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世羅 鈴🎨🎤
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雨鏡光
3
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#近未来
雨鏡光
9
#虐げられヒロイン
「……中村の兄さん、それ玉の輿ってやつじゃねぇか?」
「まあ、そうだけどなあ……二代目」
「中村のおっさん、そうだけどって、どういうことなんだよ?」
下町情緒漂う神田旭町の一角、咲子の自宅とも言える岩崎邸では、この家の大家である田口屋の二代目、中村、京太郎が顔を突き合わせ、ふかし芋を食べている。
二代目が、咲子の千秋楽を祝って持ってきたものだ。
咲子は五つの時、貧しい農家から岩崎家へ奉公に上がった。 主《あるじ》である音楽家、岩崎京介に歌の才能を見出され、今では帝都を代表する歌姫となった。それでも恩を忘れず、岩崎家では今も女中として働いている。
「あっ、少し残しておいてくださいね。お咲ちゃんの好物ですから」
岩崎の妻、月子がたしなめる。
「わかってるって。月子ちゃん。っていうかねぇ、中村の兄さん、俺たちは、きゅっと冷えたのがある方がいいよなあ」
二代目が、調子よく言った。
「いやあ、二代目。月子ちゃんの手間だろ?身重だそ?」
中村が、真顔で言う。
「ああ、二代目さんも中村さんも、お酒のほうが良いですよね。何かおつまみも用意しましょう」
月子は、ふくよかな腹をかばいながら、ゆっくり立ち上がり台所へ向かった。
「何してる!人の家をなんだとおもってるんだっ!」
そこへ、突然大声がした。二代目、中村が肩をすくめる。
「何勝手に酒盛りを始めようとしている!」
「いや、京さん。帰ってたの」
「おお!岩崎、芋でお咲の千秋楽祝だ」
どうだと、中村がふかし芋を勧める。
「そのお咲はどうした?!」
肝心の主役がいないだろうと、怒鳴りつけるのは、この家の主人で、咲子の師匠でもある岩崎だった。
音楽学校の特別授業を終えて戻ってきたのだ。
「父上、いつものことじゃないですか。相変わらず声が大きい。母上の胎教によくないと思いますけど」
京太郎が、口を挟む。
「……何をわかったようなことを!京太郎!授業はどうした!」
「あー、お咲の応援に。千秋楽ですからね」
京太郎は、父である岩崎へ悪びれもせず言い返す。
「まあまあ、親子喧嘩は犬も食わないと。よしなよ京さん。それよりもだねえ。お咲が一大事のようだぜ?」
二代目の一言に、岩崎はちらりと中村を見た。
「……そうなんだ。岩崎」
中村は渋い顔をして言う。
岩崎は、何事かと中村の話に聞き入った。
中村は、ゆっくりと事情を話し出す。
「……つまり。その秋山という男爵が、お咲を見初めたと?」
「ああ、まあ、そういうことなんだよ」
中村は、どこか歯切れが悪かった。
「でも、京さん!相手が男爵ならお咲にとってはいい話なんじゃねえの?」
「いや、二代目。それがなあ……」
「なんだよ!中村のおっさん!さっきから!」
「京太郎?中村さん、でしょ?」
月子が酒のお調子を盆に乗せて現れた。
「京介さん。お帰りだったんですね。お着替えを……」
「いや、月子。いい加減動くのを控えなさい。体を大事にしないと……」
「いやあ、いつ見ても目の毒だねぇ」
二代目が、岩崎と月子のやり取りを茶化す。
「身重の妻を労って何が悪い!」
ありゃあ言い切ったと、二代目は苦笑う。
「まあ、岩崎んとこみたいに上手く行けばいいんだけど、秋山ってやつはろくでもない男なんだ……」
中村は息をつく。
噂では、秋山男爵は、金と地位に物言わせ、気に入った女芸人を自分のものにしているのだとか。
「いや、ちょっと!お咲もそういうことなのか!」
京太郎が身を乗り出した。
「さあ、そこはわからんがな」
変わらず、中村は歯切れが悪い。
「……で、お咲はなんと言っている?」
岩崎が、静かに問うた。
コメント
1件
第2話、読ませていただきました。下町の賑わいと家族のぬくもりが会話の節々に滲んでいて、とても温かい気持ちになりました。咲子さんを巡る秋山男爵の話、中村さんの歯切れの悪さが気になりますね。「お咲はなんと言っている?」という岩崎さんの静かな問いかけに、彼女を想う家族の深い愛情を感じました。続きがとても気になります!