部屋に到着し、私は鍵を開け、先に入って明かりを付けた。
「ど、どうぞ。すごく狭いですけど……」
私は、新しいスリッパを出した。
「ありがとう。お邪魔します」
強引な本宮さんだけれど、要所要所に育ちの良さが出ている気がする。きちんと礼儀正しい挨拶ができるところは人間としてとても好感が持てる。
「ほ、ほんとに狭くてびっくりしますよ」
そう言いながら、私はほんの少しだけ続く廊下の奥のドアを開けた。
「ここがリビングと……小さいですけどキッチンです」
自分の部屋を初めて男性に見られる緊張感は半端ない。どんな印象持っただろうか。
「綺麗にしてる。とても良い部屋だ」
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえて良かったです」
玄関から見て左側に一つ、右側にも一つ部屋がある。
左側は客室として使っているので、そこを本宮さんに泊まってもらう部屋にした。
私は、いつも右側の部屋で寝ている。
洋服などは、それぞれの部屋に小さなクローゼットがあり、そこに整理して並べている。意外とたくさんのものが入るので、とても使いやすい。
収納スペースが多いことも、この部屋を借りた1つの理由だ。
「本宮さんは、この部屋を使って下さい。あと、お風呂とお手洗いはキッチンの奥になります」
止まってもらう部屋に案内すると、「ああ、いろいろ……ありがとう」と、少し怪訝な顔をしながら言った。
「本宮さん? どうかしましたか? 大丈夫ですか?
「ここは女性の一人暮らしにしてはすごく広いな。誰かと暮らしてたのか?」
プライベートなことをストレートに聞かれて驚いた。
「いえ、まさか。父以外の男性を部屋に入れたのは初めてです。ここは、私の両親が泊まりにきた時に寝る部屋なんです。なのでベッドはありません、布団ですが……すみません」
「……そうなのか。だったら、もしご両親が来られた時は俺はホテルに行くから。俺がいるせいでご両親の訪問を断るなんて事はしないでくれ。大切なご家族がいつだって優先だから」
「あ、はい。わかりました、ありがとうございます」
身内への気遣いは、何だか嬉しい。
本宮さんの誠実さが見えた気がした。
「あの、でも……本当にここに住むんですか?」
今更だけれど、つい、また同じ質問をしてしまう。
「ああ。ここで恭香と暮らす。父さんにも話したけど、俺……」
「あ、あの、疲れたでしょうからお風呂入って下さい。お湯入れてきますね」
なぜか続きを聞くのが怖かった。
私は急いで本宮さんに泊まってもらう部屋を出た。
また結婚とか……
真意もわからないことを言われたらどう受け止めればいいのか……
「本宮さん、お風呂のお湯が沸きました。先に入ってください。ゆっくり浸かってくださいね」
「ありがとう」
本宮さんにお風呂に入ってもらっている間、少し用事を済ませようと思ったけれど、わりと早めに出てきた。
「えー!!」
ふと振り向くと、上半身裸で下はパジャマ姿の本宮さんが立っていて、思わず声をあげてしまった。
「何? そんなに驚いて」
「あ、あの、ちょっと困ります。裸は……」
「別に裸じゃない。そんなこと気にするな」
本宮さんは、濡れた髪をバスタオルで拭きながらそう言った。
気にするなと言われても、これは絶対に気にしてしまうシチュエーションだ。
細身なのに引き締まった体つき……
ジムで鍛えているのだろうか?
洋服を着てるときにはわからなかった本宮さんの体。
色気まで感じさせるあまりに綺麗な体を目の前にして、私はどこを見ればいいのか困ってしまった。
「あ、あの、ビールとか飲みますか? 喉乾きましたよね」
「恭香は? ビール飲むの?」
「えっと……」
「俺は、恭香が飲むなら飲む。飲まないならお茶か水でいい」
私に合わせてくれるの?
「すみません。私は、全く飲まないので……。アルコールを受け付けない体質みたいなんです。何度か練習はしたんですけど、いつも気持ち悪くなっちゃって。残念ですけど飲めないんです」
「そっか。そういう体質なら、無理して飲むべきじゃない。無理して飲んで何かあったら危険だから、やめたほうがいい」
本宮さんはとても心配性な人なのかもしれない。
私のことをここまで心配してくれて、なんだか嬉しい。
「そうですね。お酒はもう飲まないようにしていますから。でも、アドバイスありがとうございます」
「ああ。恭香に何かあったら困るから」
また……
これも、彼女に言うセリフだ。
でも、きっと、これに関しては、私がいないと一緒に住む部屋が確保できないから……という理由だろう。
「気をつけます」
「俺もビールはいいから。でも、もしかしてわざわざビール買ってくれてたのか?」
本宮さんは、申し訳なさそうな顔で私に聞いた。
それにしても、まだ裸の本宮さんに勝手にドキドキしてしまう。
社長と一緒に住んでいる時もいつも裸だったのだろうか?
とにかく、お願いだから早く何か着てほしい。
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