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きなこもち
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#サレ妻
都築七美
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「ごめん……一花」
「え……?」
一花が戸惑って見つめると、奈緒は泣きそうに顔を歪めた。
しばらく言葉を探すように俯いてから、小さく息を吐く。
「私、あの時……もっとちゃんと警察に相談した方がいいって言えばよかった」
一花は目を瞬かせた。
「一花が怖がってたのに、“まだ何もされてないなら”なんて……。まさか、こんなことになるなんて思わなくて」
「奈緒のせいじゃないよ」
一花はすぐに首を振った。
「私だって、こんなことになるなんて思ってなかった。奈緒が謝ることじゃないよ」
「……一花」
奈緒は何かを堪えるように唇を結ぶと、それ以上は何も言わず、小さく頷いた。
その様子を見ながら、一花はふと悠真のことを気にしているだろうと思い口を開こうとしたが、先に奈緒が尋ねる。
「悠真くんは……?」
「まだ、意識が戻らなくて」
「そっか……」
奈緒の表情が曇った。
一花もそれ以上は言葉を続けられず、病室に短い沈黙が落ちる。
しばらくして、奈緒が時計を確認して立ち上がった。
「今日はもう帰るね。また来るから」
「うん。来てくれてありがとう」
奈緒が病室を出ようとしたところで、一花はベッドのそばにいた俊介へ顔を向けた。
「俊介、奈緒を下まで送ってあげて」
「え?」
俊介と奈緒が、一瞬だけ顔を見合わせる。
奈緒はすぐに笑って首を振った。
「大丈夫だよ。そこまでしてもらわなくても」
「……いや、送るよ」
俊介は立ち上がると、奈緒とともに病室を出ていった。
一花は、そんな二人の背中を静かに見送った。
その後も、一花は毎日悠真のもとへ通い続けた。
ガラス越しに眠る息子を見つめながら、あの夜のことを思い出さない日はなかった。
一花がそっとガラスへ手を添えていると、いつの間にか隣に神崎が立っていた。
「悠真くんのことですが」
一花が振り向くと、神崎はガラスの向こうへ視線を向けたまま続ける。
「傷の状態を見る限り、火災の中で誰かが身体を覆うようにして守っていた可能性が高いです」
一花の胸が詰まった。
「……母です」
神崎が一花を見る。
「母が、悠真を庇っていました」
炎の中で、悠真を抱きしめるようにして覆いかぶさっていた春子の姿が蘇る。
一花は込み上げてくるものを堪えるように唇を噛んだ。
「そうでしたか」
神崎は再び悠真へ視線を戻した。
「おそらく、お母様が守ってくれたことで、悠真くんは致命的な傷を免れた。そして、そのあと一花さんが炎の中から連れ出した」
一花は黙ったまま、眠る悠真を見つめる。
「どちらか一人だけでは、悠真くんは助からなかったと思います」
その言葉を聞いた瞬間、炎の中で悠真を抱きしめ、自分の身体を盾にしていた春子の姿が鮮明に蘇った。
『悠真を守って』
あのとき母から託された言葉が、胸の奥で響く。
『そして……生きて』
「お母さん……」
名前を呼んだ途端、堪えていた涙が一気に溢れ出した。
春子が守ってくれたから、悠真は生きている。そして自分も、母が命を懸けて守った悠真を炎の中から連れ出すことができた。
それでも、春子を失った悲しみが消えるわけではない。
母が最後の瞬間まで自分たちのことだけを考えていたのだと思うほど、胸が締めつけられた。
「私……お母さんを置いて……」
声が震え、その先を続けることができない。
力が抜けるようにその場へしゃがみ込むと、一花は顔を伏せて泣いた。
神崎は何も言わなかった。
無理に慰めることもなく、ただ少し離れた場所で、一花が泣き止むまで静かにそばにいた。
コメント
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「託された命」第12話、読みました……。春子さんが悠真を守って、一花さんがその想いを引き継いで連れ出したんだなって思うと、胸がぎゅっとなる。神崎さんの「どちらか一人だけでは助からなかった」って言葉、すごく重くて。最後に一花さんが泣き崩れて、神崎さんが静かにそばにいてくれた場面、好きです。慰めの言葉じゃなくて、ただいるって選択、本当に優しい🌙