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「何を探しているのですか。エトワール様」
「うーんと、禁忌の魔法?」
「禁忌の……」
デートまでは、まだ少し日にちがあって、今日は、皇宮の書斎に来ていた。図書館でも良かったが、何でも、もの凄く込んでいるらしくて、静かに調べ物をするなら、とルーメンさんが許可を取ってくれたらしい。あの人に、最近あっていなかったから、久しぶりだったなあ、と思ったけれど、ルーメンさんも忙しいらしくて、世間話をする暇無くいってしまった。リースの補佐官だし、忙しいんだろうなとは思うんだけど。
一応、皇宮の書斎とはいえ、護衛は必要だろうと言うことで、グランツを連れてきた。グランツは、あまり本を読まないらしく、物珍しそうにうろうろしていた。そういえば、彼は、ラジエルダ王国から逃げて、平民として暮らしていたときは、どんな暮らしをしていたんだろうか、とふと気になった。教えてくれるときに、話したいって思ってくれたときにでもいいから聞きたい。無理には聞かないけれど。
そんな感じで、グランツはふらふらと歩いていたが、私の捜し物を手伝おうと思ったのか、声をかけてきたのだ。
私が、禁忌の魔法について知りたい、と言ったら、すぐに顔を曇らせ、眉をひそめた。
「知らない方が良いと思います」
「何で?」
「エトワール様、まさかと思いますが、使いませんよね。禁忌の魔法」
「え?そりゃ、まあ、使わないわよ。でも、どんなものか知りたいなあって思って。知っておいて損はないんじゃない?」
「……それは、確かにそうですが」
と、否定せず、肯定し、グランツは私を見た。不安そうな、翡翠の瞳が、私を捉えている。
「グランツは、どんなものか知ってるの?禁忌の魔法」
「はい。有名な……というか、魔法を使うものに限らず、一応常識的なものですから」
「あ、ああ、そう」
常識を知らないのか、って思われていたら嫌だなあ、と思いつつ、グランツは知っているんだ、と分かって、なら、なら何故教えてくれないのかと思った。まあ、さっき言ったとおり、私が使うんじゃないかって心配しているんだろう。
代償が大きいから、禁忌の魔法って言われているんだし、代償を払ってまで、魔法を使いたくはないのだけど……
「その、常識を知らない、私に教えてくれたりって……」
「勿論、エトワール様が望むなら、何でもお教えしますよ」
「ありがとう、グランツ」
ここで、いや、教えないです、何て言われたらどうしようと思ったのだ。まあ、グランツの事だし、渋りながらも教えてくれるだろうけど。それでも、普通なら知っているものを知らないっていう恥ずかしさは耐えられなかった。
「エトワール様?」
「うわっ、何?」
「急に黙られたので、驚きました。いえ、書斎で静かであることは、何も可笑しくないですし、それが正しいんですけど……」
「あ、あはは……」
苦笑いしか出来ない。
うん、グランツの言うとおりだし、本当にその通りなんだけど。相変わらず、辛辣だなあ、なんて思ってしまう。グランツってたまにずばずば言うから、ちょっと傷つくというか、悪気がないからこそ、私が過剰に反応しすぎてしまうって言う所もあるけれど。
(まあ、そこが、グランツの良さでもあり、直して欲しいところでもあるンだけど)
他人にこれを直して欲しい、とか思っている以上、自分も誰かしらに、ここは直して欲しいなと思われているんじゃ無いかと思って、私は言えずにいた。自分がされて嫌なことは、基本的にしないのが当たり前だし、人間欠点あってこそだからね。いや、欠点はない方が言いかもだけど。
(って、話がそれた)
自分で、悶々と考えた結果が、これで、私は首を横に振って訂正した。これを考えたかったんじゃない。議題はそれじゃないと。
「ごめん、グランツ。教えてくれる?」
「はい。謝られるようなこと、された覚えはないのですが……ええと、禁忌の魔法についてでしたよね」
「うん」
私が食い気味に聞いたことで、若干ひいたのか、グランツは、スッと半歩後ろに下がった。それを私に見られたことで、さらにグランツはふいっと顔を逸らす。何を言いたいかはすぐに分かったけど。
まあ、本当にいちいち突っかかってたら、話が進まない。
「禁忌の魔法は、主に三つあります。一つ目は、エトワール様がご存じの通り、死者蘇生の魔法。これは、この世の理に反する魔法なので、本当に忌み嫌われています。禁忌の魔法と呼ばれるにふさわしい魔法ですね。二つ目は、時を操る魔法。時間停止も、時間を戻すことも基本的には禁忌とされています」
「大まかにってこと?時に関する魔法を使ったら、アウトって言う……なんか、大雑把というか」
「イレギュラーがあるからです」
と、グランツは言って目を伏せた。
何か、思い出すような感じで、グランツは瞳を開いた後、私を見た。翡翠の瞳は、少し潤んでいる。
「ユニーク魔法に、あるんです。時を止める魔法っていうのが」
「ユニーク魔法……それなら確かに!」
「ですが、それでも、代償は払わなければならないのです」
そう、グランツは私の言葉に重ねるように言った。完璧な魔法じゃないんだと、私は、ユニーク魔法でも例外があるのだと分かった。イレギュラーとはいったものの、実際には、そのイレギュラーの中でも、例外で、みたいなよく分からないもの。それが、時に関する魔法らしい。まあ、ユニーク魔法と言っているくらいだから、普通の人間が使えば、即禁忌でペナルティーを喰らうことだろう。
(……でも、グランツが言うってことは、その魔法を使ったことがある人……既に、時を止めるユニーク魔法を持っている人がいるってこと?)
彼の口ぶりから察するにそうなのだろう。でも、何処であったのかとか、実際は、どんな効果が現われるのとか知ってみたいと思った。その人に会いたいとも。
「グランツは……」
「はい」
「その、時を止めるユニーク魔法を持った魔道士に会ったことがあると?」
「いえ、聞いた話です。ですが、代償があまりにも大きいと」
「……そう」
実際に、見たわけでは無いのだと、申し訳なさそうに首を横に振られてしまった。まあ、そんな魔法、滅多にお目にかかれないだろう。そもそも、ユニーク魔法なんて、稀少すぎて、誰もがもっているわけじゃない。
「その、代償って?でも、禁忌の魔法でも、ユニーク魔法なら多少は……」
「因みに、禁忌の魔法というのは、此の世界から魂事存在が消えると言うことです」
「……つまり?」
「此の世界にはじめから存在しなかった、と書き換えられてしまうわけです。理に触れるような、反逆するような魔法ですから、弾かれてしまうのでしょうね。此の世界の外に」
「……」
「なので、禁忌の魔法と呼ばれています。理に背くものだから。代償が大きいから、使わない」
かつて、聖女を生き返らせるために、禁忌を犯した男がいたと聞いた。その男の存在を聖女は覚えていたが、あとは誰一人として覚えていないのだと。理の外に放り出され、こっちの世界では記憶が、世界が綺麗に書き換わる。もし、戻ってこれたとしても、誰とも血の繋がらないそこにいるだけの存在亡き人、みたいになってしまうのか……
「じゃあ、そのユニーク魔法の人は?代償を、払っているんでしょ……でも、そうだったら、可笑しい……よね」
「可笑しいですよ。勿論。ですが、この場合、理の外に弾かれた、というのはあっているんでしょうけど、魂が消滅する、ではなくて、永遠に転生できない、つまり死ねない身体になってしまっているのです。その時を止めるユニーク魔法をもった魔道士は」
「不老不死?」
「そうですね。年も取らないそうですし、ですが、空腹感は感じるので食欲はあるとか。食べていかなくても生きてられるとか、噂はまちまちです」
「そう……」
噂じゃ、信用ならないな。と、考えながら、残り、一つは何なのかとグランツに、答えを急いだ。
「じゃあ、最後の一つは?」
「悪魔の召喚です」
「悪魔の?」
始めて、此の世界にきて、悪魔という言葉を聞いた気がする、と何だか、ファンタジーだなあ、なんて軽く考えていた。でも、グランつからしたら、これが一番怖いみたいな顔するので、私は固唾をゴクリと飲み込む。
「え、ヤバい奴?」
「禁忌の中では、代償が、それほど……と言いますか、まあ人によってとらえ方は違うと思います。けれど、悪魔を召喚したものは、願いなんて叶えられません」
「うーん、ごめん、話飛ばしすぎてない?」
そう言うと、グランツは、ハッとしたようなかおをして、少し俯き気味にこう言った。
「すみません……実は、説明するのが、苦手なんです」