「「どうしてこうなったのかしら(だろう)」」
グラディオン王国、ユベール伯爵邸。
そこの一室に1組の夫婦が机に向かい合い、ため息をしていた。
一人がユベール伯爵家当主キアン、もう一人がその妻ユリアン。
理由は二人の息子のアレンがしでかしたことが原因であった。
貴族の子息子女が貴族としてはじめての義務「お披露目会」。
生後10歳の子供が王族に健やかに育ったことを祝う場で将来の人脈や関係を築く会場。
本来なら子供同士の交流を持つ、贅沢をいえば交流の少ない家同士の新たな関係を築くなど、大人はこういった思惑があった。
もちろん、それはユベール伯爵夫婦もわずかながら期待をしていた。
だが、ユベール伯爵夫婦にとってそれは「あわよくば」そんな軽い気持ちであった。
それが……。
「まさか、ソブール公爵家御息女のアレイシア嬢と婚約できるなんて」
「ええ、私もそれを聞いた時驚いたわ。でも……」
「「はぁ……」」
ソブール公爵家の御息女との婚約。
これに関しては二人にとって喜ばしいことだ。
家柄も理想以上、アレンが婚約できたので将来は安泰。
では、何故二人がため息をしていたか。それは結果ではなく、結果に至るまでの過程とその後の周りの貴族達の反応にある。
「アレンの育てかた……自由にさせるのは間違っていたかしら?」
「いや、それはないと思うよ。そもそも、自発的に行動させたおかげで、ウェルのような優秀な人材をアレンの専属にできたわけだし」
「でも、もう少しアレンに厳しくするべきだったと思うわよ。だって、目上の人の挨拶を遮ったのよ。そのせいで……」
「それは……」
貴族は噂に敏感だ。
今回の一件で、アレンの悪い噂が流れてしまった。
それは今後のアレン……ユベール伯爵家の将来に深く関わる可能性も。
アレンの婚約について話すほど、雰囲気が暗くなっていく。
室内は静寂で物音もしない。
だが、その静寂も長くは続かなかった。ドアからトントンとノック音が聞こえたためだ。
「シンです。ウェルを連れてきました」
「入っていいよ」
「失礼します」
「……失礼します」
静寂を破り、入室したのはシンとウェルの2人。
入る際、ウェルは落ち込んでいた。
表面上は取り繕っているものの、長い時間を過ごしている者にはすぐに違いがわかる。
そのため、この場にいる者たちにはすぐに見抜かれてしまった。
普段であれば咎められてもおかしくないのだが、指摘するものは誰もいなかった。
原因がアレンだからだ。
「そんなに畏まらないでいいよ二人とも。今日は別に何か言うために呼んだわけじゃないんだから」
「そうよ。今回は私たちの息子が原因よ」
「いえ。今回の件、私の力不足が一番の要因です。どのような罰も受ける所存です」
キアン、ユリアンはウェルを気遣い言葉をかけたものの、ウェルは自分の力不足と言い、罰せられることを望んでいた。
キアンとユリアンはそんなウェルを見て、どうしたものかと思うも、自分達ではウェルが納得するような言葉が思い浮かばず困ってしまう。
ふと、キアンがシンに視線を送り、助けを求める。
この場に置いて中立の立場で的確な答えを出せるのはシンだけであった。
「一先ず、保留にしてはいかがでしょう?」
シンの言葉に部屋にいる3人の視線が集まる。
「もう、終わってしまったことを考えても仕方ないですよ。結果だけ見ればソブール公爵家と関係を持てたことは喜ばしいことです。人の噂も75日と言います。時が経てばほとぼりも冷めるのでは?」
「シン……そうよね」
「そうだね。終わってしまったことを考えてもしかたない。今から出来ることをすればいいか」
シンの指摘でユリアン、キアンは少しばかり元気を取り戻した。
過去に囚われることではなく、この先のこと。今から出来ることをすればよい。
アレンの一件は取り返しのつかないことではない。そうするためには……。
「ウェル、アレン様を一から徹底的に教えなさい」
「わかりました!徹底的に一から再教育したいと思います!」
「……あはは。それが一番かもね。アレンについては君に一任するよ」
「うふふ。それがいいわね」
シンは今できること、アレンの再教育を徹底することをウェルに指示をした。
普通ならば、それはキアンが決めて指示を出すべきなのだが、ユベール伯爵家の主従関係は変わっている。
苦笑いしながらアレンを憐れむキアン、そんな光景に微笑むユリアン。
今後、アレンがどうなってしまうのか。
本人のいないところで話し進んでしまったのだった。
なお本人は疲れて寝てしまっていたため、この会話は聞かれることはなかった。
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