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ともかく、その日は朝も早くから天野商店につどった私たちは、さっそく事態の 照合と精査に取り掛かった。


どうしても無関係とは思えない束帯姿の少女のこと。


彼女と直接対峙した友人ほのっちの見解に、人間わたしたちの所感。


それに何より、当の女性について。


「神さん、だと?」


他心通がある手前、史さんの前では誤魔化せないと判断したのだろう。


かの少女の正体については、友人の口からあっさりと明かされた。


ともすれば、昨夜の緘口かんこうぶりにも得心がいった。 ほのっちは、少女の体面を守ろうとしたのだ。


夜の学校でひっそりと泣き濡れるのは構わないとしても、それで人を怖がらせたとあっては、さすがに体裁ていさいが悪い。


「うん、間違いないと思う。 どっちかまでは判らなかったけど」


「まぁ、お前さんの眼ぇ疑うわけじゃねえけども」


彼女の言う“どっち”とは、あめくにか、神々の所属に関する旨だろう。


勢力図のような物は特にないが、地上で起こる諸々の禍事まがこと、有事に際しては地の神に決定権があるのだと、以前聞いた覚えがある。


「名前は聞かなかったよ?」


「そりゃ意味ねえな。聞いたところで意味ねえよ」


一柱の神に、幾つもの違った名前が付与されている場合がある。


それを聞いたところで些事さじという事だろうか。


事実、当の大将も種々の神名しんみょうを持ち合わせており、中には一切使わない名前もの、決して口に出してはいけない名前まであるという。


「しかしそいつぁ………」


彼の目線を追う。


本日は昨夜の定位置ではなく、座布団の上にきちんと坐した女性が、うちの幼なじみ達と歓談している最中だった。


いやこれは歓談というか


「お名前はなんて言うんですか? わたし宮本珠衣です! よろしくね?」


「多賀見幸介。てか困ってんだろ? もうちょい距離感」


「名前は……」


「うんうん?」


「たくさんあったような………」


「ほぉ?」


「気がします………」


フレンドリーな二名に対し、女性は実に眠たげな、ぼんやりまなこで応じている。


ふわふわとした雰囲気にたがわず、その口調はうららかな春の日差しを思わせる、ゆったりとしたリズム感だ。


「名前が沢山だと? そんならお前さん、やっぱし神さんか?」


「そう………」


「マジか? んじゃ、やっぱ駆け出しの」


「ではないと思います…………」


「あん?」


大将の見解では、神たる少女が“姫さま”と慕う相手なら、そちらもまず間違いなく同様の存在だろうとの事だった。


もちろん、当の女性がその姫さまである可能性は、今のところ判らない。


「ふゆ………」


「ふゆ?」


「と、お呼びください………」


「ふゆさんか。いい名前ですね」


そんなふゆさんは、なぜ迷子になってしまったのか。


経緯けいいはおろか、行く宛も帰る場所も分からないと言う。


ただ覚えているのは、先述の自分の名前と、当人の目的。


「落としものを……、探しています………」


「落とし物? 何を落としたのかな?」


「………………?」


やんわりと応じる幼なじみの顔を、彼女は不思議そうに見つめた後、


「はぁ………」


返答とも嘆息たんそくとも付かず、ゆったりと息をついてみせた。


「………………」


しばを置いて、ふたたび話し始める。


「その落としものは…………」


かと思うと、何かを考え込む様に。


あるいは、何も考えてはいない様に。


ふわふわと、視線を天井付近に漂わせること暫く。


「何なのでしょう…………?」


不思議そうに、ふんわりと小首を傾げてみせた。


「はぁ〜………」


この独特のリズム感が伝染ったか、当の幼なじみは気の抜けたような声を漏らし、のんびりとうなずいた。


「えっと……?」


とにかく、このままじゃらちが明かない。


このままでは、こちらまで彼女のペースに乗せられる。


もう一名の幼なじみはと言うと、先頃からうつらうつらとしきりに船を漕いでいる。


これはいけない。


リビングに波及する眠たげな雰囲気にめげず、彼女の言う“落とし物”について、具体的なところを問うことにする。


口を動かしていないと、本当に睡魔に負けてしまいそうだ。


「その……、自分で“落とし物”っていうくらいなのに、心当たりは無いんですか? まったく?」


「………………」


これに対し、彼女がどんな風に答えるか、何となく予想はできた。


「はい…………」


やっぱりだ。


こちらを眠たげに見つめること暫く、先方がふわふわと投げて寄越した応答に、私たちは揃って頭をかかえる運びとなった。

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