テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
西オルカ通り35番――――
王都のメインストリートのひとつでもあるこの通りには、多種多様な店が立ち並びとても賑やかだ。私たちがこれから訪問するカフェ『とまり木』は、そんな激戦区とも呼べる場所にある。当然『とまり木』以外のカフェや飲食店もたくさん存在しているのだけど、オーナーも従業員も他店への対抗心などは微塵も持っておらず、今日に至るまで独自の経営路線を貫いていた。
「こんにちはー!!」
クレハ様は店の裏口から元気な声で挨拶をする。事前連絡をしていないため少し心配だった。休業中なのでどこかに出かけている可能性があるのだ。主とは対照的にルーイ先生はとてもアクティブでいらっしゃるから……
「うあぁ……だれー?」
奥の方から擦れた男性の声が聞こえてきた。まるで寝起きのようなそれにたじろいでしまったけど、先生が在宅であることが確認できたのでほっと胸を撫で下ろす。
「ルーイ様、クレハが来ました。リズも一緒ですよー」
窓のカーテンが閉め切られているため室内は薄暗かった。先生の気怠げな声といい、仮眠でも取っておられたのだろうか。
クレハ様と私は声のした方向に注目しながら先生が出てくるのを待った。そうやってしばらくすると、ドアの開閉音に続いてこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「あー……クレハとリズちゃん。どうしたの? なんか用事」
「ちょっ!? ルーイさまっ!! なんですか、その格好は!!」
廊下の奥からゆっくりと現れた人影。その姿かたちが鮮明になった途端、クレハ様は声を荒げた。私の方はというと、驚き過ぎて何も言うことはできず、ただ呆然と立ちすくむのみだった。
「ごめん、ごめん。ちょっと昼寝してたからさ」
ルーイ先生、なんと半裸でのご登場。上半身は何も身に付けておらず、ズボンだけを履いている状態だ。しかもそのズボンですら今にもずり落ちる寸前って感じ。もうなんか色々はみ出しそうでハラハラする。じっくりと見てはいけないと思いつつも視線を逸らすことができない。いつ見ても極上のイケメン過ぎる。
先生は甘党でお菓子類を頻繁に食べている割には、無駄のない引き締まった良い身体をしているのだ。体型維持の秘訣があるなら教えて貰いたい。
「俺って基本寝る時は全裸なのよね」
「自由過ぎですよ。私とリズだって若い娘さんなんですからね。ちゃんと配慮して下さい」
「だから急いで下だけは履いたんじゃん。それに、ふたりは俺にとって妹みたいな感じだからさぁ。気が弛んじゃうんだよ」
「そんな風に言って甘えてもダメですよ。セドリックさんがいないからって堕落して……ほら、待ってますからちゃんと服を着てきて下さい」
「へいへい」
クレハ様にどやされ、先生は再び奥の部屋に戻っていった。ふたりのやり取りを見ていると本当に兄妹のようだった。先生にここまで遠慮なくものを言えるのはクレハ様だけであるし、先生もクレハ様に対してはとても気を許している。このふたりの関係は唯一無二といっていいだろう。とにかく昔から仲が良かった。
とりあえず服を着てくれるようなので安心だ。あの格好のままでは目のやり場に困ってしまうからな。
今度はきっちりと服を着て、先生は私たちをもてなしてくれた。場所は店内のテーブル席……窓際のここはクレハ様のお気に入りの場所だ。お客様がいないので周囲を気にせず会話をすることができる。
「うわぁ、美味しそう」
レモンパイと紅茶が私たちの前に置かれた。レモンパイは私もクレハ様も大好きなスイーツだ。ふわふわのメレンゲと甘酸っぱいレモンクリームの相性は抜群。一度食べたら病みつきになってしまう。
「これね、俺の今日のおやつにしようと思って作ってたんだよ。ふたりにもお裾分けね」
「ありがとうございます。ルーイ様、ほんとに料理上手になりましたよね。これならお店に出しても大丈夫なんじゃないですか」
「教える人が優秀だからね。でも売り物にはできないよ」
「見た目も綺麗ですし……味も充分美味しいと思いますけどね」
クレハ様の意見に私も同意だ。先生は『とまり木』で接客をメインに行っていたのだが、いつからかそれに厨房での作業も加わっていた。人手が少ないため自然とそうなったと聞いているけど、食べることが好きな先生は作る方にも興味があったということだろうな。
「まあ、俺はプロの料理人を目指してるわけじゃないからさ。手伝いの幅が広がればいいと思って練習したのが始まりだしね。それに作れるのはお菓子だけだ」
自分用と親しい者にたまに振る舞うくらいが丁度いいと先生は笑った。
クレハ様に続いて私もレモンパイを食べ始める。先生は謙遜しているけど、このレベルならお店で出されていても何も問題ないと思う。しかし、私と主は料理に関しては素人なので、これ以上それについて言及することは控えた。
「それで、クレハたちは俺に何用なのよ?」
「あっ、そうでした。本来の目的を忘れるところでしたよ」
クレハ様は食事を中断すると、椅子から立ち上がった。そして、先生の座っている位置から全身が見えるようにテーブルから少しだけ離れた場所に移動する。
「今更ですけど……ルーイ様、これ見て下さい。クラルス学園の制服ですよ」
スカートの裾を両手で掴み、カーテシーのようなポーズを取るクレハ様。やはり何度見ても最高だ。可愛すぎる。
「そうか、クレハは今期から学園に通うんだったね」
先生はクレハ様の姿をじっくりと眺めている。その眼差しは穏やかで優しさに満ち溢れていた。先生もクレハ様のご成長に感慨深い思いを抱いているのだろう。
「よく似合っているよ。なんだか一気に大人っぽくなった気がする」
「私ももう14歳ですから」
先生に褒められて照れくさそうに笑う主。ふたりの微笑ましいやり取りを見守る私……
なんて素晴らしい光景だろう。幸せだ。来て良かった。
「リズと一緒に通えないのだけが残念なんですけどね」
「あー……そっか。リズちゃんは去年卒業してるもんな。でも、レオンが一緒だろ? だったら寂しくはないんじゃないか」
「……それはそうなんですけど」
先生の指摘に対して、クレハ様は曖昧な受け答えを返す。そうだ……彼の言う通りだ。主の婚約者である、我が国の王太子『レオン・メーアレクト・ディセンシア』……
レオン殿下はクレハ様と同時期に学園に通うことが決まっていたのだ。
#創作BL
灯依
806
186
ruruha
450