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全ての動物悪魔を捕まえてホッとした空気が流れる中、数十年に亘(わた)って孤独に動物達の観察を続けるという苦行を為してきた存在、ツミコが大きな声で警戒を告げたのである。
「象が一頭しかいないぞっ! こいつはダンボ♀、という事はシャンティ♀がまだいる筈だぁ! デカい象! いいやデカいぞっ! まだ、気を抜くんじゃないよ!」
リョウコやカルキノス、フンババは即座に緊張した顔で周囲を警戒し始めたが、しゃがみ込んでヒゲワシを縛っていたリエは首だけを動かして周りを確認した。
自分の背後の茶畑に視線を移した時だった、今までどこに隠れていたものか、巨大で二足歩行の象が仁王立ちしており、象使いが調教で使いそうなアンクーシャを握り込み、その背につけられた斧の鋭い刃が、今まさに自分に向けて振り降ろされている光景が映ったのである。
今から立ち上がって走り出してもとても回避できない、そう思ったリエが恐怖によって目を瞑り全身を硬直させた時だった。
ガッキィンっ!
重そうな斧を受け止めてリエを守ったのは、いつもスカンダが携えている銀色の錫杖(しゃくじょう)であった。
細身で一見弱々しくさえ見える杖を回転させて、いとも簡単に斧を象の手から搦めとり、遠くへと放りだすスカンダは象の喉元に錫杖を突き付けながら言うのである。
「お前? ガネーシャか? 何故お前がバアルに従っている?」
ん? 知り合いのようだ。
「スカンダ…… 兄貴か、俺は誰にも従っちゃいない、只、親友のハンニバルに頼まれたから…… 配下を連れてやって来ただけだ、兄貴こそ何でここに、ここの人間は全悪魔の敵、聖女の一族だぞ! 今からでも遅くない、俺と一緒にこいつらを殺そう! 報酬だって弾むって話だったぞ! な、そうしようぜっ! 大体兄貴はいつも――――」
「親父がいるんだよ、ここの長女とパーティ組んでるんだ」
スカンダの弟らしいシャンティを依り代にした二足歩行の象、ガネーシャが顔面を引き攣らせながら聞き返す。
「お、おおお、親父って、ど、どどどど、どの、オヤジ?」
スカンダが無表情なままで答えた。
「親父は一人しかいないだろうが、因み(ちなみ)にアムシャ・スプンタのオジサンオバサンも全員いる…… さらにディアボロス、魔神アスタロトもいたりするし、驚くことにラー、大口の真神(オオクチノマカミ)口白(クチシロ)なんかはペット扱いだったりもする、もっと言えばゼパルやガープやベレトやカイムや七大罪やマモンやベヒモスやアスモデウスやパイモンやベルフェゴールやベリアルやレヴィアタン、更に更に言えば、先々代の『真なる聖女』と先々々代の『真なる聖女』も当然の様に味方として介入してくるし、そもそもここのリーダーは只の聖戦士じゃなくモノホンの『聖魔騎士』で相方のここん家の長女も只の聖女じゃなくて当代の『真なる聖女』だ…… どうするんだ? ガネーシャ、なあ、お前どうする? どうしたい気分なんだ? ほら、お兄ちゃんに言ってみろって!」
途中から体をガタガタと震わせて、涙をぽろぽろ流していたガネーシャは、嗚咽が止まらないようでまともに返事が出来なかった。
「こ、殺される、ヒグっ、お、親父に、首、首、チョンパ、ヒグっ、あ、兄貴ぃ、ヒグっ、今度、な、何の、ヒグっ、首、かな、ヒグっ」
そう、ガネーシャが象の首になったきっかけは、誤解から激怒した父親が、まあシヴァなんだが、首を切り落として投げ捨てた後、自分の息子だと気づいて慌てて首を探したのだが、どうしても見つからなかったので、そこらに居た無実の象の首を代わりに切断して持ち帰り、強引に取り付けた事が原因だったのである。
その後、可哀想と言う事で兄弟の序列を入れ替えてガネーシャが兄扱いになったのだが、当人同士の間では昔通り、兄はスカンダとの認識のようだ。
リエが横から声を掛けた。
「お地蔵様の弟さんなの? だったらアタシ達のパーティー『六道(りくどう)の守護者』に入れてあげるよ! シヴァ君から守ってあげるわよ?」
「っ!」
六道の守護者のパーティーメンバーが追加されたようである。