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世羅 鈴🎨🎤
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雨鏡光
3
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#近未来
雨鏡光
9
わぁーーと歓声が沸き起こる。
「お咲ちゃーーん!」
「日本一!」
今日も花園劇場は賑やかだった。
舞台では、歌姫、花園咲子が、マイクの前で得意げに微笑んでいる。
「みんなっーー!ありがとうねっーー!」
歌い終わった咲子は、いつも通り観客に愛想を振りまいた。
五つの時から立ち続けているこの舞台で、歌い終わると咲子は観客の声援に朗らかに答える。
劇場支配人の中村は、それが俗っぽいと咲子へ注意した。
歌姫は、もっとしとやかであるべきだと言うのが中村の持論だからだ。
(いけない!また叱られる)
そう思いつつ、咲子は客席へ手を振りながら舞台から下がった。
案の定、舞台裾で待機していた中村が渋い顔をする。
「お咲!また、俗なことをする!言ってるだろ!お前はもう大人の歌い手なんだそ」
「……すみません」
ペコリと頭を下げる咲子の髪が揺れた。
流行の断髪に引き眉、赤い口紅。ピンクの花柄ワンピースに真珠の首飾り。少し派手目の装いは帝都の歌姫そのものだった。
「イメージ、ってものがあるって言ってるだろ?格好だけ大人ぶってもだめなんだ」
中村の小言は続いた。
「ははは、お咲。絞られてるなあ。おつかれ、これ食いなよ」
咲子の前に好物のアンパンが差し出される。
「京太郎坊っちゃん!」
「ああ?!京太郎、お前なんでいるんだあ?授業はどうした?!」
「うっせぇなあ」
どこか幼さの残る青年が悪態をつく。
「岩崎の授業なんだな?またサボったのか?」
中村がニヤけながら言った。
「関係ないだろっ」
「関係ありますよ!京太郎坊っちゃん!」
「お咲までなんだよっ」
青年はたちまち不機嫌になりプイとそっぽを向いた。
「もう、授業をサボってばかりで!それで岩崎家の跡は継げませんよ!旦那様のような立派な音楽家になってもらわないとっ!」
お咲が、食ってかかる。
「けっ、お咲はうるさいなぁ。そんなだと嫁の貰い手ないぞぉ」
ふんと鼻であしらい青年は包を破ってアンパンにかじりついた。
「あっ、アンパン!」
お咲が叫ぶ。
好物のアンパンを横取りされたからだ。
「子供かよ」
ははは、と、青年は笑いながら見せつけるようにアンパンを頬張った。
「二人共、子供か。だが京太郎、お前、お咲に嫁の貰い手がないと言ったな?」
「ん?なんだよ藪から棒に。中村のおっさん」
「おっさん呼ばわりすんな!お前の親父さんより若いんだからな」
中村が、ムキになる。
「だけど、同期みたいなもんなんだろ?」
「いや、違う。お前の親父さんは、教師で、俺は教え子。同じ音楽学校にいたんだ。確かに親友だがな、そこんところは、わきまえてたそ。授業もちゃんと受けていた」
中村が、意地悪く言った。
「だから、授業サボったんじゃなくてっ!お咲迎えに来ただけだろ!」
「京太郎坊っちゃん!私をだしに使わないでください!」
「だけど、お咲、いつも出待ちの贔屓《ファン》たちにもみくちゃにされるだろ?今日は千秋楽だから余計人が多いと思ってさっ」
青年──、岩崎京太郎の言うように、楽屋口には、贔屓が殺到して咲子が出てくるのを待っている。劇場から出ることもままならない人気なのだ。
「それにはおよばないよ。私が車を付けているからね。お咲ちゃん、一緒に帰ろう」
薄い髪を無理矢理撫で付けた、小太りの男が立っていた。
手にはアンパンを抱えている。
「お咲ちゃん。好物の差し入れだよ」
薄い唇がゆるりと動いた。
「秋山男爵様!こ、これはこれは!」
中村が、もみ手で作り笑いを振りまく。
「男爵様!あのお、この間のお話は……まだ……」
咲子が口ごもる。
「ああ、別に急がないさ。お咲ちゃんの気持もあるだろうしね」
言って、現れた男──、秋山男爵はなんともいえない、不気味な笑みを浮かべた。
「さあ、行こうか」
秋山に強引に押され、咲子は渋々頷いた。
相手は男爵。そして、この花園劇場の大口パトロンでもある。機嫌を損ねるわけにはいかなかった。
「……なあ、おっさん。この間の話って?」
京太郎が、中村へ耳打ちする。
「……だから言ったろ?お咲の縁談だよ。秋山男爵様が、是非にってな……」
中村が、声を潜めて言った。
コメント
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読み終えました。大正ロマンの香りがふんだんに詰まった第1話、とても引き込まれましたね。舞台の華やかさと、楽屋口の緊迫した空気の対比が鮮やかで、咲子さんの「歌姫」と「一人の娘」の二面性がすっと入ってきました。 特に気になったのは、秋山男爵の登場シーンです。薄い髪を撫で付けた風体と「不気味な笑み」の描写で、パトロンという立場を超えた得体の知れなさが漂っていて、この縁談がどう転ぶのか、読んでいて背筋がゾクッとしました。 京太郎くんの軽妙な啖呵と中村さんの苦労人ぶりも良いスパイスですね。アンパンの奪い合いが、三人の距離感を自然に伝えていて好きです。続きが気になります!