわついた。
銚子は佳苗へ視線を向ける。
「佳苗ちゃんには確かに視えるのよね?」
佳苗は小さくうなずいた。
「うん・・・」
その表情には恐怖よりも、どこか胸が締め付けられるような切なさが浮かんでいた。
「なんか、とっても悲しそうな顔してる」
「悲しそうな・・・」
信愛はその言葉を反芻する。
悲しそうな霊。助けを求めているような少女。
それらの情報が頭の中で一つに繋がった瞬間、信愛は何かを思い出したように顔を上げた。
「え?ちょっと待って!」
慌てた声に銚子が振り向く。
「なら今も居るかもしれないって事?」
銚子は慎重に答えた。
「まあ、確証は無いけどね」
その返事を聞いた瞬間、信愛の表情が変わる。
「まずい!」
次の瞬間には椅子を蹴るように立ち上がり、玄関へ向かって走り出していた。
「信愛?こんな時間から何処行くつもり?」
銚子の呼び止めるが、信愛の返事はない。
その代わり勢いよく玄関の扉が開く音と、そのまま閉まる音だけが家の中に響いていた。
残された銚子は大きくため息をつく。
「全く・・・何考えてんだか」
その横で佳苗がおずおずと手を挙げた。
「私、行ってこよっか?」
銚子は少し驚いたように目を丸くした。
「あら?お願いできる?」
佳苗は力強くうなずく。
「うん!任せて!私ならすぐ追いつくと思うから」
その頼もしい返事に、銚子は柔らかく微笑んだ。
「ありがとうね♬」
その頃。信愛は人気のない夜の住宅街を全力で駆け抜けていた。
街灯だけが照らす暗い道を、息を切らしながらひたすら走る。
鼓動は速くなり、焦りだけが募っていく。
頭に浮かぶのは、事故現場を調べている焔垂の姿だった。
仮に焔垂が今も古海商店街で調べ物をしていて、霊もそこに居るとしたら、焔垂に何かしらの被害が及ぶかもしれない。
信愛の頭の中で銚子の言葉が何度も響く。
怨念が強すぎる霊は目視できない。
とんでもない悪霊の可能性。
信愛は歯を食いしばり、さらに速度を上げた。
夜風が制服を激しく揺らし、胸の奥が締め付けられる。
仮に自分に視えない強い相手が、焔垂に取り憑いたりしたら、自分の力だけでは祓えないかもしれない。
それでも足は止まらなかった。
一秒でも早く。一歩でも早く。
(ダメ!そんな事考えちゃダメ!そうなる前に助けるの!)
そう自分に言い聞かせながら、信愛を夜の街へと駆り立てていた。
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
コメント
1件
みぅです🤍🥀 えっと、今回の話、めっちゃ深かったです……。霊視できない理由が「自分の霊気が拒絶してるから」って、なるほどなって思いました。怨念が強すぎると目視できないって設定、初めて聞いたけどすごく納得できる。 信愛が焔垂さんのこと想って夜の街に飛び出すシーン、心臓がギュッてなりました。無鉄砲だけど、それだけ大事な人がいるってことだよね。でも実際に会えるのかな……?次が気になる!