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「まずフィニス。幻影に惑われず、よく観察して本体を見つけましたね。ニティアへの指示も良かったです」
そう言って笑うジャヌス。
「先生……もうこれは勘弁してくれ」
そう言って小刀を頭の上でくるくると小さく振り回した。
「さて……ニティア」
「……はい」
「あなたは魔力に頼りすぎです。それに、出力制限をしていたとしても、あの霧を晴らす方法なんていくらでもありましたよ?」
「え?」
「下を温めて上を冷やせば?」
「上昇気流……」
「御名答。出力を制限していても、量に関しての制限はしていません。なので、小さな炎をたくさん下に。そして水や氷を上空に精製する……あるいは、倒れている木々を浮遊魔法で振り回すだけでも、本体を視認できる程度まで、霧を晴らすことはできたでしょう」
何もできず、唇を強く噛んでいるニティア。そんなニティアの口に回復魔法を当てながらジャヌスが続ける。
「あなたの地頭の良さは私が1番知っています。予想外の出来事が起こった時、今一度落ち着いてみてください。ニティア……あなたには、どんな困難だって乗り越えられる力がありますから」
回復を終えたジャヌスが、ニティアの頭を優しく撫でた。
⸻
夜。
みんなで簡単な食事をとり、ニティアとフィニスの2人は自分の部屋へと戻っていった。
テーブルの上に無造作に置かれている、街で購入した魔道具を見ているジャヌス。
その中から、真ん中の白い石が鈍く輝く、錆びた小さな指輪を取り出した。
「こんなところにあるとはね……」
指輪を上にかざし、魔力をそっと込める。
錆が落ち、みるみるうちに元の輝きを取り戻す指輪。ジャヌスは指輪の内側を覗き込む……
【Saga. Janus】の刻印が刻まれていた。
「まだ……懲りもなく生きていますよ」
そう呟き、小さく笑うジャヌス。
テーブルのカップを手に取り、紅茶を一口飲んだ後。その指輪を大切そうにハンカチに包み、読みかけの魔導書の上に置く。
もう一度そのハンカチの上に手を添えたジャヌスは、そのまま部屋を後にしていった。
⸻
翌朝。
朝食を取り終わり、ジャヌスは紅茶で一息……
「ジャヌスさん。昨日みたいな状況に遭遇したとき、例えば……」
「先生!今日の修行についてなんだけど……」
……できなかった。
昨日の実戦が2人にとって、いい刺激になったのだろう。
そう思いながら、紅茶を口に運ぼうとしたジャヌスの視界が……真っ黒に染まる……
パリーン!
「……」
真っ黒に染まった視界が元に戻る。
落下するカップと床に飛び散った紅茶。そしてあたり一面には紅茶の香りが漂っていた。
「ジャヌスさん、大丈夫ですか?」
「先生?」
2人が心配そうにジャヌスの顔を覗き込む。
「……すみません、考え事をしていたら手が滑ってしまいました」
そう言いながら、割れたカップを拾うジャヌス。
「そうそう。今日ですが……大切な来客が来るのを忘れていまして……」
カップの欠片を拾い終えたジャヌスが、2人に顔を向ける。
「積もる話もあるでしょうし、すみませんが……2人は村まで買い出しをお願いできますか?」
「別にいいですけど」
「って言うか、ここに来客とか珍しいな」
「だから私もすっかり忘れていましたよ」
笑いながら、買い出しに必要なものを手短に伝えるジャヌス。
「では、準備が出来次第お願いしますね。あと……」
「??」
「ん?」
「飛行魔法は禁止です。ゆっくり……周りを見てきてください」
「それも経験でしたよね(笑)わかりました」
「まぁ荷物もそんなに多く無いしな」
2人が目を合わせ、そのまま準備のために部屋を出ていった。
魔導書の上。ハンカチに包まれた指輪を手にしたジャヌスがくすりと笑う。
「そういうことですか……」
⸻
玄関の前に立つジャヌスと、外から玄関の方を見ている2人。
「そんじゃ行きますかね」
「行ってきます!」
そう言い、振り返る2人。
「フィニス!」
いつもより、少しだけ大きな声を出すジャヌス。その声に気づき、振り返る2人。
「ニティアのこと、頼みますね」
優しく微笑むジャヌス。
「子守は任せなさい!」
「何が子守よ!!」
クスッと笑うジャヌス。
「それから、ニティア」
じっと優しくニティアを見つめるジャヌス。
「あなたなら、きっと大丈夫です」
「え?ん〜……は、はい!」
一瞬首を傾げたニティアが元気な返事をした。
「それでは、気をつけて」
「りょーかい!」
「はい!」
再び振り返り歩き始める2人。
優しい笑顔のまま。
2人の姿が見えなくなるまで……
見送り続けるジャヌスであった。
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緑山 紫苑