幽無が氷の妖精と話している同時刻。魔理はとある神のもとを尋ねていた。最初に話をした小野町茶々の時に仮説が立てられた神、《時械神》の事である。彼女の立てた仮説は、このクリスマスというイベントで不幸になる人物が一定数存在し、その人々を苦しめるために時間を操りこの日を繰り返させている。そんな仮説であった。
「自分で立てた仮説だけど、ちょっと強引すぎるか?流石に時械神様と言えどこんなくだらねぇ事はしねぇよな。」
「まぁ、ダメもとで聞いてみるってことだし、外れたら外れたで適当に謝っとけばいいや」
少しして、時械神の住む領域にとやってきた。神と言うだけあり、住処は人里離れた山中の社の中。何処ぞの巫女と余り変わりない場所に住んでるもんだと思ったが、それは口に出さず自分の心の中に閉まっておくことにした。
社に入り、すぐに時械神が現れる。大体160センチ程の身長で、白銀の髪をしており、髪飾りとして時計の短針と長針を模したヘアピンらしきもので髪を留めている。背には大きな歯車のようなものが浮かんでいて、視認した時に分かりやすいよう彼女なりの工夫なのだろうか。身につけている衣類は、シルクのドレスと思われる。
「おいーす。」
「あら?人の子である貴女が私になによう?」
「ちょーと聞きたいことがあって来たんよね。別に好き好んでここ来たいわけじゃないしな。」
「ふーん……」
「もしかしてその要件って《今日》の事よね?」
「何か知ってるのか?」
「残念ながらなーんにも知らないわよ。あんたが求めてる回答はね。」
「その反応からしてこの異変の犯人ではないんだな?」
「犯人であってほしそうだけど、私じゃないわ。」
はるばる山中に住む時械神の元を訪れたというのにここに来て彼女が犯人って訳でもないようだ。
「おっかしいなぁ…。私の予想ではアンタがクリスマスを楽しめない人々を苦しめるために、時間を操りこの日を繰り返させている、と予想したんだけど違ったかぁ…」
「それ面白そうね!今度やって見ましょうか」
「やるなやるな。面倒事を増やそうとすんじゃないよ。」
「まぁ、冗談よ冗談。確かに人の不幸をよく笑える私と言えど、程度が低いわ。」
「んじゃー、代わりに何か情報持ってたりしない?」
「使える情報なのかは知らないけど、いくつかあるわよ」
「マジ!?それ教えてくれよ!」
「構わないわ。私としてもこの時間は嫌いだしね」
そこから時械神はなるべく分かりやすく要所要所を省いて話してくれた。
まず第一にこの現象は時械神の仕業ではないこと。これは本人しか分からないものだが、彼女の話し方やその態度を見れば一目瞭然である。
次にこの時間を操っているものは誰か?
これは誰々と断定こそ出来はしないが、時械神が言うには元は、時を操る能力は持っていない者が何らかの影響で一時的に操れるようになったということ。ありえない話ではあるが現に時間を繰り返してるのが一番の証拠だと、時械神は言い放った。
では、その時を操る能力を持っていない者が操っていたとして、どんな影響を受けて操れるようになったのか?
色々な説があると時械神は話すが、可能性として一番高いものは、《想い》の力だという。想いというものは大きくなればなるほど様々な可能性を生み出すもの。奇跡を起こすこともあれば、想いが強いゆえに、呪いに変わるケースもある。そして今回のようになにか特別な力を一時的だが授かることもあるというのだ。例えば、とある人物には恋人がいて、その相手は自分の住む地域よりも遠い場所に住んでいたとする。片方は相手の事を大事に想い、何かあればすぐに駆けつけたいと思うほどである。この時《何かあればすぐに駆けつけたい》という想いが大きいとそれを目に見える、又は体験出来る形として現実に起こり得るという。この例で言えば、会いたいと願うから瞬間移動を一時的だが覚えることも有り得るという話だ。
では、今の話を元に今回のこのタイムループの事例を見てみる。時間が繰り返すということはなにか、時間を操ってでもなし得たいことがあるということになる。人が時を操ってでもなし得たいことって考えると、かなり的を絞れる。すぐに思いつくのは、自分の失敗を無かったことにしたいとかあるいは、大切な人にもう一度会いたいとかだろうか。
もし今言ったものが当てはまるとなると、この時間はそんな後悔の念が強いが故に、時を操る力を得てその後悔を払拭するために使われている時間という事ではないか?というのが時械神の見解だ。
ここまで話を聞き私もその話に妙に納得するものであった。時械神は一応時を操る神だが、ほかの知識ももちろん持っている。あくまで彼女はその数ある知識の中で《時》の才能が秀でていたそれだけだ。神である彼女の言うことは信ぴょう性が非常に高い。性格には難があるが、こういった真剣な話になると彼女もおちゃらけるのをやめて、本気で話し合いに応じてくれる。親しいから余計に信ぴょう性は高いのもあったりするが。
とにかく現状一番可能性が高いのは、何者かが一時的に時を操る能力を得て、己の後悔の念を払拭するために使われている、という考えでいいだろう。
「助かったよ」
「別に構わないさ。私としてもこの時間はそんな好きじゃないからね。とっとと解決して、私らに明日をよこしてくれよ」
「だいぶヒントを貰ったからな!もう、すぐに解決できそうだ!」
「なら、あの巫女様にも伝えておいてくれや」
「幽無を、知ってるのか!?」
「大体異変が起きれば彼女が動くだろ?」
「そりゃそうか。んじゃ、私はこれで!」
「ハイハイ……」
情報を得れたのを確認し早急にこの社を後にする。
彼女が去ったのを再度確認した後、粉雪降る、満月の夜空を見上げて思う。
「彼女らには犯人のことは伝えておかない事にしようかね。その犯人の行動も行動で健気なものだし、何よりそれを伝えた時彼女らにとって、大きな心の傷を背負うかもしれないからねぇ…」
「腐っても私は時械神だ。誰が時を操れるようになったかはちょーと本気出せばすぐ見つかる。現に見つけて呼び出してもいるしね。」
「けどまぁ……彼女の想いを聞いて流石に私も無下にはできそうになかったからな。この先どうなるかは彼女自身が決めることだ。外野の私はもうあれこれ言うことはしない方がいいだろう。」
外に置きっぱなしであった冷めた湯呑みを手に取りその湯呑みの時を操り、暖かかった時まで戻して中に入っていたお茶をすする。一息ついて再び空を見上げる。そして一言ポツリとつぶやく。
「これは長い長い《一日》になりそうだ……。」
時械神と話を終え山中を降りている時、遠くの方で鐘の鳴る音が聞こえた。どうやら気付かぬうちに0時を回っていたようだ。今日手に入れられた情報は早めに共有しようと足早に下山している時、魔理にもあの現象が襲いかかる。
「ん?なんだ…」
「急な睡魔が襲ってきやがった……」
「まっずい……山中で気を失うのは死を意味する」
「せめて山を降りてから……倒れねぇと…」
「くっ………ダメだ…。もう、瞳を閉じて…………」
幽無と同じように何とか抵抗するもそれは虚しく、彼女は山中で倒れてしまう。最後まで彼女は今得れた情報を忘れぬようにと、自分に何度も言い聞かせ
暗く深い底知れぬ闇の中に意識を落とした………