幼少期、自営業だった母は旅行などで長期的に家を空けられないので、遠出の代わりに市内のあらゆる公園に時間を見つけては連れて行ってくれた。
ある大型スーパーの近隣にある公園でブランコに飛びついて少しこいだ後、「ママ押して!」と言ったら母はいつも通りの笑顔で近寄ってきた。
だが、手の届く至近距離まで来た時にサッと顔面蒼白になって「今すぐ離れて!!」と慌てた様子で私の腕を引っ張った。
何事かと振り向いたら、ブランコの真後ろにいつの間にか男の容姿のマネキンが寝かせてあった。
顔はマネキン独特の薄いクリーム色というのか、白よりは黄ばんだ布製ののっぺらぼうで、周囲の草のせいで上半身しか見えなかった。
母はそれに驚いたんだろうと思って、幼心ながらにあんなマネキンに驚くとかビビりだなぁとほくそ笑んでたら、車に乗った母が「アンタ何言ってんの!?人間だったよ!?上半身しかなかったけど!!アンタ見て笑ってたじゃないの!!!!」と顔面蒼白のまま叫んで状況が一転。
母にはその上半身だけの人物が、ゆっくりと起き上がって私に手を伸ばしたように見えたのだと言う。
しかし私からしたら、マネキンはそのまま動くこともなく、しかも顔さえ別の方角を向いていた。
それに、生きてる人間だとしたら上半身しかないのはやばいでしょ。そんなところに白昼堂々転がってるのが大問題。
私の視点では完全に仰向けのままのマネキンだったし、流石にあの距離で皮膚と布製を間違えるほど当時は目も悪くなかった。なんせブランコこいでる足が当たるか当たらないかくらいの距離だったので。
真相は不明だが、近くに服屋があったことからあれは不法投棄されたマネキンで、もしかしたら偶然男の霊が器にしていたのではないかと、今では思っている。