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――どうして、どうしてこんなことになっているんだ。
2日前から世界がおかしくなった。
魔泉から遠く離れているはずの街中に突然、淀んだ魔素が充満し、邪魔が自然発生し始めたのだ。
「ここも魔泉になってるわ……!」
「やっぱり魔素の流れがおかしくなっているんだよ!」
この2日で見たのは街だけではなかった。魔泉でも何でもないはずの場所が突然、魔泉へと変わる。
安全だと確信できる場所がなく、怯えるしかない。この世の地獄と言っていい。
「くっ、こんな街中じゃ無闇に魔法も撃てないっていうのに! ……ユウヒっ!?」
邪魔と逃げる人々が入り混じり、苛ついた声を上げるヒバナを横から抜き去った私はその集団の中に入り込む。
「【シャドウ・スパイク】……!」
人混みの中に紛れ込んだ数十体にも及ぶ邪魔の足元から一斉に飛び出した影がその全てを貫く。
全ては救えない。それでも――。
「やるしかないじゃんかぁっ!」
だってもう、私たちしかいないんだから。
――女神様はもう……この世界にいないのだから。
そうだ、ミネティーナ様は死んだのだ。
その報せを聞いた時、まるで自分の足場が音を立ながら崩れ落ちていくような錯覚を覚えた。
ミネティーナ様が言っていたように邪神を打ち倒して、平和な日常をみんなと一緒に歩いていける。
そんな希望が一瞬のうちに絶望へと変わったのだ。
彼女の訃報は人々にも大きな影響を与えた。でも彼らは決して絶望はしなかった。
何時しか、救世主として実際に世界を駆け回っていた私への信頼が女神に対する信頼と同等まで膨れ上がってしまっていたからだ。
だから女神を失った人々は救世主である私に縋る。救いを求める。最後の希望を抱く。
――やめてよ。私はもう立っていることすらやっとだというのに、そんな多くの物を背負わせないでよ。
今、何をすることが正しいのかが分からないのにそれでも戦い続けないといけない。
私は救世主で……太陽でなければならないのだから。彼らを見捨てる選択肢なんて私が取れるはずもなかった。
「こんなところで何やってんだ、ユウヒちゃん! 教団からのお達しだ! 至急ニュンフェハイムに戻って来いってな!」
必死に戦場を駆け回り、敵を倒す私に向かって鳥の従魔を引き連れた男が声を荒げている。
襲われている街はここだけではない。でも今まさに襲われている街を放棄して、ニュンフェハイムに戻れるわけがないじゃないか。
「カミュさん……でもっ!」
「ここで終わりもしない戦いを続けていても意味がねぇ! ニュンフェハイムをはじめ、世界のあちこちでここと同じことが起きてんだよ! それでも皆、必死に戦いながら救世主のことを信じて待ってんだ!」
――皆、救世主を信じている?
「その通りですわ!」
その声の主は自称転生者のリーヴ・イエローテイルさん。
たった少しの時間しか一緒に過ごさなかったあなたも、救世主である私にその希望を全て賭けるのか。
「あなたは救世主! 世界を救う使命を帯びた者であるのなら、最後までその使命を全うするべきですわ! この街はあたくしたちに任せて、さっさとお行きなさいな!」
行ってどうすればいい。ミネティーナ様もいないのに何ができる。
邪神を倒して来いとでもいうつもりなのか。ここまで追い詰められているのにまだ私は頑張らなくてはいけないのか。
ここで燻っていたとしても、時間を掛ければ掛けるほど人が死ぬのは分かっている。
でも世界を救うために最短で駆け抜けることが本当に正しい選択だとでも言うのか。
それが私の――みんなの追い求めた太陽としての選択だと言うのだろうか。
――わからない。
「オレは最後までアンタらを信じるぜ、救世主!」
「救世主様、どうか私たちにあなたのことを信じさせてください!」
ただの身勝手な言葉だ。
でも重い……重すぎるんだよ。どうして皆、私に託すんだ。
「ユウヒちゃんにスライムちゃんたち! 君たちは俺たちに残された最後の希望なんだ!」
「あたくしたちの想いは常に貴女方と共にありますわよ! だから何も恐れず、突っ走りなさいな!」
たったそれだけ。たったそれだけの言葉の為に私はここまで頑張ってきたというのか。
思い返せばいつもそうだ。どれだけ頑張ったところで誰も私のそばに居てくれようともしなかった。
なら私のやってきたことって何の意味もないじゃないか。
「もう! こうなったら私たちの手でさっさと終わらせてやろうじゃない!」
「すぐコウカねぇたちと合流しよう! ユウヒちゃんとアンヤちゃんも……ユウヒちゃん?」
「ちょっと……ユウヒ?」
――それじゃあ私、何のために頑張ってきたんだろう。何がしたかったんだろう。
『ますたー……?』
分からない、分からないよ。なんで私は戦っているんだ。なんで私が戦わなくちゃならないんだ。
本当はこんなことをしたいわけじゃなかった。
私はただ、誰かにそばにいてほしかっただけなのに。
◇
スレイプニルに揺られながら、私たちはただひたすら聖都ニュンフェハイムへの道を駆け抜けていた。
「あの……ますたー?」
前に座っていたアンヤがこちらに顔を向けている。
「何かな、アンヤ」
「……ますたーが考えていたこと……」
血の気が引いた。
そうだ。この子とハーモニクスをしていたのなら、全部筒抜けになっていたじゃないか。
――でもまだ大丈夫。失念していたせいか、少々疑念を持たれてしまったかもしれないがまだ隠し通せる。
頑張ってこの場を切り抜けて、後はしっかりと仮面を被り直していけばいい。
私はみんなが一緒にいたいと思える太陽であり続けるんだ。
「あはは……心配かけてごめんね。色々とあったせいで混乱してただけだから。もう大丈夫、私が何をするべきか……何をしたいかハッキリと分かったよ。私たちを信じてくれている人たちの為に、あともう少しだけ頑張ろう?」
「何も、大丈夫じゃない……! だってますたーは――」
何かを言い掛けるアンヤの姿に私の頭は真っ白になりかけていた。
だがそれは前を走っていたダンゴの声に反応したアンヤが、正面に向き直ったことで事なきを得る。
――しかし、その安堵は一瞬にして絶望へと変貌を遂げたのだ。
「何か見えるよ!」
「え~! またゴーレム~!?」
遥か前方、私たちと同じ方角に進路を取っていたのは巨大ゴーレムだったのだ。
「アレが向かう先にはニュンフェハイムがありますよね……なら狙いは大聖堂でしょうか。放っておくわけにはいかなくなりましたね」
「こっちは急いでいるっていうのに……!」
私たちは急がなければならない。そのために私たちは送り出されたのだから。
――そうして少しずつゴーレムとの距離が縮まり、その全貌が見え始める。
大きさは前に戦った巨大ゴーレムと同じぐらいだが、足が6本あるのが大きな違いか。
「すぐにケリをつけよう! アンヤちゃんがゴーレムのコアを見つけて、コウカねぇが一撃でコアを貫く!」
「ちょっと待って~! 誰か戦ってる~……というか~逃げてます~!」
ノドカが言ったようにゴーレムの前方を走る数十台に上る馬車群があった。
「こんなところでどうして!?」
「どうしても何も、逃げ出さなきゃいけないくらい追い詰められている場所もあるってことでしょ?」
驚愕するダンゴにヒバナが冷静な声で自分の推論を述べる。
そうして私たちが全速力で向かっているうちに馬車2台が今、ゴーレムの打ち付けた拳によって圧し潰された。
ダンゴはキッとゴーレムを睨みつける。
「アイツ……早く行かないと!」
「今はこれが全力だよ。だから落ち着いて。あたしたちがやることは変わらないよ」
そうだ、変わらない。私たちは最速で駆け抜けるだけだ。
「マスター! 手伝ってください!」
「……【ハーモニック・アンサンブル】!」
コウカの要求に応え、彼女とのデュオ・ハーモニクス状態となった私は地上に降り立った。
『【ライトニング・インパルス】で一気に片を付けます!』
「うん」
それが一番早くて確実だ。巨大ゴーレムの装甲は硬く、生半可な攻撃は効果がないのは分かり切っている。
その点【ライトニング・インパルス】なら、発動までに非常に長い時間を要するものの、それに見合った最強の貫通力で一撃のもとにコアまで貫けるはずなのだ。
「……ますたー、コウカ。弱点はあそこ」
アンヤが眷属スキル《アナリシス》で割り出したコアの位置を指差しで教えてくれた。
以前戦ったものと同じで胴体の中心が弱点だ。
「私たちが注意を引くわ!」
「主様たちは狙わせないよ!」
ヒバナとシズクがノドカを引き連れて、私たちから少し離れた場所に陣取る。
そしてダンゴとアンヤは積極的に相手の動きを阻害しようと、ゴーレムの後を追いかけるように突撃していった。
――本当に頼りになる。
こんなに苦しい時でも私のそばにいてくれるのはやっぱりこの子たちなんだ。
『マスター。一閃です、それでわたしたちの道を切り開きましょう』
私とコウカは霊器“ライングランツ”を上段に構え、重心を低くする。
後は体の中で魔力を圧縮し続けるだけだ。
みんなもゴーレムの誘導は上手く行っているらしい。
だがダンゴとヒバナ、シズクの一斉攻撃により立ち止まったゴーレムが振り返ると、その周囲に無数の術式が展開される。
「わわっ!? 撃ってきた!」
「多い~……けど~任せてください~!」
「ボクだってこの程度で怯みはしないよっ! 《グランディオーソ》!」
魔法弾の嵐を降らせてくるゴーレムだが、その程度の魔法を連発したところでノドカの風の結界を抜けはしない。
それを視認したゴーレムが次の行動へと移る。鉄拳を振り下ろし、風の結界を突破してきたのだ。
「誰か~お願い~!」
風の結界ではどれだけ頑張ってもあの攻撃を防ぎきることはできない。
ゴーレムの動きを察知したダンゴが戻ってくる素振りを見せる。
「ダンゴちゃんとアンヤちゃんは気にせず行って! ひーちゃん!」
「2人で押し返すわよ!」
「わたくしも~お手伝いします~!」
背中を突き合わせた密着状態で杖を構えた2人が迫る拳に向かって二重の螺旋を放った。ノドカの歌が乗せられたそれらはゴーレムの拳と拮抗する。
「崩れろッ!」
その間にゴーレムの股下に潜り込んだダンゴが足場を崩しに掛かる。
渾身の力が込められた一撃が地面の一部を消し飛ばしたことで、ゴーレムの脚が傾きかけたが――それとは別の脚が踏ん張ることで体勢を維持された。
「なっ……コイツ、体勢が崩れない!」
「……跳んで、ダンゴ!」
「っ……! 呼び捨てじゃないだろ!?」
文句を言いつつ地を蹴って跳躍したダンゴの直下に影が生まれ、ダンゴの足がその影を踏み込む。
そしてしなやかに沈み込んだ影は反発し、その反動で小さな体を空高く跳び上がらせた。
「圧し潰せ! 【ガイア・インパクト】!」
眷属スキル《グランディオーソ》で上乗せした質量による最大の攻撃だ。ゴーレムの体が地面へと沈み始める。
しかしそれも最初だけで次第に拮抗し始め、両手も使うことで遂にはダンゴを押し返した。
「パワーも上がってるってこと?」
「脚が多いから、衝撃が分散されちゃったのもあると思う」
敵が攻撃を中断したことであの2人も余裕ができたらしく、敵を分析しているようだ。
あのゴーレムは新型なだけあって、前回と同じようにはいかない。多脚型にした理由はちゃんとあるということだ。
だがそれは既に考慮済みである。だからこそ私とコウカはこうして着々と準備を進めている。
「でも相変わらず残念な頭脳ね」
「改良するならまずはもう少し賢くするべきだったね」
攻撃してくる相手を優先的に狙うのか、ヒバナたちや私が完全に視界から外れたおかげで余裕を持って魔力を溜め続けられる。
「それにしても遅くない? ハーモニクスしたんだったら、もう少し早くできないの?」
「ユウヒちゃん、もしかしてあんまり集中できていないの? ……って、あんまり話しかけないほうがいいね」
正直な話、ハーモニクスの調子が悪い。不和を起こしている訳ではないのだが、どうにもコウカと歩調が合わない。
心の中に浮かび上がってこようとする邪魔なものは頑張って抑えつけているはずなのに。
『抑えつけている……?』
これじゃ、駄目だ。余計なものは消し去ろう。
『……………………』
私は敢えて心を鎮め、余計な思考を消し去る。
「――攻撃っ!? どこから……なっ、逃げたんじゃ……」
「何で戻って来てんのよ!」
今は何も見なくていい。
「救世主殿を援護する!」
「いつまでも逃げてられっか!」
「アタシたちだって世界を救う手助けはしてあげないとね!」
煩わしい。今はこの鋭くなった聴覚が疎ましい。
「ノドカちゃん! あの人たちに余計なことはしないでって伝えて!」
「シズ、砲門が!」
「ッ!」
魔力の圧縮がそろそろ完了する。
そのおかげで思考が少しずつ戻り始めた。
何やら騒がしいのはさっき逃げていた馬車に乗っていた人たちが、一斉にゴーレムを攻撃しているからか。
そしてゴーレムはあの胴体に内蔵されていた巨大な砲門を開いて、馬車群に狙いを付けている。
旧型に比べてチャージが速いのか。既に発射タイミングを迎えているらしい。
でもこちらもあと少しで終わる。
『マスター、このままじゃ彼らが危ない!』
――仕方がないか。
彼らは犠牲になってしまうだろうが仕方がない。もうどんな道でも突き進むしかない私は、この最大のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
『――えっ?』
「――あ」
――私、何を考えたの?
『マス、ター……?』
ハーモニクスが強烈な不和を生み出しているせいで体が重くなり、魔力も制御できない。
私とコウカのやろうとしていたことが全く違うことだから。
コウカは彼らを助けようとしていた。
――なら……私は?
『どうして……彼らを……』
呆然としたようなコウカの声。
バレた。全部気付かれた。全部筒抜けだった。
嫌われる。捨てられる。みんながいなくなってしまう。そんなの嫌だ。
「ちがうの……」
ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう。こんなのちがう。わたしじゃない。ちがう、ちがうの。さっきのはちがうの。ちがうの、ちがう……。
◇◇◇
「マスター……? マスター!」
「コウカお姉さま~……?」
「ノドカ、マスターが!」
緊迫とした状況の中で突然血相を変えて、叫び始めたユウヒに気付いたのはノドカだった。
彼女はユウヒの様子から、瞬時にその体の主導権を握っているのがコウカだと察知した。
――只事ではない。
直感でそう理解し、ノドカはすぐにでもユウヒに寄り添いたいという衝動に襲われる。
だが状況がそれを許してはくれない。
「ダメっ、間に合わない!」
「ノドカちゃん! 結界!」
「っ、はい~!」
今にも熱線が砲門から解き放たれようとしていたのだ。
それを相殺しようにも、ヒバナたちの現在地では有効な射角が取れない。だから風の結界を使い、少しでも時間稼ぎをと考えたのだ。
ノドカが射線上に結界を重ねていくと、遂に熱線が照射された。
迸る熱線を風の結界が阻もうとするが、その凄まじい勢いを殺し切れずに若干の時間稼ぎにしかならない。
「うぅ~! もう限界~……!」
ヒバナとシズクも駆けつけようとしていたものの、間に合わない。あと少しではあったが、ここが限界だ。
「くっ、悪いけど……」
「どうしようもないよね……」
彼女たちも仕方がないかと諦めようとした――その時だった。
射線上に地上から吹き飛ばされたような勢いで、小さな存在が割り込んできたのだ。
「ダンゴ!?」
巨大な盾で熱線をどうにか防ごうとするダンゴであったが、足場のない空中ではただその勢いに押されるだけだった。
「ダンゴちゃん! 魔力防御!」
そんなダンゴの背中を全力の水魔法と火魔法が襲う。
2人の姉に後押しされる形で彼女の盾と熱線は拮抗した。
「アンヤ! 行っけぇぇ!」
ゴーレムの足元には依然としてアンヤがいる。
彼女は助走を付けて跳躍すると軽やかな足取りでゴーレムの体を伝いながら上へと登っていく。
そして両手で構えた霊器“月影”で砲門に展開されていた術式を直接、断ち切った。
――術式の崩壊とともに熱線が消え去る。
「よし、今だよ!」
「何やってるのよ、ユウヒ! ……ユウヒじゃないの!?」
シズクとヒバナが同時にユウヒのいる方へと振り返るが、そこで初めて2人は異変を察知した。
「ヒバナ、シズク! マスターが!」
「っ……何が起こってるかは分からないけど、今はユウヒちゃんの為にもアレを倒すの!」
シズクに叱咤されたコウカは表情に陰を残しながらもユウヒの体で剣を構え直し、魔力を再構築していく。
そして再び魔法弾の嵐を振りまくゴーレムの攻撃をコウカ以外の5人が防ぐ中、その魔法が完成した。
「【ライトニング・インパルス】!」
――戦場に雷光が瞬いた。
◇
黄昏時。オレンジ色に照らされた丘の上は静かなものだった。私の鼓膜を震わせるものは時折吹く風の音だけだ。
思えば、こんなに寂しいのは久しぶりかも。でも、それでも私は1人でいたかった。
……いや、それは嘘だな。本当はあの子達の顔が見られなかっただけだ。失望の目を向けられるのが怖かっただけなんだ。
――もう終わりかな。
胸元からペンダントを取り出し、目と同じ高さまで掲げる。そして役目を終えて沈みゆく太陽と掲げたペンダントを重ねた。
ペンダント越しには夕日が見える。世界が終わりに近づいているときにも変わらない、綺麗な夕日だった。
でもだからこそ、自分の心を咎められているような気持ちになってしまう。
もう無理に演じることには疲れてしまった。
やっぱり、やっぱり私は――。
「……太陽にはなれなかったよ」
こんなに醜くて、汚れた私が太陽になるなんてできっこなかったんだ。
つい零れ出てしまった言葉。
ただの独り言のつもりだったのに、私ではない別の人物からの声が返ってくる。
「マスター」
「ッ! ……コウカ」
どんな顔をするべきか分からなかったが、それでも勇気を振り絞って体ごと彼女の声がした方に顔を向けた私は、コウカとその後ろに続くみんなの姿を見つけた。
「……みんな……」
思い詰めたようにも見える真剣な表情のコウカを見て、私は固唾を呑む。
それでもまだ心のどこかで優しく受け止めてくることを期待していた。
ゆっくりと開かれたその口から紡がれる温かい言葉を――。
「もう、こんな関係は終わりにしましょう」
ピタリ、と風が吹き止む。
「――え?」
私の世界から全ての色が消えた。