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バッターは、虚無に戻ってきていた。
耳鳴りの様にまとわりつく囁き声を無視しながら、バッターはゾーン2の上に立った。そして、かに座のカードを取り出す。
すると、バッターの体は吸い込まれるようにゾーン2へと引き寄せられた。
バッターはピンクのメタルと、薄紫の海が煌めく地面に足を付けるや否や、歩き出した。
歩きながら、デーダンから頂戴した針は全て抜き、地面へと放る。
からんからん、と金属が落ちる音が数度響いた。
バッターは、少しして歩くのを止め、上を見上げた。
バッターの視線の先に広がっているのは、辺り一面真っピンクのビル群だった。
少しの間ビルを見上げていると、そのビルたちの中に、ひときわ大きな建物があるのを発見したバッターは、ひとまずそこへ行ってみることにした。
数分後、バッターは、先ほど見た大きな建物の真下に居た。
建物の入り口上部にある看板には、Libraryと書かれている。
ビルだらけのこのゾーンで、一番大きな建物は、まさかまさかの図書館だったのだ。
バッターは、図書館の中に入った。すると、そこには受付の中と外。それと階段の横にそれぞれエルセンがいた。
受付の外のエルセンが、受付の中のエルセンにこっそりと話しかけた。
「ええ。これ以上あの人に本を貸すべきじゃないですよ。彼、ページを本から引きはがしちゃってます。とても危険ですよ」
「ええ。分かりました」
「…じゃあ、僕は上に戻りますね」
エルセンたちは、一通り会話を終えたらしい。受付の外のエルセンは、階段を昇って上階へ消えた。
バッターは、そのエルセンと入れ替わるように受付の中のエルセンに話しかけた。
「…あ、こんにちは。図書館へようこそ。……ええと…上の階には亡霊たちがいるので、今は近寄らない方がいいですよ」
「亡霊だと? …そうか。この建物には亡霊がいるんだな?」
「え、ええと…。は…はい…。…何故そんなことを?」
「俺が連中を滅ぼそう」
バッターは、バットに軽く触れつつ、階段を見ながら言った。
「ほ…滅ぼす? 亡霊を? でも…あー…えー…。分かるでしょう? その、ええと…あなたが怪我をするかも…。……それに、上の階には何もないんです。壁と、本棚と、階段と、それと年老いた猫がいるだけです」
「猫? …。上の階は俺が浄化する」
「あー…うーん…。…いいでしょう…。…分かりました。でも…その、大きい音は出さないでくださいね。…あ、それともう一つ。四階は立ち入り禁止になっています。連中がページを本から引きはがしちゃったので…」
エルセンはそこまで言うと、手元を見つめながら、肩を震わせて呟いた。
「だから僕は、上に行きたくないんだ……きっと、危ないから…」
エルセンの言葉はそこで終わり、バッターは、エルセンを尻目に見ながら階段を上がった。
二階には、数人のエルセンと大量の本棚が置いてある。
すぐに上階へ向かおうとしたバッターだったが、足元に落ちていた紙切れに気づき、足を止めた。
紙にはこう書いてあった。
【ゾーン1、ゾーン2、ゾーン3にて従業員として配属しているエルセンには、恐るべき性質がある。普段は温厚で、つつがなく仕事をこなす彼らだが、精神的に弱ってしまうと、攻撃的な姿へと変貌してしまう(以下バーントとす)。バーントに変貌してしまった彼らをエルセンへと戻す手段はなく、殺害が最も有効な改善策である。また】
紙はここで引き裂かれている。
バッターはまだ続きがあるはずだと思い、紙をポケットへとねじ込んだ。
その後、本棚にある本を読み漁ってみたが、続きと思しき紙は一枚だってなかった。
あったのは、植物の絵が書かれた、タイトルの無い本。
おとぎ話と伝説、というタイトルの本。
解説、というタイトルの、目次しかない本。
E.S.著、というタイトルの本。
タイトルの無く、つたない落書きがある真っ白な本。
ビスマルク、というタイトルの、文字が薄れた本。
わんぱくなこどもたち、というタイトルの、角ばった文字で書かれた本。
それだけだった。
バッターは、本を棚にすべて戻すと、そのまま階段で三階へと移動する。
三階に移動したバッターの目に入ったのは、長い廊下と、四つの部屋の入り口。そして、ブロックに塞がれた四階への階段だった。
バッターは、ブロックの傍に行―こうとした途中、壁に紙が貼られているのを発見した。
「…どうやら、バーントについてではないようだな」
バッターは壁からページをはがした。
ページには文字がびっしりと記されていた。だが、その中央には大きなスペードのクイーンのスタンプが押されており、文字の一部は潰れて読めなくなっている。
ページを壁に戻してから、バッターはそれぞれの部屋の探索をしてみることにした。
すると、一つの部屋以外には、ページが貼られているのを発見した。
それぞれに押されているスタンプは、ダイヤの5
クローバーの3だ。
バッターは、このページに押されているスタンプの数字化、記号が重要なのではと考察した。
だが、部屋や壁。床、天井までくまなく探しても、番号を記入するための物は設置されていなかった。
「……受付に居たエルセンなら、何か知っているかもしれないな」
バッターは、背後から襲ってきた亡霊の顔面をブチ抜きながら、そう考えた。
階段を2つ下って一階に戻り、エルセンに話しかける。
「四階にはどうやったら行ける」
「…え。……ええ? よ、四階ですか? あ、あそこは立ち入り禁止なんですが…。………じ、じゃあ、海の傍にいる人からページを取り返してきてくれませんか? そしたら、教えてあげます…」
「そうか」
バッターは言うや否や、図書館から出て行った。
それから、バッターは色々なところを彷徨いに彷徨った。
そして見つけたショッピングモールの前に、思いがけない発言をするエルセンがいた。
「ショッピングモールは亡霊でいっぱいなんです。物見遊山のつもりで来たんですが、怖くてたまりませんよ」
なんと。あの図書館以外にも、ショッピングモールが亡霊によって制圧されてしまっているらしい。
バッターは、迷わずショッピングモールの中へ潜入した。
「! おぉっと兄弟。なんでここにいるんだよ。まずは図書館のなぞ解きをしないとだろ? 開店準備だってまだできてないのによ」
…ザッカリーがいた。
レジの裏をごそごそと漁りながら、バッターの方に顔だけ向けている。
「…海を探している」
「……ええ? 海だって? おいおい、バッターさんよ。まーさか海岸沿いで黄昏たくなったわけじゃーないよな?」
「……本のページを奪った者を探している」
バッターが言い直すと、ザッカリーは、冗談だよ。と手を前に出して誤魔化しながら返答する。
「ああー、あいつな。お得意じゃないけど、何回か商売したから顔は覚えてるぜ。…つっても、エルセンなんてみんな同じ顔してんだけどな」
「そいつはどこだ」
「どこってそりゃあ海だよ。…なんつーくだらないジョークはいらないよな。仕方無い。二度目のお得意のよしみだ。教えてやる」
ザッカリーはレジ裏を漁るのをやめ、レジに肘をついてバッターを見上げた。
「図書館から出て、すぐに左に曲がんな。そんで、少し行くと曲がり角があるから、そこを行ってみな。すっと、すーぐに海が見えるだろうさ」
「…感謝する」
「………。おいおい。…おいおいおい。珍しいこともあるもんだ。こりゃ、もうすぐ団地に亡霊の大群でも来るかな」
ザッカリーはそう軽口を叩きながら、レジの奥へと消えて行った。
一方のバッターは、すぐに振り返ってショッピングモールから出た。
ショッピングモールも亡霊で溢れているらしいが、まずは図書館が先だ。
バッターは、ザッカリーに言われた通りに進み、そしてやっと海にたどり着いた。
そこには、エルセンが3人いた。海を見ているのが2人と。道の端で勇ましく立っているのが1人。
バッターはとりあえず、1人の方へ話しかけることにした。
「僕に怖いものなんて何にもないんです。怖がらなくても済む方法が分かったんですよ。だから、もうビクビクしてないんです。どんな方法か知りたいですか? じゃあ、ちょっと耳を貸してください。そうしたらお教えしますよ…。あなたがビクビクしてなければね」
バッターはエルセンの口に耳を寄せた。
するとエルセンは、隙間を手で覆いながらこっそりとバッターに話した。
「このページが僕を導いてくれたんです。今はもう、何も怖くない。恐怖から自由になりたいですか? 100クレジット頂ければ、あなたにこのページを差し上げましょう」
「…分かった。そのページを貰おう」
バッターは、ポケットから100クレジットぴったり取り出し、エルセンの手に置いた。ザッカリーに装備を売っておいたことが幸いしたらしい。
クレジットを確認した瞬間、エルセンはページをさっさとバッターに渡した。
「どうぞ。これでページはあなたの物です」
エルセンは言い終えると、バッターから視線を外して呟いた。
「…やっとあの危ないページを手放せた…。これでもうやっと、何も怖くないぞ」
バッターはそれを聞かなかった振りして、来た道を戻った。
その途中にページを見てみると、三階で見たページと同じように、中央に大きなハートの8のスタンプが押されていた。
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本の内容は、「OFF 参考資料集」という小説にて取り扱っています。
私のプロフィールからどうぞ
コメント
1件
バッターが新しいゾーンに足を踏み入れて、図書館のエルセンたちの妙に生々しい会話が印象的でした。「ページを引きはがす危険な利用者」の話から、「バーント」の設定が明かされる紙切れまで、ゾーンの不気味なルールが少しずつ見えてきてゾクゾクしますね。海辺のエルセンから100クレジットでページを買う場面も、バッターの淡々とした距離感がらしくて好きです。ザッカリーの再登場も嬉しかった。次が気になります!