テラーノベル
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俺は昔から、かわいいものを見ると口に出したくなる。
別に我慢しようと思えばできる。
でも、目の前にいるのが吉田仁人だと無理だった。
だって本当にかわいい。
本人は絶対認めないけど。
今だってそうだ。
ライブ終わりメンバーはスマホを触る。
そんな中椅子に座って台本を読んでいる。
楽屋の隅
真面目な顔。
集中している顔。
時々眉を寄せる癖。
ページをめくる手。
全部見慣れてるはずなのに、気づくと見てしまう。
「仁人」
呼ぶ。
「ん?」
返事はする。
でも顔は上げない。
俺はちょっと笑った。
「仁人」
「なに?」
「かわいい」
ぴたっと動きが止まる。
その反応が面白くて、つい笑ってしまう。
案の定、仁人は呆れた顔を向けてきた。
「急になんなんだよ」
「思ったこと言っただけ」
「意味わかんない」
「かわいい」
「うるさい」
ほら。
そうやって少し困った顔をするところもかわいい。
実は俺には前から気づいていたことがある。
仁人は褒められるのが苦手だ。
歌を褒められても。
頑張りを褒められても。
すぐ照れる。
でも、それ以上に。
かわいいって言われるのが苦手。
だから余計に言いたくなる。
意地悪したいとかじゃない。
いや、ちょっとはあるかもしれない。
でも本当は。
照れた顔を見るのが好きなんだ。
普段しっかりしてる人が見せる隙みたいなものだから。
数日後。
移動車の中。
みんな少し疲れていて静かだった。
俺は隣を見る。
仁人がうとうとしていた。
窓にもたれながら目を閉じている。
眠そう。
というか、ほぼ寝てる。
俺は思わず笑った。
「かわいい」
ぽつりと言う。
すると仁人が目を開けた。
「……聞こえてるから」
「起きてたの?」
「半分」
「かわいい」
「もういいって」
そう言いながらも、完全には怒らない。
本当に嫌ならもっと強く言うはずだ。
だから俺は調子に乗る。
「かわいい」
「勇斗」
「かわいい」
「勇斗」
「かわ」
「やめろ」
怒られた。
でも少し笑っている。
その時点で俺の勝ちだ。
メンバーみんなも笑い、和やかな雰囲気だった
俺はたまに思う。
なんでこんなに目で追ってしまうんだろう。
メンバーだから?
仲がいいから?
もちろんそれもある。
でも、それだけじゃない気がしていた。
ライブの日。
ステージ袖から仁人を見る。
ファンの前で歌っている姿はかっこいい。
普段のかわいいとは全然違う。
なのに。
かっこいいと思った次の瞬間。
ファンに手を振りながら笑う顔を見て。
やっぱりかわいいと思ってしまう。
重症だな。
俺は苦笑した。
そしてあの日。
二人で帰った夜。
駅まで歩く道。
なんとなく静かだった。
俺も珍しく言葉が出なかった。
隣にいる仁人は気づいていたみたいで。
「今日は言わないの?」
そう聞いてきた。
正直、びっくりした。
気にしてたんだ。
言われすぎて嫌になったのかと思ってた。
でも違った。
俺は少し嬉しくなった。
「気になってるじゃん」
そう言うと。
仁人は分かりやすく目を逸らした。
かわいい。
本当に。
かわいい。
俺は立ち止まった。
仁人も止まる。
街灯の下。
夜風が吹く。
ここで冗談を言うこともできた。
いつもみたいに笑い飛ばすこともできた。
でも、その時はなんとなく。
ちゃんと伝えたくなった。
「真面目な顔も好きだし」
仁人がこっちを見る。
少し驚いた顔。
「笑った顔も好きだし」
俺の心臓も少しだけうるさい。
「頑張ってるところも好き」
言いながら思う。
ああ。
俺、本当にそう思ってるんだなって。
「全部かわいい」
その瞬間。
仁人の顔が真っ赤になった。
俺は思わず笑ってしまう。
だってかわいすぎる。
反則だろ。
「かわいい」
「うるさい」
「じゃあやめる」
動きが止まる。
悲しそうな目をしてこっちを向いてくる。
仁人は目を逸らす。
そして恥ずかしそうに言う。
「別にやめなくてもいい。」
さらに顔が真っ赤になる。
腕で顔を隠す。
照れた時の彼の癖だ。
「なんで顔隠すの」
「むり」
「なんでむりなの。」
俺はニヤリと笑う。
「いじわるしないで。」
「ごめん笑」
「やめなくてもいい」
そう言われた時。
たぶん俺も少し嬉しそうな顔をしていたと思う。
仁人は気づいてなかっただろうけど。
俺はその言葉を何回も頭の中で繰り返していた。
やめなくてもいい。
つまり。
少しくらいなら。
俺が特別でもいいってことだろうか。
そんな期待をしてしまう。
夜道を並んで歩く。
少し前より近い距離。
俺は横顔を見る。
相変わらず照れたまま。
かわいい。
本当にかわいい。
たぶん明日も言う。
明後日も言う。
また怒られるかもしれない。
でもいい。
だって俺は知っている。
「うるさい」
って言いながら。
少しだけ嬉しそうな顔をしていることを。
だから俺は笑って言う。
「仁人」
「なに」
「かわいい」
「……また?」
「うん」
「何回言うんだよ」
俺は肩をすくめる。
そして小さく笑った。
「たぶん、一生。」
仁人は呆れたように笑った。
だけど、その顔は少しだけ嬉しそうだった。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡350
コメント
1件
ああ、もう、このお話すごく好きです……! 勇斗が仁人を見る目が、もうずっと優しくて、だんだん特別なものになっていく感じがたまらなかったです。「かわいい」って何度も言うくせに、最後の「たぶん、一生。」は本気がにじんでて、胸がぎゅっとなりました。照れてるのに「やめなくてもいい」って言っちゃう仁人の反応も、すごく可愛いです。二人の距離が少しずつ縮まる過程が、本当に丁寧に描かれていて、読んでいて幸せな気持ちになりました。続きが気になります…!
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