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第十三話「完成肉の冷却」
🔪白煙のなかの静寂
廃墟に、肉の焼ける匂いは残っていない。
あるのは、煙と鉄と、ひとりの“完成した影”。
クラウスは立っていた。
全身に施された縫合痕、人工皮膚、肉を支える金属の軸。
その顔は“誰か”ではなく、もはや“何か”だった。
――彼の姿は、美しいのではなく、“整っていた”。
「終わった。」
その声すら、合成音。
クラウス自身の声帯は、もう別の人間のもの。
🔪スケアリーの実況「冷蔵庫の中の美学」
スケアリーは床に這い、手足を震わせながら喉を鳴らしていた。
「ヒュッ……ヒュウゥゥゥ……」
「完成した……完成しちまった……“肉”が、冷え始めてる……!!」
「火入れが終わって、寝かせの時間に入った――この冷却こそ、恐怖の余韻!!!」
「これはもう、“食卓に出す直前の無音状態”だよ……」
「“いただきます”を言う前の……恐怖の間(ま)!!!!!」
🔪ユリウスとの対面
ユリウスが近づく。
クラウスは振り向かない。
「もう、何も混ざらない。“俺”は、“俺の終点”でしかない。」
「これで完全犯罪なのか……?」
「完全だ。証拠はない。
俺は“元の俺”をどこにも残していない。」
ユリウスは言った。
「……でも、何も残ってないなら、それは“お前の料理”じゃなくて、ただの消滅じゃないか?」
クラウスは、ほんの一瞬だけ止まった。
そして――振り向いた顔には、感情がなかった。
「その通りさ。
でも、“存在しなければ、犯罪にはならない”。」
🔪スケアリーの食レポ「無味という旨味」
スケアリーは立ち上がり、冷えた床に頬をすりつけながら言った。
「これ……これだよ……これが“ゼロカロリーのごちそう”……」
「味覚を持たない肉!! 感情を持たない完成体!!」
「これはもう、“精神的な断食”と同じ効果をもたらすね……」
「でも、空腹感だけが残る……それが、スケアリーイズムの完成形ッ!!!!」
🔪ラスト:静かな去り際
クラウスは静かに背を向け、霧の中へ消えていく。
「俺はもう、他人に干渉しない。
俺の“存在の肉”はもう誰の皿にも乗らない。」
ユリウスが問う。
「それでも、お前は本当に満足したのか?」
クラウスは歩きながら答えた。
「……満足すら、もう感じていないよ。」
🔪スケアリー、最後の一言
「“味がない”ってのはさ……
つまり、“味覚を奪う料理”だよね。」
「ねえユリウス、これをなんて言うか知ってる?」
「……“完成という恐怖”。」
次回 → 第十三話「嘘と真実のフランベ」