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かつて自分が住んでいた家へと足を踏み入れ、部屋を回る。
あの頃とほとんど同じ状態だった。
それもそのはず、俺や俺の家族がこの家を出ていってから誰も使っていないのだから。
しかしあの頃の家とは、雰囲気が随分と変わっていた。
埃を被ったたくさんの家具。
銀縁の窓は汚れて外が見えなくなってしまっていた。
「ここには住めねぇな」
そう言葉を投げつけ、この家の近くにある海へと歩き始める。
海辺に座り、夕陽に照らされてキラキラと光る砂を手ですくいあげる。
ふと遠くではしゃいでいる家族を見て、自分の幼少期を振り返る。
まだ幸せだった俺と両親は、よくこの海辺に来て遊んでいた。
ビーチボールをしてみたり、海に入って水をかけ合ってみたり、
あの頃は、みんなで笑い合えていたんだ。
いつの間にかその幸せは壊れてしまっていたけど…
なんとなく海の方を見ると、少し奥に人の影が見えた。
夏なのに長袖の服を着た子供。
俺に背を向ける状態で海の中に入っていこうとしていた。
あの子は…何をしようとしているんだ。
もしかして…
考えるよりも先に体が動いていた。
「おい!君…何しようとしてんの!」
波が俺の体を殴ってくる。
でも俺はそんなのお構いなしに進んだ。
「おい!なにしてんの! 」
俺が何度呼びかけても子供は振り返らない。
なんとか子供の手を掴んだ時には、顔が水面に出るぎりぎりの深さまで来ていた。
その子供は驚いた表情をして振り返った。
俺の手を振り払おうとしたが、それを無視して、砂浜の方へと進んだ。
「はぁっ…はぁ。何してんだよお前。」
砂浜に座り直してから、俺は子供に聞いた。
でも、こちらを見ようともしない。
なんてやつだ。そう思った。
その子供の顔をよく見ると、とても綺麗な顔をしていた。
くっきりとしていて整った目や鼻は、俺をうっとりとさせた。
性別もわからないくらいの美しさだった。
「とりあえず俺の家来る?汚いけど」
『……』
「なんか言ってくれないとさ…」
俺が少し怒りを交えた声で子供に言うと、その子供は泣きそうな顔でこちらを見ながら、耳を指し、その後に手をバツの形にした。
あ…この子は耳が聞こえないんだ。
そう気づいた途端、今までの自分の行動がどれだけ情けなかったのか思い知らされた。
俺はスマホを取り出し、
「とりあえずうち来ない?それから話しよう」
とメモアプリに書いて見せた。
子供は怯えていた。
俺はできるだけの優しい顔を見せて、
「本当に大丈夫だよ。安心して」
そう書いて見せた。
子供は渋々立ち上がり、俺についてきた。
家の前に着くと、その子は、あ…と声を発した。
「え?」
そう思わず聞くと、子供はスマホを俺の手から奪い取り、急いで文字を打った。
「この家僕がいつも寝てる所」
え…どういうこと?
いつと寝てるの?
てか男の子だったんだ。
様々な疑問が頭の中を飛び交い、戸惑っていると、さらにその子は
「誰も住んでなかったし、海の近くにあったから。 」
そう書いた。
「まぁ、いいや。とりあえず入ろう。」
そう俺は言って、少年の手を引いた。