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第十二話「解体と再構築」
🔪クラウスの異常な儀式
クラウスは鏡の前に座っていた。
暗い部屋の中で、彼の白いシャツは血でまだらに染まり、青灰色の目は虚ろに光を反射している。
身長は高く、痩せているが筋肉のつき方は異様に均整が取れている。
しかし、それが”鍛えられた体”ではなく、まるで”最初からその形で作られた”ような異質なバランスだった。
彼は自分の手をじっと見つめ、指を一本ずつ曲げる。
骨の鳴る音が異様に響く。
「……違うな。」
クラウスは、ゆっくりと右手を机の上に置くと、もう片方の手でナイフを取り上げた。
そして――
ザクッ。
自分の指を切り落とした。
🔪スケアリーの実況「自らを料理する者」
「おおおおお……これはすごい。”食材が自分で下ごしらえを始めた”ってわけか。」
スケアリーは、目を輝かせながらクラウスを観察していた。
まるで最高級のフルコースの調理過程を見ているかのような興奮した眼差し。
ユリウスは眉をひそめる。
「……こいつ、何してる？」
スケアリーは、にこりと笑う。
「”調理”してるんだよ。”自分”って食材をねぇ。」
クラウスは、切り落とした指を拾い、無表情で見つめる。
「……これも、俺の一部だったのか。」
「”だった”？ へぇ、もう”自分のものじゃない”って感覚かぁ？」
スケアリーは、紅茶を飲みながら微笑んだ。
「普通、人間は”自分の体”を”自分のもの”だと思う。でもクラウスは違う。」
「”これは本当に俺のものか？”って疑ってる。」
「つまり……”まだ料理の途中”ってわけさ。」
🔪クラウスの言葉
クラウスは、切り落とした指をじっと見つめた後、ポケットから糸と針を取り出した。
そして、何の躊躇いもなく逆の手に縫い付けた。
ユリウスの顔がわずかに歪む。
「……お前、何をしてる？」
クラウスは、静かに答える。
「試してるだけさ。……”俺”を、作り直せるかどうか。」
彼の声は、どこまでも冷静だった。
スケアリーは、愉快そうにクスクス笑う。
「ほうほう、これは”再構築の儀式”かぁ？」
クラウスは、ゆっくりと指を動かしてみる。
「……違うな。」
そして、再びナイフを取り、今度は手の甲を切り裂いた。
ジュルリ、と血が滴る。
ユリウスは、思わず息を呑む。
「こいつ……本気で”自分を作り変えようとしてる”のか？」
スケアリーは、微笑みながら指を鳴らした。
「いやぁ、素晴らしいねぇ。”自分を料理する食材”なんて、滅多にお目にかかれないよ。」
🔪スケアリーの食レポ「自己分解肉の風味」
「さて、今日の料理のテーマは”自己分解肉”。」
スケアリーは、興奮を抑えられないように語り始める。
「普通の肉はねぇ、”解体される”ことで”食材”になる。でも、こいつは違う。”自分で解体して、自分で組み直そうとしてる”。」
彼は、楽しげに紅茶をすすった。
「”人間”っていう枠組みをぶち壊して、”別の何か”になろうとしてる……。」
「これは、”肉の概念を超えた料理”だよ！！！」
彼は、テーブルを叩いて歓喜する。
「例えば、普通のステーキ肉を想像してみて？」
「そこに”自我”があったらどうなる？ “俺はまだ焼かれていない！ これは正しい焼き方なのか！？”って思い始めるんだよ！！」
「クラウスは、まさにそれをやってる。”俺はまだ未完成だ”って思って、自分を”再調理”してる。」
ユリウスは、無言でクラウスを見つめた。
「お前は……”人間をやめたい”のか？」
クラウスは、ゆっくりと指を動かし、無表情のまま呟いた。
「……俺は最初から”人間”だったのか？」
🔪スケアリーの狂気とユリウスの違和感
「なるほど、なるほど。」
スケアリーは満足げに頷いた。
「つまりクラウス、お前は”自分が何か分からない”まま、生きてきたわけだ。」
「なら、決めようぜ。”お前は何なのか”をさぁ！」
スケアリーは、手を広げて微笑む。
「人は”料理”で変われる。”適切な火入れ”と”完璧な調理法”があれば、”別のもの”になれる。」
「クラウス、お前の”完成形”は何だい？」
クラウスは、一瞬考えた後、静かに答えた。
「……”ただの肉”になりたい。」
ユリウスの眉が動く。
「”肉”？」
「俺は”俺が何者か”を考えるのに疲れた。ただの”素材”になれば、それを考えなくて済む。」
スケアリーは、目を細めて満足そうに微笑んだ。
「いいねぇ、”自己調理の完成形”だねぇ。」
「じゃあ、お前は”人間の枠を超えた肉”として、新しい料理になれるわけだ。」
ユリウスは、スケアリーを睨む。
「……お前は何を企んでる？」
スケアリーは、口元を舐めながら笑う。
「さぁ？ 俺はただ、”最高の料理”を作りたいだけさ。」
「ユリウス、クラウス。”最高の肉”に仕上げる準備はいいかい？」
クラウスは、静かに頷いた。
次回 → 「新たな肉の誕生」
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