テラーノベル
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「僕は・・・そんな彼女に、偽装婚を協力しないとキャリアを潰すと脅しました」
「何を言うのっ?私が強制したのよっっ!ジンさんは何も悪くないわっっ!」
桜の声が会場に響いた、白無垢のまま、一歩前に出ようとする桜をジンは静かに片手で制した
「僕は彼女の真っすぐで優しい性格を利用しました」
「嘘よっっ!嘘だわっっ!彼は嘘をついているわっっ!ジンさんもうやめて!」
「最初は周囲を欺くのは簡単だと思っていました・・・でも、違った・・・」
ジンは会場に集まっている親族を見渡した・・・
そこに松吉がいた、昨日涙をこらえながら「息子よ」と自分を抱きしめてくれた松吉・・・その横には米吉がいた、150年も続いた山田家の家宝を惜しみもなく自分に与えてくれた
「その男の言っていることは本当ですよ」
その時に口を開いたのはフネだった
「ママ!余計なことは言わないで!!」
咄嗟に桜が怒鳴った
「この男はまんまと世間知らずの娘を騙し、この山田旅館の入り婿に成りすましているのです、自分の欲求を叶えたら娘を捨てる腹づもりでね、娘が妊娠していないことを願うばかりですよ」
ガタンッとフネが立ち上がり、ビシッと扇子を狙い撃ちするかのようにジンを刺した
「出ていきなさいっっ!偽物の花婿よ!」
みや江とすず江が、口を押さえて目を見開いていた、昨夜遅くまで袴の丈を直してくれた手が今は静止している・・・禿げ頭の誠一郎はあんぐり口を開けてまさに「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」をしている・・・無理もない・・・
その横には正宗がビシッとした冠婚葬祭のスーツ姿で無表情でジンを刺すように見ていた、胸の前で両腕を組んで、唇を一文字に引いてジンを睨みつけている
みんな・・・みんな・・・こんな自分に優しくしてくれたのは「家族」だと思ってくれていたから、この島の優しい人達・・・こんな素晴らしい彼女の家族を・・・これ以上騙すことはジンは出来なかった、頭の中でまた父の声がする
―息子よ・・・正しいことをしろ―
.。. .。 .:・.。. .。.:・
ポロポロジンが涙を流し、肩を震わせた
ヒック・・・
「申し訳ありませんでした・・・申し訳ありませんでした・・・」
「ジンさん・・・」
桜の声が、細くかすれていた、真っ赤な目でジンは桜を見つめて言った
「この偽装婚はここでおしまいです・・・契約はここで破棄します・・・今まで・・・ありがとうございました」
ジンは会場を見渡し、深々とみんなに頭を下げた、そして来た絨毯の上を歩き、出口にゆっくり向かった
緋色の毛氈の上を紋付き袴の裾が音もなく滑る、最後の参列席で浜崎の所まで来て立ち止まった
「行きましょう・・・大阪に帰ります・・・」
「・・・お供しますよ」
浜崎は中折れ帽を被り直して立ち上がった
「ジンさん!待って!」
「桜っ!おやめなさい!」
ハッと桜は叱咤された母親を見つめた
「聞いたでしょう?あなた達の企てた「偽装婚」は終わったのよ!」
フネの言葉に彼を追いかけようとしていた桜は、もう1ミリも動けなくなった
ジンと浜崎ははゆっくりと会場を後にした、格天井から差し込む朝の光が、彼の背中を最後まで照らしていた
桜はその場に釘で打たれたかのように固定された気分だった
そして去って行く彼をただじっと見つめるしか出来なかった
.:・.。. .。.
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コメント
2件
ジンさん…あなたって人は🥹 桜ちゃんを庇ってひとり悪者に徹したか😣 これからどうなっちゃうのぉぉ😭😭😭
ジンさん…嘘が苦しかったのよね😭 あーどうなるんだろ… 2人はお互いに思いあってるのに…