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(おぉうん……デジャブ……朝の地獄再来じゃない……!)
朝の出来事を思い出して、頭が痛くなった。この頭痛は、この食事が終わるまでずっと続くだろう。
「食べないのか?」
「食べますよ! 煩いなあ!」
目の前には朝よりも豪華な食事、そしてテーブルを挟んで向かい側に座っているのはリース。
ただ、朝と違うのはこの場にルーメンさんとリュシオルがいると言うことだろうか。彼女達は、部屋の隅で立っている。
「それで、何故お前達までここにいるんだ」
「私は、エトワール様がついてきて欲しいと言われたからです」
「殿下が聖女様に無体な事を働かないか……殿下の護衛をと」
今何か皇太子に言っていいのか物議をかもす言葉が聞こえた気がしたんだけど……
私は、取りあえずフォークを手に握るが目の前の肉を切り分けるのにためらってしまった。というか、息が詰まりそうなこの空間で食事なんて出来ない。
リースは先ほどから、二人に出て行けと言わんばかりの見幕で睨み付けているが。
「出て行けと言ったはずだ」
「そう言われましても」
「俺はエトワールと二人きりで食事したいんだ。お前達に邪魔をする権利はない」
いや、私はいてくれた方が嬉しいし……と言いかけてちらりとリュシオルを見た。
リュシオルは何も言わずただ黙ってそこに立っているだけだった。まあ、一応メイドだし皇太子にあれやこれや言えないだろう。中身が同級生であっても。
リースの好感度を見ると、朝下がったはずの1%は回復して73に戻っていた。私と食事できるのがそんなにも嬉しかったのか……私は嫌だけど。
「これ以上、空気悪くしないで! 料理が不味くなるでしょ!」
「……めぐ…エトワール」
私がダンッと机を叩くと、食器はがたがたと揺れフォークは床に落ちた。
その様子を見て、リースは一瞬固まったがすまなかったというようにしゅんと頭を垂れた。
「フォーク、新しいのお持ちしますね」
と、拾おうとしたフォークをリュシオルは拾いあげさっと新しいフォークを用意してくれた。
さすがメイド……いや、これが普通なのか。
ありがとう。とリュシオルにお礼をいい、私はリースと向き合った。するとリースは嬉しそうに微笑んだ。
(あー! 眩しい推しの笑顔!)
と、内心思いつつも顔には出さず、私はリースを見つめた。騙されるなエトワール! 彼の中身は元彼よ!
そう言い聞かせ、私はやっとの思いで肉を切り分け口に運んだ。歯がいらないぐらい柔らかいお肉には、ハーブの香りが染み込んでいて美味だった。みずみずしいサラダにもまろやかなドレッシングがかかっており、野菜嫌いの私でもパクパク食べることが出来た。グラスに注がれたのは、オレンジジュースだったが酸味と甘みの割合がとてもよく、この料理に合わせて作られているのではないかと錯覚するほどマッチしていた。オレンジジュースがここまで美味しいと感じたことは今までにない。
そういえば、と私はテーブルの中央に置かれた白い花を指さした。
「この花って何の花なの? 凄く綺麗だけど」
白い花弁が五つついており、ほんのり甘くさわやかな香りが漂ってくる。
その質問を聞いて、リースは得意げな笑みを浮べた後気になるか?と一言私に聞いて意地悪そうに笑った。
「……教えてくれないなら別に良いわよ。ルーメンさんかリュシオルに聞くし」
と、私が二人を見るとリースはあからさまに嫌な顔をして私を見た。
アンタがもったいぶるからでしょうが、と言いたかったがリース中身元彼がこれ以上拗ねたり機嫌を悪くしたら面倒なので教えてと彼にお願いした。
するとリースは待っていましたとばかりに、口を開いた。
「これはオレンジの花だ」
「オレンジの花?」
私は、目の前の花をもう一度見た。オレンジの花はてっきりオレンジ色だと思っていたから意外である。それに、可愛らしい小さな花からあんな大きな実がなるとはにわかには信じられない。しかし、まあリースが言うならそうなのだろう。
それに、今日回った市場でも沢山のオレンジが売られていたし。
「オレンジはこの国の特産品だからな」
「確かに、適した環境かも」
この国にきてから分かった事と言えば、日差しが眩しいと言うことだろうか。乾燥しているというか、温かいより熱いぐらいの気候。
オレンジの栽培地域ってたしか、地中海性気候とかだった気がする。となると、この国はヨーロッパに近い気候なのだろうか。
私が花に視線を移すと機転を利かせたルーメンさんが私にオレンジの花を持ってきてくれた。
間近で見るとさらに、匂いが強くなる。爽やかに香る甘い香りにうっとりと目を細めた。
「この国では、オレンジの花や実は、デザートの香り付けや蜂蜜、お茶、香水なんかにも使われていますよ。それに、オレンジの花は白い輝きとも言われていて」
「へ、へぇ……そのオレンジって愛されてるんですね」
まさか、そこまで使われているなんて思わなかった。
リースに目を向けると、彼は誇らしげに笑っていた。そんなリースのことは放っておいて私は花にそっと触れた。
ゲームの中では、この国……ラスター帝国は光の国と呼ばれていた。
人は気さくで、昼が長いような太陽が眩しい国。光と希望に満ちた国……その国をいずれリースは皇帝としておさめることになるのか。
リースが皇帝になったとき、私はどうなっているんだろうか。
ふと、そんな疑問が湧いたけど考えるのをやめた。考えたところで、私には関係ない話だし。
(なんだか、眩しいな……)
この国も、人も皆眩しすぎると思った。私にはその光はかえって目の毒だなあ…と。それを感じるのは私が闇落ちするエトワールからかも知れないけど。
私はオレンジの花を髪に挿し、リースをちらりと見てから、また料理を食べ始めた。
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―――――――――――――――
「……ごちそうさま」
食事を終える頃には、もうすっかり夜になっていた。
お風呂の準備も出来ていると席を外していたリュシオルが言ってきたので、席を立とうとした。
「ああ、言い忘れていた」
立ち上がった私に、リースが声をかけてきた。何かと思い振り返ると、そこには先ほどまでの楽しそうな雰囲気とは違い真剣な表情をしたリースがいた。
私は思わず身構えてしまう。
なんだろう、やっぱり元彼だと分かっていても、見た目はリース……皇太子である。
「な、何……?」
「明日、お前の為のパーティーが行われる」
「ぱ、パーティー? 私の為……それって、その聖女の歓迎会みたいな?」
歓迎会ではないだろうなと思いつつ、口から既に出てしまったので言い直すことが出来ず私は目の前まできたリースを見上げた。
ああ、推しを見上げてる。なんて、感動しているとリースは、私の髪をすくいそのままキスを落とした。
一瞬の出来事だったので、私は固まったまま動けなかった。
「お前は、注目されるのは嫌だろうが明日と明後日は耐えてくれ」
「…へ、はへ」
彼はそのまま、明日は前夜祭で別荘で貴族だけを呼んでパーティーを開くとかなんとか言っていたが、私はそれどころではなかった。右から左へとリースの言葉は流れていく。
(か、髪にキス……!? 髪にキスされた! お、推しに髪にキス……!?)
心臓がバクバクいっている。顔が熱い、絶対真っ赤になっていると思う。だって、推しに髪にキスをされるだなんて思ってもなかったから。
私は、慌ててリースから距離を取る。そんな私の様子をリースは面白そうに笑っていた。
「前より隙だらけだな」
「……ふなッ!?」
そう言って笑ったリースの好感度は78になっていた。