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俺は前世が有ったことを自覚した後、努力し始めた。
しかしやはり才能がない。
まともな方法では無理だろう。
だから俺は強くなるため、訓練を限定的にして一芸特化を目指し、魔法については無属性魔法のみを極める事に決めた。
無属性魔法はこの世界では誰でも使える魔法で、身体強化や魔力の塊を飛ばす、魔力の感知などができる。
この世界では身体強化と魔力感知は使われているが、魔力を飛ばす魔法「バレット」は妨害程度の威力しかない為、ほとんど使われていない。
「バレット」を使うなら、普通に魔法を使った方が何倍もいいからだ。
では何故そんな魔法を俺は極めようと思ったのか?それは発動が普通の魔法よりも速いからだ。
普通の魔法は、魔法陣を経由しなければ魔法は使えない。
何故魔法陣が現れるのかは疑問だが、これはゲーム仕様の部分があるらしい。
こういったゲーム仕様と現実仕様である程度違いがある。
閑話休題。
無属性魔法は魔法陣を経由しなくても魔法が使える。おそらく、属性変換で魔法陣は必要なのだろう。
無属性魔法はただの純粋な己の魔力だから必要ないんだろうと予想した。
無属性魔法は魔法を発動させようとすればすぐに魔力の塊を放出できるため、普通の魔法と発動速度に違いが出る。
しかし威力が弱すぎるため実戦で使う人はいない。しかし使い方によっては実戦で使えると俺は考えた。
『バレット』は威力こそないが、相手の目や眉間に正確に当てられるようになれば使える。
一瞬だが相手の視界を奪えるし、うまくいけば脳を揺らすことができる。
実戦でこれをできれば魔力値関係なく、相手を倒せる。
たが、この魔法を使ってみると意外難しい。
俺は右手を木に向け、試しにバレットを的に向けて撃ってみる。
ズドン!
近くの木を狙ってみるが掠りもしない。
『バレット』は弾道が安定しない為、狙い撃ちが難しい。
牽制程度にはいいかもしれないが、実戦で使うのは難しい。
俺の魔法を出した部位が悪いのかそれとも他の要因があるのか不明。
魔法は体のどこからでも出せるため、戦闘をする人によって異なり、それぞれがやりやすいように放つ。
まーほとんどの人が掌から出しているが。
人によっては胸から出す人、腹から出すなど珍しい人がいる。
それぞれイメージをしやすい位置から出すことが魔法戦闘での基本なのだ。
俺は手から銃弾を意識してやってみたが、やはりダメだった。
ちなみに指鉄砲のようにもやってみたがそれでもだめ。
これは自分なりに、改良と訓練をしなければならないな。
俺はそう思い、魔法訓練を切り上げる。
そしてゼフの待つ訓練場に向かった。
「アルト様、お待ちしておりました」
「ごめん待たせてしまった。時間を作ってくれてありがとう」
俺が訓練場に着くとそこには白髪で下髭を生やした60代くらいの老人が立っていた。
俺の身の回りの世話から教育を担当してくれている専属執事のゼフだ。
「予定していた時間を少し過ぎてしまったな。時間は限られているし早速始めようか」
「はい。承知しました」
俺が始める旨を伝えると俺は八相の構え、ゼフは下段にそれぞれ構える。
「稽古の趣旨は前に話した内容で頼む」
「わかりました。では参ります」
ゼフがそう宣言すると、この場は静寂となる。
俺は緊張して、聞こえるのは足元に生い茂る芝生が風に揺られる音のみ。
俺はゼフの動きを観察し続ける。そしてゼフが動き出し、下段から俺が反応できるくらいの速さで斬り上げてくる
対して俺はそれを受けることなく、構えはそのままで、右に出来るだけ最小限の動きで躱す。
そして、俺はゼフの打ち終わりのタイミングを見計らい、八相の構えから剣を振り下ろす。
キン!
しかし、ゼフに容易く受けられてしまう。
そしてお互い鍔迫り合いに入るが、すぐに離れて距離を空ける。
この練習は敢えてやっている。
俺は剣では、まともに稽古したら平均未満、良くて標準クラスの実力にしかなれない。
これはゼフにもそう言われた。
だから俺は稽古のやり方を絞ることにした。
まずは攻撃手段だが、八相の構えからの振り下ろしのみ。
次に防御面は受けることを捨て、ひたすら避け続ける。
そして相手の打ち終わりの隙を突いて斬り込む。
その訓練に絞る。
スピードで相手を翻弄することも、力でねじ伏せることも俺にはできない。
そのため、鍛える技術を振り下ろしのみに絞って、その一撃のみで相手と渡り合えるようにならなければならない。
ゼフは剣を教えるのが巧い。
絶妙なタイミングでわざと隙を作ったり
俺のレベルでギリギリ反応できるくらいの速さで攻撃を仕掛けてきてくれる。
父上も幼少期お世話になっていたらしく、教える経験も豊富だ。
そしてまだ先の話だが、剣の訓練が落ち着いてきたら魔法を交えた戦闘にも付き合ってくれるとのこと。
こういったところには本当に恵まれている。
だから俺はそのことに感謝し、ゼフと訓練を続けた。
「はぁ…はぁ…はぁ」
「アルト様、今日はここまでですね」
「……わかった」
訓練をし始めて2時間ほどが経った。
やはり8歳の体だ。
途中休みを入れながらやったが、限界が来た。
初めは身体強化を使いながら訓練していたが、数分で魔力切れが起きてしまい、途中からは自力でやった。
身体強化して動くのと、自力で動くのとでは天と地の差があった。
疲れもより早く蓄積されてしまう。
訓練時間を無駄にしないため、今後魔力の無駄を省く訓練をしなくてはならないなと新しい課題もわかったことで今日は終了した。
「アルト様は普通に訓練した方がよろしいのでは?こういった項目を絞ってやるのではなく、どんな場面にも対応できるようにした方が良いと思うのですが?」
「確かにそうなのかもしれないな」
「では何故?」
ゼフの指摘に確かにその通りだと思う。
しかし、普通ではダメなのだ。
普通にやっては限界がくるし、何より普通では原作改変はできない。
それほどまで俺と原作キャラと差は開き過ぎている。
そのため、俺は全てができるジェネラリストではなく、一つの分野を極めるスペシャリストではなくてはいけない。
まともなやり方では絶対にこの差は埋められない。
今やっているやり方ですら成功するか分からない。
でも、俺はやり切る決断した
不遇ヒロインを助けると決意した。
どんなことがあってもこの信念は変えない。
俺はそう思い、ゼフに聞かれた質問に答える。
「確かにゼフの言いたいことは分かる」
「では!「それでも!!」」
「………」
ゼフは俺が言った後、何かを言おうとした。
おそらく俺の意見に反対しようとしているのだろう。
ゼフは俺たちクロスフォード家のことを常に思ってくれている。
俺もできたらゼフの意思を汲みたい気持ちはある。
でも、これは認められない。
ゼフは俺が言葉を遮った後、黙って待つ。
そして俺は話を続けた。
「それでも、俺はこの方針を変えることはない。俺は確かに他の人より多少は優れているかもしれない。ゼフの言う通りにやれば将来他の人より優れた人間になれるかもしれない。でも、それ以上にはなれない!!普通にやったところで俺は本物にはなれないんだ!」
「アルト様……」
この世界に転生した俺は何がなんでも目標を達成しなければいけない。
それは前世からの後悔から来ている。
「俺には目標がある。しかしその壁は高い。でも俺がここに生まれたからにはそれを達成しなければならない」
「……」
だから俺がこの世界に転生した理由は不遇扱いである彼女を助けるためなのだろう。
しかし壁は高い、高すぎる。
それでも俺は諦めずに挑戦しようと決めた。
「アルト様……そこまでクロスフォード家のことをお思いとは。私、ゼフは感激しました。全身全霊、誠心誠意、ご協力致します」
「うん?……お願い」
なんか勘違いされてる?
確かにクロスフォード家のことを考えているのは確かだ。
だって嫡子俺だけだし、死んだら大変だろうし。
でもちょっと違う気がするけどこっちの方が都合がいいかも。
俺は少し悪い気もするが、ゼフが協力してくれると言ってくれているし、このままにしておこうと思った。