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#シェイプシフター
柊遊馬
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#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
196
#軍師
眠狂四郎
153
テーバイの王妃アルクメネは、美しく、そして慎み深い女性であった。
夫アンフィトリュオンが出征しているあいだ、
ゼウスは彼の姿に化けて彼女のもとを訪れた。
やがてアルクメネは神の子を身ごもり、一人の男児を産む。
その子は、生まれながらに神の力を受け継いでいた。
しかし、ゼウスの妻ヘラはその子の誕生を許さなかった。
彼女は二匹の大蛇を、ゆりかごへ放つ。
赤子は小さな両手で、二匹の蛇の首をつかんだ。
まるで縄でも握るかのように、力いっぱい締め上げる。
蛇は腕へ巻きつき、身をくねらせ、尾でゆりかごを激しく打った。
だが、赤子の手はさらに力を増していく。
アンフィトリュオンが剣を手に駆け込んだときには、
二匹の蛇はすでに力尽き、赤子の手の中で息絶えていた。
その赤子の名を――ヘラクレスという。
ライナーは、チェルシーが送り込んできた男と対面した。
「マルスと申します。」
挨拶もそこそこに、男は一歩前へ出た。
「国王陛下に意見具申申し上げます。」
「申せ。」
「王都の奴隷八千人を兵にいたします。」
その場の空気が止まった。
「担当は、このグラスに。」
後ろに控えていた男が一礼する。
「さらに、ファービー殿の指揮下に入らぬカンナルの敗残兵を再編成し、
第十三独立部隊として私の指揮下へ組み入れます。」
初対面でここまで踏み込んだ進言をする者は、ライナーも初めてだった。
「……よきに計らえ。」
「はっ。」
マルスとグラスが退出すると、ライナーは苦笑した。
「また元老院に波風を立てそうな男が来たな。」
マエクスも静かにうなずく。
「……そのようですね。」
「それはそうと、私は王を見直しました。」
「何のことだ。」
「ワロアの件です。」
「ああ。」
「処罰せず、南部のプーサンへ赴任させたのでしょう。」
「まあな。」
「私はてっきり、『ワロア、私の軍を返せ!』と叫びながら、
頭を柱へ何度も打ちつけるものかと。」
「友人というのを差し引いても、ひどい悪意の評価だと思うが。」
「いえ。王は私の芸術の才能を、まったく認めてくださらないので。」
「……その件は再考しておこう。」
ライナーは話を戻した。
「それで、マルスはどうだった。」
「豪胆な男と聞いていたが。」
マエクスは静かに首を振る。
「むしろ逆です。」
「あれは、人の心の機微をよく見ております。」
「平民出身のファービーを立て、自らはその後ろに回ろうとしている。」
「武だけの男なら、ああは振る舞いません。」
ライナーは小さくうなずいた。
「……私も同じ印象を受けた。」
マエクスは満足げに笑った。
「ところでライナー王。」
「なぜ私の芸術の才能だけは、見抜いてくださらないのですか。」
「オッス! おらマルス!」
奴隷八千人を前に、男は大声で名乗った。
「今回、おら、軍ではライナー王、ファービー代表に次ぐ立場になった!」
奴隷たちはざわつく。
「今から、おめえら全員にチャンスをやる。」
「おらと腕相撲をして勝ったら自由だ。」
「望むなら、グラン市民にしてやる。」
一人の奴隷が睨みつける。
「……負けたら?」
マルスはニヤリと笑った。
「おらの言うことを聞け。」
凶悪な獣のような大男が、一歩、また一歩と間合いを詰める。
周囲の兵士が思わず身構えた。
だが、マルスは一歩も引かない。
「で──」
腕をまくりながら笑う。
「どいつからやる?」
「俺らはあの旦那には負けたが、あんたに負けたわけじゃねえ。」
「あんたはどうなんだ。」
奴隷たちの視線が、一斉にグラスへ集まる。
グラスは何も言わず、一人の大男を前へ呼んだ。
「来い。」
腕相撲が始まる。
勝負は一瞬だった。
大男の腕は、机へ叩きつけられる。
「よいか。」
グラスは静かに奴隷たちを見渡した。
「俺は、バルカなど恐れん。」
「俺が恐れるのは、マルス隊長ただ一人だ。」
「お前たちも、敵を恐れるな。」
「恐れるなら、味方の隊長を恐れよ。」
そう言って、グラスは穏やかに笑った。
カンナルの戦い以後――。
戦争は、新たな段階へ移っていた。
グラン軍はバルカによって国内で十万を超える死傷者を出し、
本土軍はほぼ壊滅する。
ファービーは残存兵力をかき集め、新たな軍を再編していた。
だが、兵は足りない。
圧倒的な兵力不足を痛感しながらも、彼は一手、また一手と布石を打っていく。
一方、バルカは再びカンパルニア平原へ進軍した。
グラン第二の都市カンパは無血開城。
その影響は周辺諸都市へも広がり、同盟都市は次々とグランを離れ、
バルカ陣営へ寝返っていく。
グラン軍は理解していた。
――次に敗れれば、さらなる離反は避けられない。
バルカ軍もまた理解していた。
――一度でも敗れれば、「無敗」の神話にはひびが入る。
両軍の視線は、カンパ近郊のひとつの衛星都市の街へ注がれる。
ノーラ。
やがてこの小さな街が、戦争の行方を量る天秤となる。
コメント
1件
第60話、めっちゃ熱かった…! 冒頭のヘラクレス神話がマルスの登場を予感させる演出になってて痺れたわ。腕相撲で奴隷にチャンスを与える豪胆さと、「人の心の機微を見る」ってマエクスの分析が刺さる。グラスの「味方の隊長を恐れよ」もカッコよかった。次はノーラの街が戦況を左右するってことで、続きが気になりすぎる🔥 新キャラの立ち方、本当にうまいっすね。