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そして、尊さんとの別れに彼が関わっているということ。
◆◇◆◇
その日の業務はまったくと言っていいほど捗らなかった。
終業後すぐに荷物をまとめていると、鈴木が視界の端に映り込んだ。
かと思うと、俺のデスクに重心をかけるようにドンっと手を置いて顔を覗き込んできて、思わず身構える。
「もう他の社員は帰ったし…ま、ゆっくり話そーよ?」
その言葉は優しく聞こえたが、その目は俺を逃さないと告げていた。
言われなくても、この男からは逃げられない。
◆◇◆◇
誰もいないフロアは薄暗く静まり返っている。
唯一照明の点いている鈴木のデスクだけが異様に明るく照らされていた。
鈴木は俺の椅子に腰掛け、足を組む。
その態度が、俺の神経を逆撫でする。
「でー、何聞きたいんだったっけー?」
鈴木は爪をいじりながら言った。
その態度に内心ムカつくものの、冷静になろうと思い深呼吸をして答えることにした。
「……尊さんに、なにかしたの?仕向けたって、どういうことなの…それに、どうして尊さんと俺が付き合ってるの知って…」
「ふっ、そんなの〝見たから〟だよ?」
鈴木はわざと勿体ぶるようにニタリと笑ったあと
自分のスマホを操作して「ほらこれ」と液晶画面を俺の方に向けてきた。
そこに表示されていたのは、尊さんにデスクに押し倒される形で、俺と尊さんがキスをしている写真だった。
あの時、俺が一番幸せを感じた瞬間。
「なん……で…こんな写真を……!」
それが、こんなにも卑劣な形で切り取られ、利用されている衝撃的すぎる光景に目眩がする。
「そりゃあもちろん?お前を独りにしたいからに決まってんじゃん?w」
悪びれもなく言い放つ姿を見て、怒りでどうにかなりそうだった。
「じ、じゃあ…尊さんが別れようって言ったのも、鈴木に…脅されて……っ?」
「そんなんで別れるぐらいなら本気じゃなかったってことでしょ。所詮あいつもフォークだし?恋人ってより食用要員ってかw」
その言葉を聞いた瞬間、怒りで身体が震えるのが分かった。
(尊さんがどれだけ俺のことを大切にしてくれていたのか知らないくせに……っ)
「尊さんのことバカにするなっ!!!!」
気がつくと俺は机をバンッと叩いて立ち上がっていた。
「おぉ怖ぁ」
鈴木は驚くどころか、逆に煽るような言い方で笑うだけだった。
「俺のことが気に入らないのは分かるけどさ…っ!尊さんまで巻き込むなんて最低だよっ!!」
感情的になりすぎて、上手く喋れない。
悔しさで涙が出そうになる。
「まぁ落ち着けよ?安心しなって。最初から俺の狙いはお前だけだし?」
「ね、狙い…?」
鈴木の意味深な言葉に首を傾げると、彼は妖艶に微笑んだ後、さらに信じられない言葉を口にした。
「俺も烏羽さんと同じフォークでさ?お前のこと狙ってたんだよね~」
「……え」
鈴木のまさかの告白に、思考停止する。
そんな、まさか。
「だからお前のこと仕事で追い込んで弱ったところ襲おうとしたのに、ボディーガードかよってぐらいに烏羽と一緒だしさ~」
「だからこの写真で烏羽ゆすったってだけ、なんか問題ある?w」
鈴木は嘲笑しながら語り続ける。
その様子に吐き気を覚えるほど嫌悪感を覚えた。
「ま、そんなことはどーでもいっか。今から俺は部署内でも噂されてるケーキのお前のこと食えるんだし?」
ニヤリと笑った彼の目は、獲物を捉えた獣そのものだった。
そして俺に手を伸ばしてきたかと思うと、そのまま床に押し倒された。
「やっやめっ……!!!」
絶対絶命に思えた
俺の叫び声は、誰もいないフロアに虚しく響く。
そんなときだった───。
「鈴木……!」
低く怒気の籠もった声が、フロアに響き渡る。
その声の主は、ここにいるはずのない
社長の秋山さんだった。
「しゃ、社長……!?」
さすがの鈴木も、社長に見られるのは予想外だったのか
サッと俺から離れて社長にぺこぺこと遜る。
「鈴木……お前の話は烏羽から全て聞いている」
「ち、違うんですよ!これはなんつーか、誤解で…!!」
「話にならないな」
「……は」
「お前の行動は目に余るものがある」
秋山社長は呆れ果てたように溜息をつくと、俺を庇うように鈴木に言い放った。
「雪白くんに対するパワハラ行為及び烏羽くんへの恐喝行為など全て……クビは免れないだろう」
「は……!?」
突然の発表に、戸惑いを隠せないまま固まってしまう。
一方、鈴木の方も開いた口が塞がらず、信じられないといった表情だ。
「ちょ……っ、冗談ですよね……?クビとか……」
「うちでは過去に〝そういう〟事件も起きている。処分については追って連絡する……連れて行ってくれ」
秋山さんの合図で他の社員が数人入ってきて、鈴木を半ば強引に連れ出していく。
それでもなお抵抗しようとする鈴木だったが、最後まで喚き続けていた。
驚きの方が大きくて動けずにいると、こちらに向き直った秋山社長は
先程までの威圧的な雰囲気ではなく、穏やかな眼差しで口を開いた。
「雪白くん、対処が遅くなってすまなかったね」