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第2話『止まった時計と動き出す真実』
葬儀が終わった。
雨だった。
空は鉛色の雲に覆われ、焼香の煙さえ重たく見える。
黒い傘が並ぶ帰り道。
誰一人として笑わない。
けれど、悲しみに暮れているわけでもない。
元三年二組の面々は、お互いの顔を見ないように歩いていた。
まるで――
誰かと目を合わせた瞬間、何かを思い出してしまうとでもいうように。
黒瀬刑事は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。
「……妙だな」
隣に立つ若い刑事・相沢が首を傾げる。
「何がです?」
「普通なら泣く。」
黒瀬は煙草を取り出そうとして、葬儀場の前だったことを思い出し、またポケットへ戻した。
「友達が死んだんだ。
泣く奴もいる。
呆然とする奴もいる。
怒る奴もいる。」
だが。
「あいつらにはそれが無かった。」
相沢は葬儀場を見る。
「確かに……。」
「悲しみじゃない。」
黒瀬は小さく呟く。
「あれは”怯え”だ。」
一方その頃。
俺――橘 悠真は駅へ向かって歩いていた。
隣には七海がいる。
「……ねぇ。」
七海が小さな声で言う。
「翔太の本当に事故だと思う?」
その質問に答えられなかった。
俺も思っている。
事故じゃない。
でも――
「考えすぎだろ。」
無理やり笑う。
「たまたまだよ。」
そう言った瞬間。
七海は俺の目を真っ直ぐ見た。
「……悠真。」
「ん?」
「あの紙。」
心臓が止まりそうになった。
『思い出せ。お前らの罪を』
「あれ見てからさ。」
「……。」
「なんか……夢見るんよ。」
七海の声が震える。
「夢?」
「誰かがさ。」
七海は立ち止まる。
「助けてって。」
その一言で。
俺の頭の奥がズキッと痛んだ。
その夜。
悠真は眠れなかった。
時計を見る。
午前二時三十七分。
目を閉じる。
その瞬間。
「……助けて。」
誰かの声。
真っ暗な教室。
机が並ぶ。
窓際。
一人だけ座っている誰か。
顔が見えない。
「助けて。」
その声が近付く。
手が伸びる。
俺も手を伸ばす。
届きそうだった。
その時。
『関わるな。』
誰かが俺の肩を掴む。
『お前までいじめられるぞ。』
次の瞬間。
俺は手を引っ込めていた。
そして。
顔の見えない少年が笑った。
悲しそうに。
諦めたように。
そこで目が覚めた。
「はぁっ……!」
全身汗だく。
呼吸が荒い。
夢だった。
なのに。
胸だけが痛い。
翌朝。
黒瀬刑事は水島翔太の死亡現場へ来ていた。
古いアパート。
階段は急で、手すりも錆びている。
「ここから落ちたんです。」
制服警官が説明する。
「酒も飲んでましたし。」
黒瀬は階段を見上げる。
そして。
しゃがみ込んだ。
「……ん?」
階段の端。
僅かな傷。
擦れた跡。
誰かが引きずられたようにも見える。
「鑑識は?」
「事故で片付いてます。」
「……。」
黒瀬は眉を寄せた。
さらに階段を上がる。
翔太の部屋。
机の上には開きっぱなしのノート。
スマホ。
財布。
そして。
ゴミ箱。
そこに丸められた紙が入っていた。
黒瀬は手袋を付けて広げる。
中には。
乱暴な字で一行。
『次は、お前だ。』
黒瀬の目が細くなる。
「事故じゃない。」
静かに呟く。
「これは殺人だ。」
その頃。
誰もいない部屋。
壁一面には写真が貼られていた。
二十数枚。
すべて元三年二組。
その中で。
水島翔太の写真だけが。
赤い線で大きく消されている。
そして。
一人の人物が、次の写真へ赤い印を付けた。
「……まだ終わらない。」
低い声。
机の上には、一冊の古びたノート。
何度も読み返されたその表紙には、小さく名前が書かれている。
だが、その名前は光の当たらない場所に隠れ、読むことはできない。
その人物はノートを胸に抱き、小さく呟いた。
「……もう少しだけ待ってて。」
「全部終わったら……そっちに会いに行くから。」
部屋には静かな嗚咽だけが残った。
コメント
1件
寺島あおいです🌷 第3話、じっくり読ませていただきました。 葬儀の空気感がもう、鉛のように重くて……「悲しみじゃない、怯えだ」という黒瀬刑事の言葉、すごく刺さりました。あの同級生たちの、目を合わせない歩き方の描写だけで、何かが隠されている緊張感が伝わってきます。 悠真くんの夢の場面も印象的で。手を引っ込める選択をしてしまった過去の自分と、今の罪悪感がリンクしている感じが切なかったです。次は誰に赤い印がつくんだろう……続きが気になります。
Lulu
15
榎本くもり
6,427
ruruha
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ruruha
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