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「いやあ、ほんとに助かりました」
「はあ……依頼何で、大丈夫ですよ。つか凄えマモ脱走するんですね」
9月の中頃、それなりに忙しく依頼をこなしていた俺は、再び尋ねてきた安護さんの依頼を受けたった今、その依頼が完了したところである。
安護さんの腕の中でにゃーにゃーと煩く鳴くのは、彼とその娘の綾子の家族であり飼い猫である黒猫のマモ。前の脱走から五ヶ月がたったがまた脱走したらしい。頻繁に脱走するが、三日ほど帰ってこないと心配になるので、三日以内に帰ってこなかった場合依頼をしに来ようと決めたらしい。信頼されているのは助かるが、また猫探しかと肩を落とす部分もある。
それでも、嬉しそうにマモを抱きかかえている姿を見ると、猫探しも悪くはないと思う。
「ほんとすみません。マモ、引っ掻きませんでしたか?」
「全然大丈夫ですよ」
と、俺は、サッと引っかかれた手を後ろに隠しつつ笑顔を取り繕った。
マモは、嘘だろお前みたいに俺を睨み付けて来るが、無視だ無視。
しかし、あの時のマモの爪は結構痛かった。俺はそこまで動物に好かれる体質ではないらしく、結構な頻度で猫に引っかかれたり、鳥に襲われたりする。それに比べて、神津は動物に好かれる体質のようだ。
「本当は依頼するか迷ってたんですよ。最近、明智さん依頼が多いみたいですし」
「ま、まあ……そうですね」
俺は目線を逸らしながら言った。
確かに依頼は増えたし、依頼を詰め込んでいるのは確かである。ここ数日、猫探しから浮気調査、ちょっとした事件まで様々な依頼が舞い込んできている。それはありがたいことだし、俺もわざとそうしているのだが。
今は金が欲しい、必要だったから。
「でも、矢っ張り依頼しようかなと思って。マモが家にいないと、娘が落ち着かないので。今年は受験生ですし、もう推薦で動き始めている子もいるみたいですから、あまり、そういうことで悩ませたくないなあと思ったので」
そう安護さんはいうと、マモを撫でた。
そういえば、安護さんの娘、綾子は高校3年生だったかと俺は思いだしていた。あの強くて賢そうな綾子は、一体何処の大学の何学科を目指しているかと気になった。だが、デリケートな問題ではあるし、教えてもらえるような立場ではない。あくまで、俺と安護さんは探偵と依頼人という関係だ。そう思っていたのだが、安護さんの方から俺が気になっていることに気がついたのか、ぽつりと零す。
「娘は、看護師を目指しているんです」
「看護師ですか」
「はい、妻も看護師だったので。その影響で」
「そうなんですか、奥さん良い看護師だったんでしょうね」
俺がそう言うと、安護さんは何とも言いにくそうな表情をしてから「妻は数年前に亡くなりました」と口にした。
聞かなきゃ良かったかと、俺はそれを聞いて思わず口を開けて閉まったが、安護さんは気にしないで下さいとでも言うように首を横に振った。
「私と妻が出会ったのは海外でした。元々は海外の方にいって働いていた看護師で、結婚を機にちょうど日本の病院に移ることになって。それから娘が生れ、落ち着いてきたときにまた海外へ……その帰りの飛行機で事故が」
と、安護さんは話してくれた。
何でもその飛行機にはマフィアの一味が乗っていたのか、航空につきいざ降りるとなった時マフィアの連中らが飛行機内を暴れまわり乗客たちが混乱状態になった。そうして、警察に取り囲まれて観念したのか、飛行機事爆破して乗客全員が亡くなったとか。
そして安護さんは、その件があって今の綾子があんな性格になったのだとか。母親の代りになれるよう、母親のように強くなれるよう。まるで、生き写しだと安護さんは話してくれた。
そんな話を、安護さんの抱えているマモを見ながら聞いていた。何でもマモは、その年綾子の誕生日に送られた母親からの最後のプレゼントだったらしい。そりゃ通りで大切なわけだと俺は納得する。
それから、少し安護さんの昔話を聞きつつ、安護さんはまた脱走したらお願いします。と苦笑いをしながら事務所を出て行った。
「…………」
「春ちゃん依頼終わった?」
「うわっびっくりさせんなよ。いきなり、後ろから生えんな」
「え~ごめんって」
と、安護さんがいなくなったタイミングで、神津が後ろからヒョコリと生え、俺の両頬を後ろから掴んだ。それに驚いた俺は、思わず肘で攻撃をしたがそれをひょいと神津は避けた。
「避けんな!」
「だって、当たったら絶対痛い奴じゃん」
などと、神津は可笑しそうに笑っていた。
俺は、それに苛立ちつつも何のようかと神津に尋ねる。神津は、言い渋りながらため息をつくと口を開いた。
「ん~何か最近春ちゃん忙しそうにしていて、僕に構ってくれないんだもん」
「はあ?かまってちゃんかよ」
「そう、かまってちゃんだよ?」
と、否定せずに、神津は答えた。
と言う神津も忙しそうに依頼を受けているのを俺は知っているため、俺だけじゃないだろうと、不満一杯に睨んでやれば、神津は目を逸らしながら呟いた。
「もうすぐ、僕の誕生日なのに」