テラーノベル
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それから三日間、煌は朱雀を意図的に避け続けた。
朝の定例の挨拶もしない。食事の時間もずらす。廊下で豪華な緋色の衣がちらりと見えたり、あの甘苦しい沈香の香りが微かに漂ってきたりするたびに、足早に別の方向へと回り道をした。
避けている間、首筋の『痕』がときおり冷え込むようにじくじくと疼いたが、煌はそれを「アイツへの苛立ちのせいだ」と言い聞かせて無視し続けた。
最初は燕花に「童殿、朱雀様が……」と困り顔で報告されるたびに、「知らん。あのジジイの顔なんか見たくねぇ」と突っぱねていた。だが三日目の午後、回廊を歩いていた煌は、ついに燕花からいつもとは違う真剣な顔で呼び止められた。
「童殿。少し、よろしいですか」
「なんだよ。俺、忙しいんだけど」
わざとぶっきらぼうに返してすれ違おうとしたが、燕花の放った一言に、煌の足は直前で凍りついた。
「朱雀様の具合が、優れません」
「……どういうことだ」
振り返った煌の問いに、燕花は痛ましげに目を伏せる。
「調律が、できていないのです。三日前から。……あの方の体内で、澱のように溜まった穢れが暴れ始めています」
燕花の言葉に、煌の心臓がどくりと重く沈む。あの冷戦が始まった、あの日から。
「……それって」
「はい。童殿が朱雀様に触れていない期間と、完全に一致しています」
分かっていた。分かっていたはずだった。朱雀の穢れを浄化し、その狂いかけた神力を調律できるのが、異界から呼ばれた自分だけだということは、最初から嫌というほど聞かされていた。
なのに――。頭で分かっていても、素直に「じゃあ行く」と言えない自分が、どうしようもなく腹立たしい。今行けば、またあの神の都合のいいように丸め込まれてしまうのではないかという恐怖とプライドが、煌の足を縛りつける。
「……アイツ、今どこだ」
「南棟の奥にある瞑想の間に、朝からこもりっきりです。神力を内側に集中させて、なんとか穢れを抑え込もうとされていますが……」
「……そうか」
煌は拳をきつく握りしめ、少しだけ逡巡するように視線を彷徨わせたあと、燕花に背を向けて一歩を踏み出した。
向かうのは、南棟とは完全に真逆の方向だ。
「童殿」
引き止めるような燕花の声に、煌は立ち止まり、振り返らないまま低い声で告げた。
「……今日は、まだいいだろ」
「……はい」
燕花はそれ以上、無理に引き止めようとはしなかった。ただ、足早に去っていく煌の細い背中を、悲痛な光を宿した瞳で見送る。そして、煌には見えないところで、小さく、祈るようなため息をついた。
#ご本人様には関係ありません
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コメント
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うわ、この展開、胸がぎゅっとなる……。煌くんの「今日は、まだいいだろ」って一言に、プライドと怖さと、それでも気にかけてる気持ちが全部詰まってて切なくなりました。朱雀様の穢れが暴れてる描写も、あの冷戦が始まった日からってのが重いし、燕花さんの悲痛な眼差しが印象的すぎる。ふたりの距離感の描き方、すごく繊細で引き込まれました🌷