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でもそれを悟られたくないと思ってたのに、気づかれてしまったらしい。
「はは、ちょっと疲れてるのかも」
苦笑いで誤魔化すけど、田中は納得していないようだった。
「あんまり無理すんなよ」
その優しい眼差しが、余計に寂しさを募らせる。
「うん、ありがと」
そう言いながらも、やっぱり寂しさはどうしようもなかった。
そしてふと思った。
(尊さんはどう思ってるんだろう……本当に、俺たちこれで終わりなのかな)
気になるけど、聞くことなんてできない。
聞く勇気もない。
でも、尊さんとこのまま終わるなんて、嫌だ。
絶対に嫌なんだ。俺はこんなにも尊さんが好きなのに
たかがケーキだとか
フォークだとかがバレただけで、尊さんとの仲を引き離されなきゃ行けないなんて、おかしいよ。
やっぱり、尊さんとちゃんと話したいし…
このままサヨナラなんて嫌だ……っ
そう思った俺は、帰りに会社の前の喫煙所で尊さんが出てくるのを待つことにした。
心臓がうるさく鳴り響く。
「雪白?」
待つこと30分、尊さんの驚いた声が聞こえた。
待ち伏せした自分を知られて、恥ずかしくて顔が熱くなる。
けれど、ここで引き下がるわけにはいかない。
「あのっ、尊さん。やっぱ俺…このまま、サヨナラしたくないです…っ」
尊さんの表情は、あいかわらず曇ったままだ。
その目に映る自分は、ひどく情けなく見えた。
「雪白……この間言ったろう。もう終わりにするしかないんだよ」
分かってる。
でも、もう一度だけ、俺の気持ちを伝えたかった。
「分かってます。けど……俺は、それでも尊さんが好きなんです…離れたくないんです……っ!」
「……」
尊さんは黙り込む。
その沈黙が、俺の心をさらに深くえぐった。
「ごめんなさい……迷惑だってわかってるんですけど……でも……」
言葉が途切れる。何も言い返せない。
「…分かってるなら、今はただ仕事に集中しろ、もう鈴木から嫌がらせもされてないんだろ?」
尊さんの声は冷たい。
まるで俺の気持ちを拒絶する、分厚い壁を作っているようだった。
「た、確かに…突然、嫌がらせされることはなくなりましたけど…」
それはそれで怖いけれど……。
「なら尚更、俺とのことが問題視されて雪白が被害を蒙り兼ねないことは避けるべきだろ」
尊さんが俺の肩にそっと手を添えたかと思えば、すぐに俺の横を通り過ぎて行ってしまった。
その手は温かかったのに、その言葉は冷たかった。
尊さんは優しく微笑んだが、その優しさの中に冷たさを感じてしまう。
(尊さん……どうして…)
その日は結局、何も考えられないままベッドに潜り込んだ。
でもやっぱり寝付くことができなくて、朝になってしまったので諦めて起き上がる。
会社へ向かう足取りは重い。
行きたくないという思いが胸の中で渦巻いていたけど、休むわけにはいかなかった。
オフィスに入ると、既にほとんどの人がデスクについて作業している。
いつも通りの風景。
だけど今日はなぜか違和感があった。
自分の席に座る前にチラリと尊さんの方を見ると目が合った気がしたけれど
すぐに逸らされてしまった。
ズキンッ―――
また心臓が痛む。
なんで俺たちこうなっちゃったんだろう……。
俺のせい?わかんないよ、尊さん…っ
そんな疑問を抱えつつ、自分の仕事を進めた。
集中できないまま午後になり、少し息抜きしようと自販機に向かう途中だった。
廊下を歩いている時に、背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
振り返ると、そこには鈴木がニヤつきながらこちらを見ていた。
その顔を見ただけで、胃のあたりがぞわりとする。
「雪白じゃん、今日もひとりー?」
咄嗟に身構えるも、相手は何も気にせず近寄ってきた。
「烏羽サンと食べいかないんだ?」
相も変わらず痛いところを突いてくる。
苛立ちながら言い返す余裕もなく、無視してその場を去ろうとすると、腕を掴まれた。
「おいおいシカトすんなよ〜」
「……」
仕方なく立ち止まると、今度は耳元で囁かれる。
「お前の恋人って、あの烏羽サンだろ?あ~でももうお前振られたんだっけ?w」
その不快な吐息が鳥肌を立てさせた。
「な……なんでそんなこと知って」
動揺して思わず質問してしまう。
すると、鈴木はさらに楽しげに笑みを浮かべた。
「だって、そう仕向けたの俺だし?」
「……は…?」
俺は状況が飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「いや〜面白かったよwwあの烏羽サンがあんな焦った顔するなんてなwまぁでもおかげで面白いモン見せてもらったし感謝してるわ!」
「……っ、なに、それ……どういう、こと?」
「ワケが知りたいなら今日、定時後に俺のデスク来たら?」
その言葉を最後に彼は行ってしまった。
一人残された俺はしばらく呆然としていたが、昼休みがあと3分で終わることに気づき
ハッと我に返り、慌てて自分のデスクに戻った。
(でも、なんで……鈴木が仕向けたって…烏羽さんが素直に鈴木に従うとは思えないけど……っ)
いくら考えても分からないことばかり。
ただ一つ分かることは、鈴木が全てを知っているということ。