テラーノベル
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リビングに穏やかな空気が流れていた。
先ほどまでの緊迫した出来事が嘘のように、皆はそれぞれ席に腰を下ろし、今後について話し合っていた。
龍河は腕を組みながら、どこか引っ掛かっていた疑問を口にする。
「けど、その教団の人間が言ってた
イザナギとイザナミのアラミタマ
ってのが気になるよな・・」
信愛も静かに頷いた。
「私も気になってました」
あの場では状況に追われていたが、今になって思い返してても、やはり聞き慣れない言葉だった。
「でも今まで聞いた事ない言葉だったんで
何の事だかさっぱりで・・・」
その時だった。
二人の会話を聞いていた銚子が、真剣な眼差しで口を開く。
「それは神の側面を指す言葉ね」
信愛は母へ視線を向けた。
「お母さん、知ってるの?」
銚子はゆっくりと頷く。
「荒ぶる魂と書いて『荒魂』」
すると焔垂が思い出したように口を開く。
「それ昔聞いたことあります
神には荒魂とニギミタマってのがあるって」
銚子は説明を続ける。
「和らぐ魂と書いて和魂」
朝陽は首を傾げた。
「アラミタマに・・ニギミタマ?」
銚子は優しく微笑む。
「荒魂は災いをもたらす力の事で
和魂は温和で、恵みをもたらす力のことよ」
皆が真剣な表情で耳を傾ける。
「分かりやすく言えば、神の厳しい
側面を指す言葉が荒魂
神の優しい側面を指す言葉が和魂よ」
さくらは何かを思いついたように尋ねる。
「神の中の飴と鞭みたいな感じですか?」
銚子は小さく笑った。
「そう、そんな感じ」
「お!それ分かりやすい!」
さくらが感心すると、茜も照れくさそうに笑う。
「えへへ、それ程でも」
だが朝陽は、さらに疑問を口にした。
「なら荒魂だけの神とか
和魂だけの神はいないんですか?」
銚子は首を横に振る。
「ええ、そうよ、人間にも優しいだけの人や
厳しいだけの人が居ないのと同じように
荒魂と和魂、どちらも併せ持つ存在それが神なの」
一同は納得したように頷く。
銚子はさらに続けた。
「神は元々人間で、人間には到底実現不可能な偉業を
成し遂げたから神になった、という説もあるから、人間に厳しさと優しさがあるように、神にもそれがあるの」
焔垂は腕を組みながら考え込む。
「なら天縁教団は、イザナギとイザナミの
厳しい側面だけを利用しようとしてるんですかね?」
銚子は静かに視線を落とした。
「そこまでは分からないけど・・・」
そう言いかけた彼女は、一度言葉を切る。
「イザナミとイザナギは、日本を
造ったとされている神々の名前でね」
銚子は穏やかな口調のまま、さらに説明を重ねた。
「彼らは自分の中にある荒魂と和魂を
うまく制御できていたからこそ『国産み』
と呼ばれる創造神になれたとされてるの」
茜は感心したように息を漏らした。
「なるほど・・・」
だが銚子は表情を引き締める。
「もし荒魂か和魂どちらか一方に傾いていたら
創造神どころか、その逆、『破壊神』や
『厄災神』になっていた可能性もあるわね」
その言葉に焔垂が静かに頷く。
「ああ、人間でも優しさに
傾く人もいれば、厳しさだけに傾く人もいる」
少し考え込んだあと、焔垂は銚子へ視線を向けた。
「だから神も、そうなる可能性があるって事ですか?」
「そういう事になるわね・・・」
銚子は迷いなく答えた。
朝陽は腕を組み、思案する。
「天縁教団がやろうとしてる事の詳細は分からないけど
いいことじゃない事は確かって事ですね?」
銚子は静かに目を伏せた。
「そう考えていいと思うわ・・・」
しばらく沈黙が流れる。
その静寂を破ったのは龍河だった。
「それから先の事は、関係者に当たるしか無いって訳か」
銚子は顔を上げる。
「関係者?何かアテがあるんですか?」
龍河は小さく息を吸い込む。
「お母さんは霊貴冥孤という詐欺師をご存知ですか?」
銚子はすぐに頷いた。
「ええ、もちろん、この子たちの活動の
おかげで逮捕された詐欺師の名前ですよね?」
龍河の表情が一段と真剣になる。
「実は色々調べている過程で、その霊貴冥孤が
天縁教団の現役幹部だという事が分かったんです」
その一言に、銚子の目が見開かれた。
「え!?そうだったんですか?」
「ええ・・・」
龍河は静かに頷く。
「俺も教団を調べていて、この情報に
辿り着いた時は度肝を抜かれました」
驚きがまだ残る銚子だったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「ですが信愛から聞きましたが霊貴冥孤は
単身渡米して、精神分析の分野で
博士号まで取得してるんですよね?
そんな人間が、なぜ詐欺なんか・・・」
龍河は首を横に振る。
「それに関しては、いくら調べても
めぼしい情報が出てこなかったので
本人に聞いてみないと詳細は分かりませんが」
一拍置いて、龍河は自分なりの考えを口にした。
「個人的には『資金調達』が
目的だったのではないかと思っています」
「資金調達?」
銚子は首を傾げる。
龍河は腕を組みながら、静かに言葉を続けた。
「天縁教団は過去に、布教と資金調達の一環として行っていた、天縁学園野球部が高野連から除籍処分を言い渡されているんですよ」
重苦しい空気が部屋を包む。
「その一件以降、教団の信者数は軒並み
右肩下がりになっていましたし
資金繰りにも相当頭を抱えていたはずです」
淡々とした口調だったが、その内容には教団の苦しい内情が滲んでいた。
銚子はゆっくりと頷く。
「なるほど・・確かにそれが
理由だとするなら納得できますね」
龍河も小さく頷き返した。
現時点では決定的な証拠こそない。
だが、野球部不祥事を発端とした信者数減少と資金難。
そしてそれに霊貴冥孤の詐欺行為を結びつければ、一本の線としては十分に説明がつく。
部屋には再び静かな沈黙が流れ、誰もが天縁教団の闇の深さを改めて実感していた。
#普通
野々さくら
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44
ありあ
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コメント
1件
×××さん、第251話読みました! 荒魂と和魂の概念、とても面白かったです。神様にも「厳しさと優しさ」の両面があるっていう説明、さくらさんの「飴と鞭」の例えで一気に腑に落ちました。銚子さんの穏やかな口調で語られる神学の話が、逆に教団の闇の深さを際立たせていて……。 霊貴冥孤が現役幹部だったっていう伏線の回収、ここで来たか!って感じでした。野球部の不祥事から資金難、そして詐欺へと繋がる龍河の推理も納得感があります。続きが気になります!