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ノッテンガム城からは、
まだ歓声の余韻が漏れていた。
王妃御前弓大会。
義賊ロビン・フッド。
悪徳代官ノッテンガム卿の成敗。
すべては、
まるで最初から筋書きがあった芝居のように終わった。
民衆は熱狂し、
王家を称え、
若きジョン王子へ喝采を送っている。
――だが。
サイラスだけは、
どうしても気になっていた。
あまりにも出来すぎている。
まるで誰かが、
最初から舞台を作っていたかのように。
だから彼は、
王妃エレノアを訪ねた。
ノッテンガム城
サイラスと王妃
「話してもよろしいですか」
「ええ」
「事の始まりはリチャードの遠征式だったのではと私は考えています」
「”俺も行く、俺も連れてってくれ”と」
「弓を担いだ少年がリチャードの行列に頼み込んで」
「騒ぎになった」
「あなたはその少年を覚えていた」
「のちに王家の森で鹿をうつ禁を犯した少年の名を」
「その時の子と同じだと知った。」
「リチャードに対するあこがれ」
「王家に対する忠誠」
「そのことを心にとめておいた」
「聖地奪回の遠征はこの国の財政を直撃した」
「商王と呼ばれたカルドですら打つ手がなかった」
「苦悩に悩む父を助けたかったんでしょう」
「ジョン王子は遠征の間、盛んに税の勉強を始める」
「あなたにとって兄に対する劣等感でふさぎがちだった」
「ジョン王子が一心不乱に勉強する姿は」
「まぶしかったんでしょうね」
「……」
「サイラス」
「あの子にね、昔、お菓子をあげると」
「半分に割ってリチャードにもっていく子だったわ」
「優しさも甘さも罪ではないわ」
「それをあの田舎代官は……」
「そう、ノッテンガム卿は優秀でした」
「ただ過ぎた野心を持っていた」
「彼はジョン王子の“善意”を利用した」
「国を救いたい」
「父を助けたい」
「兄に認められたい」
「その願いへ」
「数字”を与えた。」
『税を増やせば救える』
『抜け道を塞げば国は豊かになる』
『民の不満は力で抑えればいい』
「理屈だけなら間違っていない」
「実際、ノッテンガムの財政は文句のつけようがなかった」
「……ええ」
「でも」
「人の心は帳簿じゃない」
「ノッテンガム卿は」
「民を“数字”として見た」
「だからここには民衆が反乱する下地があった」
「ここは推測なのですが」
「あなたはノッテンガム卿を」
「ジョン王子の側から排斥するため」
「ロビンに反乱を起こさせようとした」
「それをノッテンガムに鎮圧させる」
「できてもできなくともそれを口実に」
「排斥する」
「そんなとこだったんだろうと思います」
「でも誤算がうまれた」
「私が王都より先にノッテンガムに行くことが分かった」
「あなたはロビンたちに私が王都の役人だとうその情報を流し」
「捕まえさせた」
「反乱のシナリオを邪魔されたくなかったからだ」
「ロビンたちは反乱ではなく」
「義賊として代官に抵抗する道をとった」
「サイラス、あなたがが言ったのでしょうね」
「……」
「民衆は拍手喝さいを送り」
「王都へもその噂は広まっていった」
「このうわさが大きくなるにつれ」
「あなたは、起きてしまった誤算すら利用した」
「この人気をジョン王子の後押しにできないかを」
「弓大会を舞台に」
「ウィリアム・マーシャルを私のもとに派遣して」
「さもロビンを救うふりをした」
「全部、ジョン王子のためですか」
「あの子はね」
「本当は王になんて向いていないんだよ」
「ジョンは優しすぎる」
「誰かが泣いていると、自分が悪いと思ってしまう」
「だから」
「あの子なりに強くあろうとした」
「兄のように強く」
「カルドのように賢く」
「……けれど、なれなかった」
「税を学び」
「法を学び」
「国を守ろうとした結果」
「あの子は間違った道に向かおうとしていた」
「だから私は」
「止めたかった」
「ジョンが、本当に取り返しのつかないものになる前に」
「そのための弓大会」
「そう」
「民衆の前で悪を裁く」
「王家が民の味方であると示す」
「そしてジョンに、“王とは恐れられるだけでは駄目だ”と教える」
「……今日の歓声を」
「あの子はきっと忘れない」
「あなたは」
「ジョン王子を守った」
「母親だからねえ」
「ジョン王子は、あなたに感謝するでしょう」
「……どうかねえ」
「親なんてものは、恨まれるくらいでちょうどいいのさ」
「サイラス、子を思う親の気持ちは」
「農婦も王妃もさして変わらぬ」
「……」
「ところで」
「ノッテンガム卿には殺されるほどの悪事はあったのですか」
「徴税のために何人も破滅させた」
「法を盾にして民の逃げ道を奪った」
「ジョンの名を隠れ蓑に己の野心を満たそうとした」
「まあ」
「カルドは最後まであの男を切れなかった」
「見抜いていたのにね」
「だから私がやった」
「……国っていうのはねえ」
「正しいだけじゃ治まらないんだよ」
「民は安心したい」
「悪を憎みたい」
「英雄を見たい」
「だから私は舞台を作る」
「王家が“正義”であり続けるための舞台をね」
「ごらん」
「誰一人として王家へ不満を向けない」
「むしろ喝采している」
「その代償に」
「ノッテンガム卿は」
「最初から切って捨てる予定だったんですね」
「わたしはね」
「あの男が息子を踏み台にしようとしていたことが」
「どうしてもゆるせなかったのさ」
「それでどうする、サイラス」
「いつもの女の子はいないのかい?」
「森に置いてきました」
「死ぬなら一人でいいかなと」
「あまちゃんなのに慎重だね」
「リチャードもジョンも見習ってほしいものだね」
「このあと皆で食事をするんだ」
「おまえもどうだい」
「その切り替えが怖いんですよ」
「家族の団欒の邪魔しちゃ悪いので帰ります」
「そうかい」
「また会いたいね」
「そうですね」
「では」
ノッテンガム城を出る頃には、
夜風が少し冷たくなっていた。
城の上階からは、
まだ笑い声が聞こえている。
リチャードの大声。
カルドの笑い。
何かを言い返すジョン。
そして、
それを聞いているエレノアの声。
サイラスは足を止めた。
石造りの城壁を見上げる。
――あれが王家か。
少しだけ、眩しく見えた。
血を流し。
争い。
憎しみ合いながら。
それでも同じ卓を囲む。
滑稽で、
面倒で、
どうしようもなく人間らしい。
「……かなわないな」
小さく呟く。
森では、
ロビンたちが待っている。
帰る場所がある。
それだけで十分だ。
サイラスは外套を翻し、
夜のノッテンガムを後にした。
遠くで、
祭りの名残の歌声が聞こえていた。
fin
コメント
1件
このエピローグ、すごく沁みました。「人の心は帳簿じゃない」って台詞と、エレノアが「親は恨まれるくらいでちょうどいい」って笑うところが特に。あの爽やかで切ない余韻、大好きです。
#異世界転生
こはる
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