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#地雷系
トド村
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ミィちゃんは普段とは異なり、ウェーブのロングヘアー姿でCyBARSuccubusの衣装を着ている。メイクもいつもの地雷系メイクとは違い、ガッツリとアイシャドウを描いたセクシーなメイクだ。
「どうぞこちらへ。」
ミィちゃんは落ち着いた表情と振る舞いで僕を奥のボックス席へと案内する。いつものミィちゃんとは別人のような雰囲気に驚いた。
「ひーくん、今日は女の子の姿なんですね。」
「うん。ミィちゃんも、いつもと違って何というか……大人びた雰囲気だね。」
「今日はサキュバスですから。」
「じゃあ、そんなサキュバスのミィちゃんにキャスドリを。あと、僕はカシオレでもお願いしようかな。」
「かしこまりました。」
ミィちゃんはすっと立ち上がると、小走りでカウンターへと入っていく。ここまで雰囲気が変わるものなのか……本当に別人のようだ。コスプレイヤーの中にも、キャラクターによって雰囲気が変わる人がいる。しかし、ミィちゃんはレイヤー仲間と比べてもずば抜けてキャラづくりが上手い。
戻ってきたミィちゃんからカシオレを受け取り乾杯をする。
「ミィちゃん、髪型やメイクだけじゃなくて立ち振る舞いまで完璧にサキュバスだね。」
「褒められても……困っちゃいます。」
ミィちゃんは手を口に当てて「ふふっ」と笑う。
「じゃあ、単刀直入に聞くけれど、何でアイさんや優斗を避けているの?」
ミィちゃんの表情が一瞬曇ったが、すぐにサキュバスのキャラクターを取り戻し流し目でこちらを見る。やっぱりそうだ……。
今のミィちゃんはサキュバスを演じているのではなく、サキュバスを”演じざるを得ない”状況なのだ。人は動揺をしたり突然の出来事が起き心に余裕がなくなると「泣く」「怒る」などの普段とは違う反応を示す人がいる。
しかし中には、全く顔に現れない人もいる。その、全く顔に現れない人の中には、自分の「テンプレート」を持っており、それを常に実行できる人や、何かを演じることで顔に出さない人などがいるのだ――。今のミィちゃんは、サキュバスを演じることで平静を保とうとしているのだろう。
逆を返せば、今のミィちゃんは全く余裕がない状態だということだ。
「ユウト君から頼まれて来たんですか?」
「いや、ここに来たのは自分の意志だよ。ただ、優斗とアイさんから話は聞いた。」
「じゃあ、分かっていますよね。私は2人の邪魔をしたくないだけです。」
「2人はミィちゃんのことを邪魔なんて思っていないよ。」
「……そんなわけ……ないじゃないですか……。だってアイさんはユウト君に『アイさんが好きですって言わせる。』って言っていたし、ユウト君も『アイさんを好きだって胸を張って言えるように、アイさんのことを知ろうと思う。』って言ったから……。」
僕は思わずクスクスと笑ってしまった。また優斗のやつ、女の子のことを勘違いさせている。ミィちゃんは怪訝な表情を浮かべ僕を見た。
「ごめんごめん。ミィちゃんのことを笑ったわけじゃないんだ。ただ優斗の言ったその言葉は愛の告白ではなくて、本当に言葉のままの意味なんだと思うよ。優斗にとってはミィちゃんもアイさんも大切で、でも『アイさんのことをよく知らないから、アイさんのことをしっかりと知りたいです。』程度の意味だと思う。」
「何で、そんな風に言い切れるんですか?」
「優斗とは付き合いが長いからね。それに、優斗は”本当に困っている人”や”助けを求めている人”を放っておけないタイプなんだよ。だからアイさんに、そんな言葉をかけたんだと思う。」
ミィちゃんは納得いかない表情を浮かべる。
「あのねミィちゃん、話は変わるけれど、ミィちゃんは女装をしているクラスメイトがいたらどう思う? しかも男子校でクラスメイトが女装をしていたら、みんなどんな反応をするかな?」
ミィちゃんは顎に手を当てて考え、言葉を選びながら話す。
「何だか……みんなからいじられたり……最悪いじめられたりしそう……。」
言葉を発しながらミィちゃんはハッとした表情を浮かべる。
「普通はそうだよね。でも高校生の頃の優斗は僕の女装姿を見てなんて言ったと思う?」
「可愛い……ですか?」
「それがね、『抜ける』って言ったんだ。」
◆◆◆◆
7年前――僕と優斗が高校1年生の頃――。
人生が終わる瞬間というのは唐突にやってくるものだと齢16歳で初めて気が付いた。何も人生が終わるというのは死ぬことだけではない。仲間たちから外されて笑いものにされることも人生の終わりに等しいのだ。
人は皆、氷の上を歩いている。そして今、僕の足元の氷が一瞬にして砕けたような感覚を覚えた。
「これ、森だろ~。お前女装なんかしてんのかよ~。」
スマホ画面に映し出されたのは先日の夏コミでコスプレをしていた時の僕の映像――コミケは、その知名度が大きくなったことでニュース番組などでも取り上げられるようになった。コミケ会場内にも取材をするキャスターやカメラマンが数多くおり、コスプレをしていた僕も彼らの取材に応じたのだ。
その時の映像が、ネットで可愛いと話題になりSNSで拡散された。その結果、クラスメイトたちにも発見され、取材の際の声と顔立ちから僕であることがばれたようだ……。
スマホゲーの夏衣装――オレンジ色のビキニ水着にパレオを巻き、ロングヘアーのウィッグを付けて胸を盛った僕が画面の中で話始める。
『高1です。女の子に間違えられることがあるんですけれど、僕は”男の娘”なので――。』
その後、「男の娘」というドデカイテロップが表示され、しばらく男の娘の説明が流れた後、再び僕が表示される。
『性自認は男ですけれど、女装コスは普段とは違う自分になれる気がして好きです。』
わずか1分にも満たない映像……しかし、この映像でクラスは爆笑に包まれた。
コメント
1件
うわ、この回はエモすぎる…! ミィちゃんがサキュバスを「演じざるを得ない」状態だって気づく博巳の洞察力、めちゃくちゃ刺さった。そして「優斗は『抜ける』って言ったんだ」からの7年前の回想、最高すぎるでしょ。クラス中に女装がバレて人生終わった気分の博巳に、真顔で「抜ける」って言える優斗、強すぎる。この2人の関係性の根っこが一気に見えた気がするわ。続きめっちゃ気になる!