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ロケ終わりに発破を掛けた後で、通路を挟んだ帰りの新幹線の隣の席で本を読んでいる阿部ちゃんを観察しながら、俺はスマホゲームをしていた。
「百面相だ…」
阿部ちゃんは目の前の本に集中しているのかと思いきや、時々考え込んだり、ぶつぶつと聞き取れない声で何事かを呟いている。
阿部ちゃんの様子がおかしいなと思ったのは、けっこう前。
翔太にもらったグミを開封せずに持ち歩いてるのを見た時だ。
『ねえそれ、この間のグミ?』
『ああ、うん。食べるタイミングがなくて…』
指摘されてどぎまぎしたのか、阿部ちゃんは見えないように衣装のポケットに咄嗟にグミの小袋を突っ込み、そのまま撮影に臨んだ。
撮影が終わり、別仕事に向かう阿部ちゃんを見送って10分ほど経った楽屋に、出発したはずの阿部ちゃんが息を切らして、慌てた様子でとんぼ返りしてきた。
『はぁっ!!佐久間っ!、スタイリストさんどこっ?衣装持ってっちゃった?』
まだ隣りの部屋にいることを伝えると、慌ててそっちへと走って行く。
後ろから覗いてみると、自分の着ていた衣装のポケットから、例のグミを無事回収し、スタイリストさんに頭を下げているところだった。
『すみません、ありがとうございます』
阿部ちゃんが翔太にグミをもらっているのを見たのはその日じゃないし、俺に隠したそのグミを回収して明らかにほっとしているのは、あれが特別なものの証だろう。
それから一緒に現場入りするたび、何となく阿部ちゃんを観察する日々が始まった。そして、翔太のことも。
二人を見ていると…
「あいつら…イイ感じじゃね?」
だけど俺はそれは敢えて教えてやらない。だってお互いの気持ちに最初に気づくのは当人たちであるべきだと思ったから。