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オーミヤの冒険者ギルド。 掲示板の前で、私はひとつ、盛大にあくびをした。
背中の殻が、横の柱にゴンッとぶつかった。
無視した。
「これ、”凶暴カボチャの駆除”……食べられそう」
指でつまんだ依頼書を、光にかざしてみる。
「お姉ちゃん、それはたぶん食用じゃ……」
エスト様が呆れた声を出した。
「えー、じゃあこっち。
”巨大ナメクジの粘液採取”
──うん、ないな。気持ち悪いわ」
「お姉ちゃん、もう少し真面目に探そう?」
「だから魔王討伐10億リフルやろうよ?」
「だから殺す気!?」
「……平和だな、辰美」
「んー。サクラさんが退屈そうに殻ぶつけてる音しかしないねー」
辰夫と辰美が、掲示板を眺めながらのんきに呟いた。
──そのときだった。
バァァァァァン!!!
ギルドの扉が、爆発四散した。
「「「「な!? なんだ!?」」」」
ギルド内がざわめく。
白煙の中から現れたのは、白銀の鎧と十字の紋章。
背中に太陽を背負うように、声高らかに叫ぶ女がひとり。
「この地に”異端”ありと聞くッ!
ならば、我が正義をもって──断罪する!!」
(……ああ、うるさい)
私はため息をひとつついてから、その女へと向き直った。
「あら怖い。で、誰に”審問”するつもりなの? 白マントさん」
「貴様だッ! その忌まわしき角を持った鬼の女!!」
女が叫ぶ。
どうやら私に用があるらしい。
「貴様こそが”常闇のダンジョン”を率いた異形の女ッ!
この剣と魔法で、正義の審問を下すッッ!!
──ラウワ王直属、異端審問官・ユリシアが裁くッ!!」
叫ぶと同時に、剣が炎を纏い、雷が唸り、ギルドの天井が吹き飛んだ。
(早ッッ!? 話す気ゼロ!? ……はぁ。やっぱり私がターゲットか。面倒ね)
私は軽く髪をかき上げ、隣にいるエスト様の袖をそっと引いた。
「……エスト様。少しだけ、耳を貸して?」
「うんっ、なになに?」
にこにこと顔を寄せてくるエスト様に、私はだるそうに囁いた。
「──ギルドの外に出て……ごにょごにょ……を……お願い」
「あいよ! わかった!」
ふにゃっとした笑顔のまま、エスト様がぴょんと駆け出す。
そして途中で振り返り、
「辰夫! 辰美! こっち来て!」
「えっ」
「はい??」
「お姉ちゃんのお願いだよー」
その一言に、辰夫と辰美の顔色が変わった。
「……なるほど」
辰夫の背中に、嫌な予感が全力で漂っている。
「ふふっ、なんか面白いことやるみたいだねー」
辰美はなぜかわくわくしていた。
「ふふ……小娘楽しそうね」
私は口元に手を添えて、小さく笑った。
──そして、ユリシアへと向き直る。
「はいはいわかった……ったく! うるっせぇなぁッ!!」
考える前に、殴っていた。
貝殻ナックルを装着し、そのままユリシアの顔面めがけて拳を振るう!
ドォォォォォン!!!
だが、ユリシアはとっさに剣で受け止めた。
衝撃波がギルド中に響き、ついでに近くの受付カウンターが木っ端微塵になる。
「うわあ!?」「カウンターがあああッ!」
「ギルドが戦場になってる!?」
ギルド職員と冒険者たちの悲鳴が飛び交う中、ユリシアが私を睨みつけた。
「……いきなり殴りかかってくるとは……! 卑怯者め!!」
「え? 何が? 先手必勝よ?」
私は肩をすくめて、ニヤリと笑う。
「──”正義”って叫ぶ奴ほど、話が通じない。
だから、まずは殴って黙らせろ。ってね?」
「まぁ、さっきのをちゃんと迎撃できるならさ?
手加減しなくて済みそうね?」
ユリシアの視線が、私の背中に止まった。
「……その背中の甲殻……”アダマンタイト・シェル”か。異端のくせに良い装備をしている」
(……またこのパターン)
私は内心で脱力した。
みんな騙される。誰も本物のヤドカリだとは思わない。
呪いです、とは言えなかった。
「ふんっ!」
ユリシアが斬りかかってくる。
炎の刃が唸りをあげて、一直線に──!
「神の息吹たる浄化の炎よ、我が剣に宿りて邪悪を焼き尽くせ! 必殺──《神罰・聖炎業火斬(ホーリー・フレア・エクスキュージョン)》ッ!!」
ズバァァァン!
「ほいっと」
私は軽やかに横に跳び、長ったらしい口上の隙を突いて拳で反撃した。
──が。
ゴンッ!!
振り向きざまに殻が棚を直撃し、ギルドの備品が盛大に崩れ落ちた。
「うわあ!? 棚がああ!!」
ギルド職員の悲鳴。
「うっさいわね!」
私はそれどころじゃない。
「遅いのよ、正義バカ!」
ガキィィィン!!
剣と拳が激突し、火花が散る。だが──
「チッ」
私の表情が曇った。
ユリシアの剣技は、予想以上に鋭かった。
「天を裂く五道のいかずちよ、罪深き魂に裁きを下せ! 逃れえぬ光の瞬き──《神罰・絶影雷光五連撃(ライトニング・ジャッジメント・ストライク)》ッ!!」
バリバリバリッ!!
電撃を纏った剣が、一瞬で五連撃を繰り出す!
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシューッ!!
「だから名前長いくせに多ッ!! ちょ、痛ッ!? ぐはぁっ!!」
私は吹っ飛ばされながら床を滑り、ギルド内を横断した。
舞い上がった埃が視界を覆う。
ギルドの空気が、一瞬、静まりかえった。
「決まったか……?」
ユリシアが剣を構え直し、警戒を解こうとした。
──そのとき。
ゴゴ……ッ!
埃の中に、赤い瞳がゆっくりと浮かび上がる。
「……ふう。終わった?」
私の頭、肩、腹部に──薄く透明な貝殻が張り付いていた。
背中の殻は、ご丁寧に無傷。頑丈すぎる。
「ああ、これ? 貝殻生成……部分的にね。全身は面倒だから、斬られた箇所だけ」
パリパリと貝殻を剥がしながら、私はにやりと笑った。
「で? まだ長ったらしい正義ごっこ、続けるの?」
「奇妙なスキルだが……!」
ユリシアが目を見開く。
「……その背中の甲殻も、皮膚から直接生成しているのか……?」
「……まぁ、そんな感じ」
(違うけど、面倒だから訂正しない)
「正義は、悪に負けんッ!!」
ユリシアが跳躍し、天井に向かって剣を振り上げる。
「天の怒りよ、地を這う愚者に大いなる鉄槌を! 全てを無に帰す裁きの光──《神罰・極天焦土雷霆撃(グランド・ヘブンズ・パニッシュメント)》ッ!!」
ゴロゴロゴロ……ドカァァァァァン!!!
ギルドの屋根に巨大な雷が落ち、建物全体が崩れ始めた。
「名前のスケールでかッ!! ってちょっと待てよ!! 建物壊すなバカ!!」
「悪を断つためならば、多少の犠牲は──」
「犠牲って何よ犠牲って!! 修繕費誰が払うと思ってんの!?」
私は頭を抱えた。
ギルドの壁がまた一枚、轟音を立てて崩れる。
10億の借金がある身でさらに修繕費を背負う未来が、
走馬灯のように脳裏をよぎった。
「──あぁ! もう! マジでムカつく。
これ以上ギルド壊されたら仕事受けられなくなんのよ!」
私は手のひらを向けた。
「外でやりましょうか、正義の騎士様──いや、ユリ様」
数十個の貝殻が次々と生成されていく。
「オラァ! 千本ノックの時間よ! 避けてみなさい!」
ヒュンヒュンヒュン!!
貝殻を弾丸のように連続で投げつける!
「輝かしき主の盾にして闇を払う暁の刃! 愚かしき弾丸を塵と化せ──《神罰・聖光破断防陣斬(ホーリー・ライト・ディフレクション)》ッ!」
キンキンキン!!
ユリシアは息もつかせぬ防御の中でさえ、律儀にフルネームで叫びながら迎撃する。
「……って!
さっきから技名いちいち長くてイラっとするな!?
ツバキかよ!!」
「ツバキ……キューシューの聖女の名だな!」
ユリシアが弾丸を弾き落としながら、鋭く言い返す。
「は? ツバキ?」
(まぁ、そんな名前の人がこの世界にもいるのかな)
私は首を傾げつつ、手を止めない。
「我が王より命を受けている!! 貴様のような異端は──」
「王様? 私、王様に嫌われるようなことはしてないわよ?」
その隙に、私は長い棒状の貝殻を生成した。
「貝殻バットぉー♪」
バットの名は──ルシール。
有刺鉄線は付いてないけど、気分。
そして、一瞬で間合いを詰め──
「磯野ぉッ! 野球しよう……ぜっ!!!!!」
ブォンッ!!! ガン!
──が。
振り切った反動で、背中の殻が盛大に回った。
「ちょっ、待──あ、これ遠心力──ッ!!?」
制御不能になった私の身体が一回転し、
ユリシアを吹き飛ばすと同時に、
ギルドの受付を二度目の木っ端微塵に叩き込んだ。
「カウンターがあああッ!!!(二回目)!!!」
ギルド職員の絶叫。
「ごめんッ!それは事故ッ!!」
ドガァァァン!!!
ユリシアはギルドの外まで、派手に吹っ飛んでいった。
──そのとき。
「お姉ちゃーん! 準備できたよー!」
外から、エスト様の声が聞こえた。
(よし、タイミング完璧!)
「あら、ちょうど外に出たじゃない?」
私は口元に笑みを浮かべ、ゆっくりとギルドの外へ歩き出した。
背中の殻が、崩れかけたギルドの出口にギリギリ引っかかった。
無視して力ずくで通った。
ギシッ。
出口の木枠にひびが入った。
知らん。私は振り返らん。
そして、外に出ると──
泥だらけのエスト様がニコニコ。
同じく泥だらけの辰夫が腕組み、辰美は目を輝かせていた。
あぁ、指示通りに動いてくれたみたいね。
「ふはッ!勝ったわこれ!
──さて、後半戦といきましょうか」
(つづく)
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
『”正義”って叫ぶ奴ほど、話が通じない。
だから、まずは殴って黙らせろ。』
解説:
ムダ様の教え。
「正義って叫ばれるとイラッとするから、先に殴っとけ」