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月影が村田に“警告”する日
夕方。
都内の小さな喫茶店。
古い店だった。
壁には色あせたポスター。
テレビは音を消して流れている。
客も少ない。
月影真佐男は
奥の席に座っていた。
コーヒーはもう半分以上減っている。
彼は時計を見る。
その時。
ドアのベルが鳴った。
「すみません、遅れました」
村田孝好だった。
短い茶髪。
少し丸い体。
相変わらず忙しそうな顔。
そして椅子に座る。
「月影さん珍しいですね」
笑う。
「呼び出しなんて」
月影は言った。
「仕事の話だ」
村田は笑顔のまま答える。
「ですよね」
店員が水を置く。
村田はそれを飲んでから言った。
「で?
何かやらかしました?」
月影はタブレットを出した。
画面を村田の前に置く。
そこに映っているのは
港区公民館
顧客ログ
村田は数秒見て、
そして苦笑した。
「あー」
頭をかく。
「これですか」
月影は聞く。
「知ってたのか?」
村田は首を振る。
「いや
集まりは知らない」
指で画面を軽く叩く。
「でも
まあ」
笑いつつ、
「怒ってるだろうなとは思ってました」
月影は少し黙った。
それから言う。
「村田
お前」
一拍おいてすぐ、
「何人抱えてる?」
村田は真顔で考える。
「えー」
言うなり
指を折る。
「二十……
いや、
二十五くらい?」
月影はきっぱりと言った。
「多すぎる」
村田は肩をすくめる。
「頼まれるんですよ」
月影は画面を閉じた。
そして静かに、
「佐伯が動いた」
村田の表情が少し変わる。
「監視レベル上がった」
「行動ログ」
「契約外接触」
全部見られる。
村田は少し黙った。
それから真顔で、
「俺、犯罪者ですか」
月影は首を振る。
「違う」
そして語気を強め、
「だから問題なんだ」
村田は
しばらく首をかしげ、
「どういう意味です?」
月影は少し考えて、言葉を選ぶ。
「お前は」
一拍。
「会社の設計を壊してる」
村田は軽い驚きを隠さずに笑う。
橘靖竜
「そんな大げさな」
月影は続け、
「顧客が
会社じゃなく
お前に依存してる」
村田は答える。
「信頼ですよ」
月影は言った。
「と、思うだろうが
会社はそれを望んでない」
村田は少し黙った。
そして聞いてみる。
「で?
どうしろって?」
月影は答える。
「いち、距離を取れ」
「に、顧客を分散しろ」
「さいご、契約外接触やめろ」
村田は数秒考えた。
そして言う。
「……さすがに
それは無理ですね」
月影はため息をつく。
「理由は?」
村田は真顔で言う。
「困ってるんですよ」
月影は少し黙る。
村田は続ける。
「子どもが泣いてる家とか
メンタル崩れてる人とか
一人暮らしで限界の人とか」
肩をすくめて、
「放っとけないですよ」
月影は静かに言った。
「それが」
一拍。
「危ない」
村田は笑う。
「俺が?」
月影は首を振る。
「違う。
会社が」
村田は少し考える。
それから言う。
「月影さん
一つ聞いていいですか」
「ああ」
村田は真顔で言った。
「この会社
本当に」
一拍。
「人助けする会社なんですか?」
月影は答えられなかった。
店の外。
夕方の光。
人が歩く。
車が通る。
数秒後。
月影はコーヒーを飲んだ。
そして言う。
「村田
一つだけ」
村田をチラリと見る。
「顧客の中に」
一拍。
「野村花子がいる」
村田は少し驚いた顔をする。
「え?」
月影は言う。
「佐伯がタグ付けした」
村田の表情が初めて曇る。
「……それ
ガチやばいですか」
月影は短く答える。
「やばい」
沈黙。
月影は最後に言った。
「村田
一つ覚えとけ」
村田を見る。
「この会社は」
一拍。
「人間が人気出すと」
少し笑みながら、
「嫌がる」
村田は苦笑した。
「なんか
変な会社ですね」
月影は立ち上がる。
「そうだな」
小さく言う。
「俺もそう思う」
その夜。
マルトク本社では
村田の監視ログが
静かに増えていた。
特別観測対象
村田孝好
関連人物
野村花子
そしてまだ誰も知らない。
この二つの名前が
やがて
マルトクそのものを揺らす
ことになるのを。
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