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投稿されているプロフィールから、りさりさは、本名太田理咲(おおたりさ)26歳、都内の小さなデザイン会社『OTA(オータ)』の社長令嬢ということを割り出した。
投稿を見る限り、そこそこ羽振りのよさそうな雰囲気がある。小さい会社とはいえ、大きな案件も受注実績があると大きくHPに書いてあったので、父親の会社は成功していて金回りもいいのだろう。
彼女の会社は涼二の勤める広告代理店のクライアントのひとつだから、仕事で知り合い、親密になったんだろう。
私は彼女のSNSを遡って見た。半年前から涼二らしき男性の影がちらほらと写真に写り込むようになっていた。最初は後ろ姿だけ、次にぼかした横顔、そして最近では顔出しして堂々と二人でのツーショットまで。
「今日はお疲れさまでした♡」
「素敵なお店を教えてくれてありがとう♡」
「また来週もよろしくお願いします♡」
彼女の投稿には、必ずといっていいほどハートマークが付いていた。そして、その『投稿内容が遂行されている時間』と『涼二が家にいない時間』が見事に一致している。
理咲の長い亜麻色の髪に大きな瞳、華奢な体型。笑うときに小首を傾げる癖があり、その仕草がとても愛らしい。写真からも彼女の可愛らしさと若々しさが伝わってきた。
自分とは正反対のタイプだった。私は落ち着いた雰囲気で、どちらかというと大人っぽい印象――こう言えば聞こえはいいが、裏を返せばただの生真面目地味女。でも理咲は、男性が守ってあげたくなるような、か弱い魅力を持っていた。
それからの私は、まるでなにかに取り憑かれたように二人の関係を調べ続けた。
まず涼二の行動パターンを洗い出し、記録することから始めた。
普段の帰宅時間、会食と称して出かける日、休日の外出。すべてをカレンダーアプリで管理し、理咲のSNS投稿と照らし合わせた。
予想通り完全一致。隠すつもりがないのか、私にはバレていないと考えているのかはわからない。
涼二が「会食」と言って出かけた日は、必ず理咲のSNSに食事の写真がアップされる。
しかも、同じ店、同じ料理、同じ時間帯。
私は彼らが行ったというレストランに一人で足を運んだこともある。
さすがに店員に彼らの様子を尋ねることはできなかったけれど、店の雰囲気を確かめ、彼らがどんな時間を過ごしているのかを想像した。
ふたりが訪れている店は、大衆居酒屋のようなざわついた場所ではない。
薄暗い照明に親密な雰囲気が漂う対面の席。そこで彼らはなにを話し、どんな表情を見せ合っているのだろう。想像するだけで胃に穴が開きそうになる。
こんなことをしても、なにも解決しないのに。
わかっていても、どうすることもできなくて、この頃はひたすら彼らの行動を追う毎日を送っていた。
ある日、OTAの近くまで行ってみた。
そこは小さなビルの3階にある、スタイリッシュなオフィスだった。夕方6時頃、理咲が一人で出てくるのを見た。
SNSで見るよりもさらに小柄で、歩き方にも品があった。そして彼女が向かった先は、涼二がよく「会食」で使うというホテルのラウンジ――
私はロビーから遠くでその様子を見た。30分ほどして涼二が現れる。理咲は彼を見つけると、満面の笑顔で手を振った。涼二はもう私には見せなくなった柔らかい表情で彼女に歩み寄った。
二人がまるで恋人のように腕を絡ませ、エレベーターホールの方へ向かった。吸い込まれるようにエレベーターに乗り込み、その姿を消した。
上階には宿泊客用の部屋しかない。
そこでいったい、あのふたりがなにをするのか――
これで疑惑が確信に変わった。無言で仁王のように立ち尽くす私は、傍から見ると能面のように無表情だったことだろう。というのも、今の感情をうまく表に出すことができなかった。
泣きわめき、怒鳴り散らし、みっともなく「夫に触らないで!!」と取り乱せばかわいげのある女として見てもらえたのかな。でも、人様に迷惑がかかるようなことはできない。私が暴れたら、ホテルの従業員や利用客が困る。
調査を始めた当初は、むしろ彼の無実を証明したいという気持ちの方が強かった。「何かの間違い」だということを確かめて、安心したかった。
彼を愛している気持ちは今も変わらない。でも、愛しているからこそ、このまま彼のつく嘘から目を背け続けることはできない。
でも、どうしていいのか、わからない――……
気が付くと、鏡の前で涼二がネクタイを締め終え、振り返って私に微笑みかけていた。いつもの優しい笑顔。でも、その笑顔の奥に隠された嘘を、私はもう知っている。
あの日、理咲たちから受けた最悪な光景がフラッシュバックしたのね。
辛いと思うのは、私があなたのことを愛しているから。
私が妻だから、私の下にあなたが帰ってきてくれると信じている。
今は悪い女からの誘惑に勝てないだけ。
私が子供を産めなくて、あなたをきちんとした家庭の主にさせることができないから、そのストレスをちょっと違う方法で発散しているだけ。
レスが解消すれば問題ない。
だからもっと努力しなきゃいけない。でも、やっぱりどうしていいのかわからない。せめて以前まであった、月イチの夫婦の営みだけでも復活させれば――
「遅くなると思うから、先に寝ていて」
「わかった。お仕事頑張ってね」
私は笑顔で答えた。完璧な妻の笑顔で。
いつの頃からか、いってらっしゃいのキスはなくなってしまった。夫婦の営みがなくなるのが先か、それともキスがなくなるのが先か、どっちだったかはわからない。
玄関のドアが閉まる音を聞きながら、静かに立ち上がった。
さっきまで涼二が占領していたリビングの大きな鏡に映る自分の顔を見つめる。そこには、夫への愛を失いかけている妻(じぶん)の姿が映っていた。
コメント
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うわあ……胸がぎゅっとなる話だ。主人公が理咲のSNSを遡って確証を得ていく冷静さと、その裏でじわじわと蝕まれていく心の描写が痛いほど伝わってくる。特に「泣きわめけない自分」への自己分析が切実で、大人の妻子あるあるの苦しさがある。鏡に映る自分を見るラストの一文、とても好きです。次が気になります。