その時、獪岳が取った行動は、鬼としてさらに強くなるための向上心から取った行動か、はたまた彼にまだ人間としての焦燥感と怯えが残っていたのかは分からない。無限城を黒い黒雷が、いまだかつてない速度で駆け始めた。逃亡だ。わために追う力は残っていない。
(くそ…!こんな終わり方…、仲間たちが報われない…!こんな……運命があるのか……?)
「はっはあ!さすがに体力の限界のようだな!一般人が戦場にのこのこ出てくるくらいなら田舎でひっそり暮らしてりゃ良いんだよぉ!!じゃ、あばよ!!俺はこの戦いで武功をあげ…鬼舞辻様への忠義を示し…上弦に食らいつく!!ゆくゆくは上弦の壱を目指してな!!」
無限城の景色が変わり、2階建ての動くような王宮の階層へ獪岳が飛び乗ろうとした瞬間。はるか上空、これまた動く宮殿の方向から、黒い光が辺りに舞い、一人の少年が現れた。
「黒閃!!」
黒い閃光が響き渡り、奥の間に獪岳が飛ばされる。拳だけではあり得ない威力。まさに鬼神。
「あれ?あいつぶっ飛ばして大丈夫だったかな?伏黒」
上の階層から姿を現したのは、虎杖と伏黒だった。二人はわためのいたところに落下してきたのだ。伏黒は自身の式神、異形の化け物鵺を使い、飛来してきた。
「虎杖、お前も聞いただろ。あいつは鬼の中でも強力な上弦の陸。確実に倒さないといけない相手………まじかよっ…」
「あ?」
虎杖は、あらゆる階層へと繋がる階段や廊下の奥から何者かが飛び降りてくるのを感じ取った。呪力の塊。間違いなく呪霊。しかしこれは…
「特級か!?」
すると、禍々しい気配が降り立った。
「オロカナ…ニンゲンハ…ツチニカエリナサイ…」
左腕は黒ずんでおり、肩には巨大な薔薇のような花が咲いている。この呪霊を虎杖は知っている。
「あいつ…交流会のとき、俺が東堂と一緒に戦った…」
「まじかよ…あいつらも来てるのか!?」
その時、ふっとばされた獪岳も傷が完全に回復し、戦闘へと戻ってきた。
「お前ら…なんなんだよ…はっ…まあいい!ここでお前らを倒し、位上げと行くか!」
無限城の大きな動く廊下を小さい体と、大きな体。まさに親子のような2人が歩いていた。
「大丈夫!?枢ちゃん!疲れてない!?」
続いて青い毛がぴょこぴょこ跳ねる
「だ、大丈夫だよニコたんっ!それにしても、何なのこの空間!終わりが見えないよ〜!」
二人は同じような空間をかれこれ1時間ほど走り続けていた。そろそろ疲労困憊で倒れていてもおかしくない時間帯だ。その時、隣の部屋から、シャクシャク…という気味の悪い音が響く。そうまるで咀嚼音のようなーそして、泣き声も混じっているー?ような声がしていた。
「誰かいるかも!」
枢が障子に手をかける。それをニコが必死に止めようとするが、
「待って、枢ちゃん!!」
時すでに遅し。障子をガラッと開いた瞬間に、こちらに風とともに鉄の匂いが周りに充満する。そして、その空間の真ん中にいた人物がこちらを向いた。
「あ、またごちそうだー」
虹色の瞳、教祖のような帽子、頭から血を被っているような、そして目には上弦と、弐の数字。そう、鎹鴉の報告にもあった上弦の中でもトップクラスの実力を誇っているであろうー上弦の弐。しかし2人が驚いたのはそこではない。上弦の弐が肩にかぶりついている人物。まだ生きている、瞳にも光がある。まだ助けられる。惨たらしい姿にさせられたのは、あの男のせいだろう。枢が震える声で叫ぶ。
「ヴィヴィ!!」
その時、上弦の弐が狂喜乱舞する。
「あー、この子の名前!ヴィヴィちゃんって言うんだ!必死に抵抗してたときも名前教えてくれなかったんだよねー」
その言葉でニコの怒りは頂点に達する。その時、ニコが偶然拾っていた刀が輝きを放つ。
「……お前、ヴィヴィのためにいっぺん死んで詫びろ。」
「雷の呼吸壱の型」
踏み込みを聞かせ、音をも置き去りにした攻撃が響き渡る。踏み込みを聞かせた板にはヒビが入り、少し遅れて、無限城全体にも届きうるバリバリバリィッという轟音が辺りに響く。
すると、凄まじい速度で辺りに鮮血が舞い、童磨の手が切断され、ニコはヴィヴィを抱きかかえて、部屋の端まで一息で渡る。かろうじてヴィヴィは意識はあるが、肩を少し食いちぎられている。このままでは出血多量で命の危機に瀕するだろう。枢にヴィヴィを預けるべく、童磨にやられないように危険性を確認してから、枢までの最短ルートを導き出す。
「わあ!速い速い!これは楽しめそうだ!いやー面白いね!しかも、女の子たちが勇気を振るって僕に立ち向かってきてくれるんでしょ?最高の夜だねぇ…俺の名は童磨。女遊びは大好きなんだよ…宴を始めようか」
隙を見たニコは、雷の呼吸を足に溜めて、入り口に戻ると、ヴィヴィを枢に高速で届け、ニコが臨戦態勢に入る。
「童磨。」
「お前はもう生きてはいけない生物だ。」
虎の本能が、鋭く睨んだ眼光を童磨の方向へ向けた。夜はまだ始まったばかり。
コメント
1件

ニコたんやべぇ…すうちゃんも…、、童磨…ヴィヴィに手を出すとは…!