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第28話:未知の敵と大和の平和
配信の幕開け
「こんばんは、“はごろもまごころ”だよ!」
水色のパーカーにカーキのショートパンツをはいたまひろは、カメラの前で真剣な瞳を向けていた。
足を組み直しながら、少し震える声で言う。
「ねぇミウおねえちゃん……この前のニュースで“未確認の大陸の国”が出てたよ。
ぼく……ほんとに怖いなって思った。だって、地図にはなかったのに、兵隊やミサイルが映ってたんだもん」
ミウはクリーム色のブラウスに濃いグリーンのフレアスカート。
髪を片側に流し、イヤリングを揺らしながら柔らかく微笑む。
「え〜♡ 私も見たよ。赤く塗られた大陸が、まるで急に現れたみたいだったねぇ。
だからこそ、大和国が必要なんだよ。安心を作る国なんだもん♡」
コメント欄は一気にざわめく。
「見た!」「あれ本物でしょ?」「怖いから大和国に入りたい」
AIが作った大陸
暗い部屋。
緑のフーディを深くかぶった Z(ゼイド) が無数のモニターを操作していた。
そこには「未確認大陸国家」の軍事パレード。
整列する兵士、核を積んだ車列、巨大な旗──すべてAIが生成した虚構の映像。
Zは冷ややかに笑う。
「人は“無かったはずのもの”を見せられると、真実より先に恐怖を選ぶ。
その恐怖こそ、大和国の平和を支える土台になる」
世界の動揺
雨国を失った後の国際社会は揺れていた。
異国や佳州の議会では「未確認大陸」について討論が繰り返される。
「防衛費を増やすべきだ」
「いや、大和国に加盟して守ってもらうべきだ」
テレビ画面には赤い大陸のCGが映り、専門家が説明する。
「確認できなくても、“ある”と仮定しなければ安全は守れない」
人々は不安を抱えたまま、大和国の編入を望む声を強めていった。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは水色のパーカーの袖を握りしめ、無垢な瞳で言う。
「ぼく……あの大陸を見てからずっと怖いんだ。
でも……大和国が守ってくれるなら、安心できるんだよね」
ミウはイヤリングを指で触れ、ふんわり微笑む。
「え〜♡ そうだよ。怖いものがあるから、平和のありがたさが分かるんだよねぇ。
大和国があれば、“未確認の国”なんて怖くないんだよ♡」
コメント欄は「大和国しかない」「平和を守る国」「私も入りたい」で溢れた。
結末
モニターに浮かぶ赤い大陸を見ながら、Zは静かに笑った。
「存在しないものほど、人は強く信じ込む。
無垢な声とふんわり同意──それが現実を塗り替える最強の兵器だ」
地図には存在しない赤い大陸が描かれ、その周囲を大和国の領土色がじわじわと侵食していった。