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長谷部 裕貴。185cmもあるスタイルと爽やかな笑顔。ゴールデンレトリバーのような愛らしくも、たまに見せる男らしい表情がとても魅力である。
某ファッション雑誌のオーディションに合格しモデルデビューした後、すぐさまに彼の魅力が中高生に話題になり、人気ドラマに抜擢される。
初挑戦なのにも関わらず彼の演技がナチュラルで若年層から中年層までを虜にした。このことがきっかけで本格的に演技に取り組み俳優デビュー。
本人が幼少期より舞台やミュージカルが好きでよく観に行っていると公言していることから今は舞台業に専念している。
そんな高スペックで人気の舞台俳優である彼が、私の推し様がなぜ此処にいるのか。私にはさっぱりわからなかった。
推しに会うことができたというのに。もちろんそこに嬉しさはなく驚愕と不安しかなかった。
『あ、あの…裕貴君。』
恐る恐る声をかけても反応はなし。
彼はここにいちゃダメな人だ。もっと多くの人が彼を求めているのに。
それもそのはず。これから私が、私たちが行く場所は
都市伝説と噂されている一度入るとともう二度と帰ることが不可能な村だからだ。
『…だめだよ。貴方がここにいちゃ。お願い…返事してよ。お願い目を覚ましてよ‼︎なんで!もうすぐバースデーイベントもあるのに!ここから離れてよ…………』
彼の肩をぐっと掴み激しく揺らす。
だが彼が反応する気配すらない。目は開いているが正気を失っているように、ぼーっと立っている。
しばらく彼の隣でひたすら話しかけ続けること数分。私たちは前方からの眩い光に包まれた。
光が消えると、今まであった濃い霧が薄くなっており、先ほどよりも視界が明瞭になり前方に錆びたバスが到着したことを確認できた。
あくまでも都市伝説であったはずなのに実際に現れるなんて。真夏であるのにも関わらず悪寒が止まらない。ドッと冷や汗が吹き出し気持ち悪さが増してきた。
『皆様お待たせいたしました。輝蔵村前行き、まもなく発車します。尚、一度乗るともう二度と帰ることができませんので、ご乗車の皆様はお気をつけください』
バスから気味の悪いアナウンスが流れると同時に、並んでいた人が次々にバスに吸い込まれるように乗り込んでいく。
このままでは彼まで乗り込んでしまう。必死に彼の腕を引っ張り、乗車するのを防ぐが、さすがは舞台俳優。日々の稽古で鍛え上げられた体は、こんな非力な小娘一人の力じゃどうにもならない。
ずるずると彼に引っ張られ、膝はゴツゴツとしたアスファルトに擦り付けられ激痛が走る。
痛みも無視して必死に彼をバスに乗らせまいと葛藤していたがそれも叶わず、ついに彼はバスに乗り込んでしまった。
私はガクンと地面に座り込んでしまった。やけにアスファルトが冷たく感じる。
目の前で先ほどのアナウンスと同じ声色で誰かに話しかけられる。このまま推しと一緒にあの村に行くのかどうか。それとも…。
プシューーーと私が返事をする暇もなくバスのドアは閉められてしまい走り去ってしまった。
自分の力不足で目の前で推しが消えていった事実がどうしても受け入れがたく目の前が歪んで見え、ついに私はその場で倒れ込んでしまった______。